第84話 お揃いの制服
「それでミカド。秘策ってミカドの加護の事だよね?」
「あぁ、実はちょっと前から色々考えてた物が有るんだ」
満腹食堂で朝飯を食べた俺達は3日後に控えた論功行賞式の準備の為、一旦家に帰って来た。 文字通り満腹になった俺達は家で机を囲み、セシルが淹れてくれた紅茶を楽しんでいる。
「どういう事‥‥‥?」
「俺には想像した物を形に出来る加護がある事はこの前説明しただろ?」
「あぁ! それで式典用の服を召喚するんですね!」
「そう言う事。それに前々から考えていたイメージも有るから直ぐに召喚出来る!」
俺はギルドの級がルーク級に上がった事で、自分を隊長とした部隊が作れる様になった。
実はその時から、俺が部隊を作ったら部隊の皆で揃いの制服が着れたら良いなと考えて、内緒で部隊の制服のデザインを考えていたのだ。
今回はそれを召喚する良い機会だ。
「へぇ! どんな服なんだ?」
「ちょっと待ってろ〜」
急かすレーヴェを窘めつつ、俺は目を瞑り考えていた制服のデザインを頭の中で思い浮かべた。
ポゥ‥‥‥ と、目の前の机が光に包まれる。 やがて光が消えると、机の上には人数分の帽子や上着、ワイシャツにネクタイ、ベストとコルセット、ズボンやロングブーツ更にはベルトが鎮座していた。
「どうだ! 我ながら良いデザインだと思うんだけど」
「わぁ! カッコ良いねコレ!」
「はい! オシャレです!」
「うぉお! かっけぇえ!!」
「うん、可愛い‥‥‥ 」
現れた制服のデザインに満足しつつ、上着を1つ手に取った俺は得意げにセシル達に見せつける。
詳しくこれらの見た目を説明すると‥‥‥
まず帽子だが、これは警察官等が被っている帽子をイメージしてデザインした物と、【略帽】と呼ばれ被るのではなく、頭に乗せる様に着用する形の帽子の2種類を召喚した。
2つとも黒を基調として、縁を銀の糸で刺繍している。
この2種類の帽子には隻眼の狼を象ったエンブレムがはめ込まれている。
このエンブレムは、俺がギルドに入ろうと志すキッカケとなったヴァイスヴォルフ‥‥‥ ルディに敬意を称し、あの時の気持ちを忘れない様にと言う気持ちを込めてイメージした。
この警察官等が被る様な帽子は俺が被り、セシル達女性陣には略帽タイプの帽子を被ってもらう。
これは男女で違うデザインにした方が良い意味で差別化出来るし、略帽タイプの帽子なら頭に獣耳が生えているレーヴェでも着用出来ると思ったからだ。
次に白いワイシャツと黒いネクタイだが、これは至って普通のワイシャツとネクタイだから特に詳しく説明する事は無い。
次はワイシャツの上から着るベストとコルセットだ。このベストとコルセットは濃い灰色で黒いボタンが5つ付いている。
俺はこのベストを、セシル達女性陣にはコルセットを着て貰おうと考えている。
何故女性陣はコルセットなのかと言うと‥‥‥ 男の俺はまだしも、ベストだとセシルやドラル、レーヴェの体の一部が大変な事になると思ったからだ。
なみにこの灰色のコルセットはサスペンダーと一体型になっており、肩から下げられる様になっている。
上着は帽子と同様に黒を基調として、これも帽子同様縁を銀色の糸で刺繍してある。
この上着は燕尾服とナチスドイツのSS黒服を足して2で割った様な見た目をしており、銀色のボタンが4つ付いていて裾が膝下まで有るのが特徴だ。
裏地は赤で、表面の黒色とのコントラストが我ながらカッコ良いと思う。
それとプラスして、今回この服は論功行賞式と言う名の式典で着る事になるので、この上着には豪華さを演出する為に、両肩には肩章と右肩には取り外し可能な飾緒がセットになっている。
この肩章の正式名称はエポーレットと呼ばれる物で、肩側は上着に直接縫い付けてあるが、襟側は縫われておらず上着に付けてあるボタンを外す事で楽に飾緒等の着脱できる様に出来ている。
飾緒とは今も軍隊等で使われる装飾品の1つで、俺が召喚した物は右肩から右胸にかけて吊るされるタイプの物だ。
この飾緒は2本の太い銀色の紐を捻って作ってある。
ズボンは乗馬ズボンと呼ばれるズボンを参考にして、太ももの部分が膨らみ膝から下はキュッと引き締まった形をしている。
このズボンは制帽や上着とは違い、白を基調として両サイドに黒いラインを縫い込んだ。
全身真っ黒なのもそれはそれでかっこいいが、濃淡がハッキリ分かれていた方が俺的にはカッコ良いと思うね。うん。
更に今回は全身コーディネートという事で靴も一緒に召喚した。
召喚した靴は膝下までスッポリと入るロングブーツで、足首の所に銀色のプレートを付けてみた。
その他にも上着の上から腰回りに付けるベルトも召喚してある。これは太刀等の武器をぶら下げる為と言う意味もあるが、個人的にカッコ良いと思ったから召喚した。
あぁそうさ!
