第6話 弁当の中身は……

 翌朝、僕が目を覚ました時にはもうあおばさんは朝ごはんの支度と弁当を作り終えていた。

 台所にはまだいい匂いが漂っていたけれど、弁当箱の中身を訊いても「内緒」と教えてはくれなかった。


「たぶんテストが終わったらコーヘイたちと遊んでくるから、帰りは少し遅くなると思います。夕飯時には帰ってくると思うんで今日は晩ごはんの支度お願いしてもいいですか」


「もちろん! テスト頑張ってね♪」


 昨晩のことは何もなかったように、妙に機嫌がいいあおばさんに見送られて僕は久しぶりの学校へと向かった。



 テストは普段の席順ではなく、出席番号順でもなく、受験票の番号順に座ることになっているようだった。そのわりにクラス単位なのだから受験番号も出席番号順にすればいいのにと思ったけれど、別に何か困るわけでもないし今更言っても仕方がないので指定された席についた。

 片平さんはずいぶん向こうの席で、コーヘイは今回のテストは受けないと言っていた。

 僕の隣はあまり話をしたことのない広瀬ひろせいずみさんという女子だった。

 僕自身はあまりクラスで目立つ方ではないけれど、コーヘイつながりで片平さんとも話をするからイケてる系の女子とは意外と話をする機会があって、逆に本来僕のカウンターパート的な地味系女子とは接点がないのだった。


 席につく時に「おはよう」と挨拶したきり、特に話をするでもなく昼休みになった。

 コーヘイ以外にも「まだ2年だし」と今回の業者テストをパスしてる連中は意外と多くて、僕はひとりで弁当箱を開けた。

 ふと隣から視線を感じた気がして広瀬さんの方を向くと、パッと視線をそらされた。

 間が悪いというか手持ち無沙汰というか、どう表現していいのかわからないバツの悪さで何となく広瀬さんの弁当箱を見て「?」と思った。

 逆に広瀬さんが僕の視線に気づいて、「!」という顔をした。


「私たちの今日のお弁当、メニューが一緒ですよね!」


 なぜ同級生に敬語を使う? これがスクールカーストってやつか?


「宮城くんのお弁当、私のと中身が一緒ですよね!! 青椒肉絲にプチトマト、ブロッコリーにタコさんウィンナー! 青椒肉絲に赤ピーマンも混ぜてるとこまで一緒! みんな私の大好物なんです。すごい偶然ですね!!」


「そう……だね」


 なんか広瀬さんの敬語なのにすごいテンションに引き気味の僕。

 でも、おかげでその分冷静になれて。


「同じクラスなんだから敬語はやめてよ。青椒肉絲は牛肉? 豚肉? ちなみに僕のは豚肉みたいだけど」


「私のもです……ですじゃなくって、えっと……私のも……だよ?」


「ははは。なんで疑問形? でもそこまで一緒ってすごい偶然だね」


「本来は牛肉使うものらしいですよ、本場中国では」


「へぇ。あ、また『です』になった」


「てへ、ごめんなさい」


 てへって……。

 それから僕たちはとりとめのない話をしながら昼ごはんを食べて。

 テストが終わった後、僕は広瀬さんを誘ってみた。


「この後、コーヘイたちと遊ぶっていうか、ファミレスで駄弁る予定なんだけど、よかったら一緒に来ない?」


「え!? 定禅寺くんたちと!」


「うん、っていうかコーヘイと片平さんに僕がお邪魔虫な感じなんで、一緒に来てくれると助かる、みたいな」


「でも、定禅寺くんとか片平さんとか、私じゃ地味すぎてちょっと釣り合いが……」


「僕だってけっこう地味な方だと思うんだけど」


「いえ、だって宮城くんはその人たちと普通に話せてるじゃないですか。だから私、いつもすごいなって思ってて」


「僕もたまたまきっかけがあったからなんだけどね。

 それに『リア充』もあのレベルになると、うまく僕らにも話を振ってくれたりして話しやすいんだよ」


「それじゃあ、あまり遅くならないようなら」


 僕たちは連れ立って片平さんの席へと向かった。

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