第7話 ファミレスにて
「あの時わたしが『こうちゃん』って呼んだら、ふたり同時に振り向いたのよね」
片平さんが思い出し笑いしながらそう答えた。
だんだん広瀬さんも4人で話すのになじんできた頃、僕たちが知り合ったきっかけを訊かれたのだった。
「入学式の日だったよな。
「そうだったね、なんかそれでそのまま3人で体育館に行ったんだよね」
「不思議よねぇ。全然接点なさそうなふたりなのに、すっかり仲良くなっちゃって」
「バンドでオリジナル曲やりたいって思ってた時に、コータローの言葉のセンスがすごくしっくりきたんだよな」
「中学時代は本も音楽も話が通じる友だちがいなかったんだけど、ちょっと話しただけでコーヘイにはちゃんと通じてるから嬉しかったんだよね」
「片平さんは定禅寺くんと元々知り合いだったの?」
「京香でいいわよ。わたしが転校してきた小学生の頃以来の付き合いね。コイツ、昔のヤンキーみたいに愛想悪いくせに面倒見はいいっていう面倒くさい性格でね、遊び仲間に入れてもらってからずっと、かな」
「そういう片平さんも、『一見さんお断り』みたいな空気醸し出して面倒くさそうな人っぽいわりに、一度仲良くなるとけっこう気安いよね」
「そういうコータローくんも、いくら言っても『苗字にさんづけ呼び』やめないあたり頑固者よね」
「なんかいいなぁ、こういう距離感……」
「何言ってんだよ? もういずみも俺たちの友だちだろ」
「そういうことね。さあ、明日からの予定、空けておいてちょうだい」
「ははは。そういえば、始業式の日もこんな感じだったなぁ」
そして明日また4人で会う約束をして僕たちは別れたんだ。
家に帰るとあおばさんが開口一番「お弁当どうだった!?」って訊いてきた。
「とっても美味しかったですよ。あと、すごいんです! 隣の席に座った女の子と弁当の中身がまるで一緒だったんですよ。青椒肉絲に赤ピーマンも混ぜてるところまで同じで! それで今までほとんど話をしたことなかったんですけど一気に仲良くなって、さっきまでコーヘイたちと4人でずっとファミレスでおしゃべりしてて、明日また4人で会うことになったです」
まだ気分が高揚していた僕は、途中であおばさんの表情がこわばったことに気がつかなかった。
晩ごはんの後、皿洗いは僕がやることにして。
お風呂の後、宿題をやっている僕の横にあおばさんが缶ビールと本を持って来てちょこんと座って。
読んでる本は『マイナス・ゼロ』に変わっていて。
昨日よりも顔がちょっと近いような気がして、僕の腕に何か柔らかいものがあたっているような気もしたんだけれど、僕は何も気づかないふりをしたんだ。
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