これは俺の趣味てんこ盛りの制服さ!
何てったって、レベルが40になった事で頭の中でイメージすればそれを寸分違わず召喚出来る様になったんだ!
こんな素晴らしい能力が有るなら有効活用しない手は無いだろう!
それにしても‥‥‥ うん‥‥‥ 実物を見て見るとやっぱりカッコ良い。
厨二的だと言われるかもしれないが、カッコ良い物はカッコ良い。
完全に俺の趣味てんこ盛りのこの制服だったが、セシル達にも好評で嬉しい限りだ。
「ふふん! そうだろ?んじゃ、最後にコイツだ!」
「これは‥‥‥ 」
ついつい調子に乗ってしまった感が否めないが、俺は追加である物を召喚した。
「サーベル?」
マリアが言う様に、俺が追加で召喚した物は黒と白コントラストが映えるサーベルだった。 刃渡りは70センチで全長は1メートル程。
鞘の部分には先程召喚したベルトから下げられる様に、ベストに固定する為の提げ革具が付いてある。このサーベルには全体的に細かくトライバル柄の模様が刻まれており、高級感を演出する良い小道具になるだろう。
いや〜 自分の思い浮かべた物がその通りに現れるって良いね。
レベル40を超えて本当に良かった。
ニヤニヤが止まらん。
「すげぇ! すげぇよミカド! 超カッコ良い!!」
「さすがレーヴェ! このカッコ良さが分かるか!」
「おうよ! なぁなぁ! これ着ても良いか!?」
「私も着て見たい‥‥‥ 」
「わ、私も良いですか?」
「おぉ良いぞ良いぞ。俺の目算で召喚したからサイズが合うか不安だったからな。
試着してみて感想を聞かせてくれよ」
「わかった。それじゃ私達は着替えて来るね? さ、行くよ皆〜 」
そう言うとセシルを先頭に其々召喚した衣服を持って浴室の方へ消えていった。
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数分後‥‥‥
「おぉぉ〜!! 皆凄く似合ってるぞ!」
「えへへ、そうかな?」
「ふふっ。ありがとうございます」
「ん、ありがと‥‥‥ 」
「どうだミカド! 僕カッコ良いか?」
「最高にカッコ良いぞレーヴェ!」
「そっか〜 うへへ〜」
「サイズは大丈夫だったか?」
「うん! 皆ピッタリだったよ」
浴室から戻って来たセシル達を見て思わず声を上げてしまった。黒い制服を纏ったセシル達女性陣は雰囲気こそ温かいが、ピシッとした黒い制服のお陰でとても凛々しく見える。
セシル、ドラル、レーヴェ、マリアは完璧に制服を着こなしていた。
「ミカドもカッコ良いよ! 良く似合ってる」
「そうか? ありがとう」
実は俺も我慢出来ずにセシル達が浴室に向かった直後、早速召喚した制服を着てサーベルを腰に付けたベルトからぶら下げてた。
気分が高揚する所の話ではない。
高揚し過ぎで顔の緩みが治らない程だ。
「この服が有れば3日後の論功行賞式も大丈夫だね!」
「はい! まさかこんな良い服を着れるなんて思ってなかったです!」
「僕もだよ! あぁ‥‥‥ 本当カッコ良いな、これ」
「これを着てると気分が引き締まる気がする‥‥‥」
皆は身に纏った服を見ながら笑みを浮かべている。特にレーヴェはこの制服をとても気に入ってくれたらしく、俺に負けず劣らずだらしない顔をしていた。
レーヴェは少し男っぽい性格だし、銃とかにも人一倍興味津々だったから何かと俺と趣味が合うのかも知れない。
何はともあれ、これで3日後に控えた論功行賞式の用意は完了した。
後は当日、これを着てペンドラゴに向かうだけだ。
クゥン‥‥‥
「ん? なんだロルフ、そんな寂しそうな声出して」
論功行賞式用の制服を召喚し終わり、一息付いていると俺の傍に居たロルフが寂しそうな声を漏らし、俺の足に擦り寄ってきた。
