穴の中の君(第三稿)課題付き
土手の横。
うさぎ穴の中で君を見つけた。
「なにしてるの?」
君はこたえない。
ああそうだった。君は秘密が好き。っていってもかなり恥ずかしい状況だよ?
空は雨雲がたちこめて、しばらくそうしていたら必ず浸水で溺れるよ。保証したっていい。なにしてるのさ。
うん、まあなにかの実験をしているんだろう。そうだよね?
それじゃあ、とボクも手伝いをかって出る。
君は了解のサイン。
だけどあれ? 見回したけど姿が見えない。
どこへ行ったの? まるでわからない。穴の中を移動してるみたいに。
ボクは自分の足の下まで見たのにまるで見つからなかった。どうしたことだ。
「どーん!」
と君は言った。同時に天地が回るボク。ひっくりかえってあっけにとられ、しばらく動けなく……。
ひどいよ、後ろからつき飛ばすなんて。
それとも仕返しかい?
ボクが君の居場所をあばいたから? そりゃそうか。
だったら、食事もとらずに埋まってたらよかったんだ君なんか。
ボクは帰ろうとする。ああ、なんと言われようとそうすべきだったんだ、最初から。
ポツリ、雨粒が降ってきた。
だめだ。帰ろう。ほらこっちへ来て。一緒に、帰ろう。
ボクのコートはせまいから、二人くっつきあって。ちょっと胸が高鳴るシチュエーション。ちょっとね、こう、相手が君でさえなかったらの話。うそだよ。うそ! 本当は本当。
雨、やまないなあ。分厚い雲からつぎつぎ降ってくる。寒気がするから公園の遊具の中に隠れたけど、きっとそれは仕方のない成り行きで。うんまあ、仕方ない。
君はまたそこいらの砂場で穴ぼこに収まりかえってる。なんでだ……穴が好きだなあ。
もう帰るんだって言ってるだろ?
穴なんかにハマってる場合じゃないだろ?
思わず笑って、手をのばす。
汚れた頬をぬぐい、腕をとる。
さあ、帰ろう。みんな待ってる。
「いい。私にはあなたがいればいい」
耳を疑った。なんだって? とボクは頭を叩く。耳の穴までほじったけど、やっぱり気のせいかな。いや、そうだね。そうに決まってるよ。
「ずっとここにいたいって聞こえたけど、ボクはつきあわないよ」
帰っちゃうもんね。
「……!」
君はしゅんとして出てきた。少し笑っちゃったよ。
END
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