第4話 立ち上がる

 幽霊の話ではないが。


 近所のおじいちゃんのお話をひとつ。


 このおじいちゃんが、まだ子どもだった頃のことだ。

 当時は子どもといえど、地域において「役割」があったようだ。

 年長者が年少者をまとめ、その年長者が大人とやり取りをして「役割」を果たす。

 いまでも私の地区の子供会はかなり自治会と密接で、いろんな行事があるが、昔は更に多かった。


 その子どもたちの「役割」のひとつに。


 「さんまいさん」の火の番があった。

 「さんまいさん」とは、このあたりの方言で「墓地」のことを指す。


 当時、村には火葬場が無く、遺体は村の「さんまいさん」で自治会員によって焼いていたのだそうだ。

 火葬場のような高温が出せるわけではないので、遺体を木々で覆い、骨になるまでひたすら焼き続ける。

 子どもたちは、その間、長い竹を持たされて「さんまいさん」で待機だ。


 なんのためか。

 それは、延焼を防ぐため。

 遺体を墓地の空き地で燃やし続けるため、枯れ草を伝って火が地面を伸びていくのだ。

 それを防ぐため、竹の棒で地面を叩いて火を消す。


 そしてもう一つ。


「仏さんが、立ち上がるんや」

 おじいちゃんは、にやりと笑ってそう私に教えてくれた。


 焼いている最中に、足裏を地面につけて直立不動の姿勢のまま、本当に遺体が立ち上がるのだそうだ。


 理由は知らない。

 ただ、結構な頻度で、炎に包まれた遺体が立ち上がるという。

 その遺体を。

 子どもたちは、竹の棒で叩いて寝かせるのだという。


「最初見た時は、ほんま、びっくりするで」

 おじいちゃんは、かんらかんら、と笑いながら教えてくれた。


 幽霊話ではないけれど。

 私は夜の墓地の漆黒の闇の中、炎を纏った遺体が立ち上がるそのさまを想像して、ぞっとする。

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