第2話 明るいと、出る

 H君は高校生だ。

 今時珍しく、携帯も持っていなければゲーム機も自宅に無い。

 そんな彼がはまっているのは、「ラジオ」だった。

 夜遅くまで起きてしていることと言えば、友達とのラインではなく、「ラジオを聞くこと」。学校の先生は「平成生まれなのに、昭和みたいだな」と苦笑するという。


 そんな彼がある日。

 深夜のラジオを布団の中で聴いていた。

 テスト前だったこともあり、仰向けになって寝転がり、教科書を眺めて、ラジオはイヤホンで聴いていたらしい。目的の番組が終了し、さてもうそろそろ寝ようか、と寝転んだまま室内照明のリモコンに手を伸ばした。

 だが、いつもある場所にリモコンが無い。

 H君は溜息をつき、ごろんとうつ伏せに寝返ってリモコンを探そうとして。


 ぎょっとした。


 部屋の隅に、背広を着た太った男が膝を抱えて座っているのだ。


 一瞬、泥棒だと思って、床に手を突いて上半身を起こす。拍子に、近くにあった室内照明のリモコンに手があたり、室内が暗くなる。しまった、と思って部屋の隅を見ると、背広の男がいない。

『……見間違いか?』 

 若干安堵して、Hくんは再度、リモコンを使って照明をつける。


「うわっ! いるしっ」

 思わず声が漏れた。確かにいるのだ。

 室内の隅で膝を抱えて蹲り、おっさんがH君を見ている。


 立ち上がった瞬間に、今度はリモコンを踏んだ。また暗転。

 すると。

 おっさんの姿が消える。


 H君は怖くなって、部屋を飛び出し、隣の兄の部屋のの扉を乱暴に叩いた。

「なんだよ」

 不満顔で現れる兄にしがみつき、「電気をつけると、おっさんが現れる」と自分でもわけの分からない説明を必死にしたらしい。

「おっさんって」

 兄は笑いながら、H君の部屋に入り、照明をつけた。


 そこには。

 もう、誰も居なかったと言う。


「幽霊って、普通、電気を消したら現れるんじゃないですか? なに、あのおっさん。とち狂ってんじゃねぇよ」

 H君は不満そうに私にそう言った。

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