逢えてよかった(第三稿)課題付き


 いつもの場所で逢いましょう?


 今でこそそんなことが言えるけれど、私たちの最初のデートは散々だった。


 二人、別々の銅像の前でモンモンと待ち続け、イライラする指で端末をタップした。目で見てイライラ。耳にあてて焦る。知らず早口になるけど、怒ってるんじゃない。あなたもきっとそうだった。


「今どこにいるの!?」


「銅像の前だよ」


「遅いわよ」


「君こそどこにいるんだ」


 お互いを責めて、後で笑った――。本当に現代人? って。

 あのとき笑えてよかった。だから今もこうして一緒にいられるのよね。

 私はいつものようにあなたの腕をとって、歩きはじめる。きっとこれが私の今の精一杯。

 恥ずかしいけど私はキスなんてしたことない。たとえ迫られたって応じられない。だってキスの仕方なんて知らないんだから。

 私がほてる顔をうつむけていると、ふいに頬にやさしいぬくもりが触れた。別れたばかりの帰り道。デートの終わりに。そう、私って初心だった。

 降ってきた幸福に、私はただ驚いて。あなたの顔を見れずに駅の階段をかけのぼったっけ。


 それからあなたは私に触れてこなくなった。


「キスしていい?」「手、つないでもいい?」


 そんなふうに承諾を求めて距離をはかっている。

 どんだけなの! 中学生じゃあないんだから、私だって!

 だけど、私にとっては、あのほっぺにキスが初めてだったから。でもそんなこと言えない。恥ずかしい。

 少し私はためらうけれど、今度はいいよって言おうかな、なんて一人で考えたりもしてる。

 照れてちゃだめよ。そんなふうにも思う。

 考えると頬がポーッとしちゃう。そんなんじゃダメだってば。

 キスくらいでなによ! キスくらい……そういえばあなたは慣れた風だった。


 あなたは知らないオンナノコと一緒のプリクラ、手帳にいっぱい持っていて、それを私に見せてくる。私にどうしろっていうの? どういうつもり?

 ヤキモチ焼かせたらいいの? 嫉妬させたらいいの? それともモテるのねって言われたいの?

 愛を試すなら、私はきっぱり別れる。潔癖だから。


 あなたを知る前なら、きっと可能だわ。

 あなたのお友達を紹介される前なら、できる。

 あなたのご両親に引き合わされる前なら、まだ平気。

 だけどあなたの部屋へ行ったときだったんだもの!

 もう引き返せない。なあなあにできない。破局よ!


「あ、これ妹の手帳だった」


 何故かしら。そんなことをいうから、しゃっくりが出たわ。



               END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る