身近にあった【本当にあった怖い話】を集めてみた

武州青嵐(さくら青嵐)

第1話 Sさんのこども

 Sさんの子どもは二人。上が息子さんで、下は娘さんだ。

 息子さんはようやく今年の春に幼稚園に通い始め、娘さんはまだ3歳。

 新築の家を購入する時に二人の子ども部屋は作ったものの、今のところ使用されたことは無い。眠るとき、一人になることを子どもたちが嫌がり、結局夫婦の寝室に布団を並べて家族皆で眠っている。


 その日も、Sさんはいつものように子どもたちと並んで布団で眠っていた。


 ふと、扉が開く音で目が醒めたのだという。

 Sさんは体を横たえたまま、首だけ起こして扉を見た。リビングで夜更かしをしていた夫が寝室に来たのだと思ったのだ。


 だが。

 薄く開いた扉から覗く姿は、やけに小さい。

 廊下の間接照明を背後から受け、その姿は暗く沈んで、ぼんやりと立ち上る陽炎のように見えたと言う。


「〇ちゃん?」

 Sさんはその小さな体から、てっきり自分の娘だと思った。

 気付かずに一人でトイレに行き、戻って来たのだろう、と。


「えらいね。こっちにおいで」

 そう言って、Sさんは目を閉じ、再び枕に頭を埋めた。小柄な影が、室内に入ってくる気配があり、Sさんはわずかに掛け布団を持ち上げてやる。するり、とその小柄な体は迷い無く布団の中に忍び込んできた。Sさんは薄く目を開き、自分の布団に入って来たその子どもを見る。


 そして。

 思った。

 何故、この子は、洋服を着ているのだ、と。


 Sさんに背を向けて横たわるその小柄な体は、洗いざらしの白いブラウスと、スカートの肩紐らしいものが見えた。

 顔は見えないが、肩口で切りそろえたような髪は、汚れてよれて、頭皮脂のせいで髪束ができている。その髪の隙間からうっすらと覗く首は、垢で汚れていた。全体的に、つん、と古い油のような匂いがしたという。

 うちの子じゃない。

 Sさんはそう思った。


 うちの子は、今日もお風呂に入り、パジャマを着ているはずだ。

 いや、そもそも。

 大きいのだ。

 布団にもぐりこんだこの子は、どう見ても、小学生ぐらいに見える。


 Sさんはあわてて首をねじり、背後を見る。

 そこには。

 Sさんの娘さんが寝息を立てて眠っていた。


 誰だ、これは。


 そう思った瞬間。体が動かなくなった。

 ゆっくりと。

 ゆっくりと、向かいの子どもが、Sさんに向き合おうと寝返りを打ち始める。Sさんは目を瞑り、必死に思ったのだそうだ。


 ごめんなさい、私はあなたのお母さんになれません。私の子はここにいる二人だけなんです。


 そう念じ続け、そっと目を開くと。

 その子どもは姿を消していたそうだ。


 布団の中にもぐりこむことはその後なかったが、夜間の廊下やトイレでしばらく出会うことがあったらしい。


 ただ、Sさん家が室内犬を飼い始めた途端。

 この子どもは姿を消したと言う。

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