「ミカド‥‥‥ ロルフだけ仲間外れは可哀想」
「仲間外れ? あぁ、なるほどね」
マリアの言葉を聞きハッとした。
はしゃぐ俺達を見て、ロルフは仲間外れにされたと思ったんだな。
よし、それなら‥‥‥
「悪かったなロルフ。別に仲間外れにしてた訳じゃないんだ許してくれ」
ワゥ‥‥‥
「ほら、お前にも専用の服を召喚してやるからな!」
ロルフに謝罪しながら頭を撫でる。
するとロルフは甘える様に俺の手に頭を押し付けてきた。
可愛いな。よし、それじゃ早速ロルフ用の衣装も召喚しよう。
まぁ例えロルフ用の衣装を召喚したとしても、3日後の論功行賞式に連れて行く訳ではない。これは仲間外れにされたと思い込んでしまったロルフの機嫌を直す為に召喚するのだ。
ポゥ‥‥‥
直様ロルフ用の衣装のデザインをイメージすると、室内はまた眩い光に包まれた。
▼▼▼▼▼▼▼▼
ワォォオオン!!
「良かったなロルフ! 俺達とお揃いだぜ」
「ん、ロルフも似合ってる‥‥‥」
「良かったねロルフ〜」
ワウ!
俺は直様ロルフ用の衣装を召喚し、早速着せてあげた。 俺がロルフ様に召喚した物は4本の足に付ける黒い鉄の臑当に大きく太い真っ黒な首輪。 そして頭から鼻先を覆う犬用の仮面だ。
足に付ける黒い臑当と首輪にはサーベルと同じ様に模様が描かれ豪華さを醸し出し、仮面には俺達が被る制帽に付いている物と同じ太陽のエンブレムが施されている。
完全にお揃いという訳にはいかなかったけど、ロルフは満足しているし、まぁ良いだろう。
今後ロルフにもこう言った服が必要になるかも知れないと俺は割り切る事にした。
ひとまず、今度こそ論功行賞式の用意は終わった。3日後が楽しみだ。
俺はお揃いの制服を着て楽しそうに笑いあうセシル達を眺めながら、ぬるくなった紅茶を口に運んだ。
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そして月日は瞬く間に過ぎ去り、あっという間に論功行賞式当日になった。
一昨々日ラルキア王国軍のハルが持って来てくれた論功行賞式の招待状には、今日の12:00までにペンドラゴに来て欲しいと書いてあったから、移動で2時間弱かかる事を考慮し余裕を持って俺やセシル達は06:00には起きていた。
目を覚ました俺達はまだ少し暗い森の中でちょっとだけ銃の構え方の訓練をこなし、朝ご飯を食べる。
論功行賞式と言う大層な名前の式典当日という事で無意識の内に緊張してしたのか、皆普段よりも食事のペースは遅かったと思う。
「っしゃ! そろそろ出発するぞ!」
「うん!」
「はい!」
「おう!」
「了解‥‥‥ 」
ヴァウ!!
何時もより時間をかけて朝ご飯を食べ終えた俺は、緊張を吹き飛ばす様に声を張り上げ、一昨々日召喚したばかりの真新しい制服に袖を通す。
我ながらこの制服は何度見てもカッコ良い。
コレを着ると気持ちが引き締まる。
「皆着替えたな? 出発だ!」
「「「「はい!」」」」
セシル達の準備が終わった事を確認した俺は、ロルフも一緒に一旦ノースラント村へ向かう。
論功行賞式に参加するだけなら家から直接ペンドラゴに向かえば良いのだが、ノースラント村のギルド支部には俺達がペンドラゴから帰る際、第7駐屯地のカリーナさんから借りた馬達を預けている。
なのでこの預けた馬達を引き取りつつ、そのまま引き取った馬達に乗ってペンドラゴに向かう事にしたのだ。 これならペンドラゴにも早く着けるし、ロルフをミラ達に預けられてカリーナさんに借りた馬も返す事が出来る。一石三鳥だと判断した。
まぁ 帰りは徒歩になるけど、この際仕方ない。
何はともあれ、俺達は黒い制服を身に纏いサーベルを携えてノースラント村へ向け出発した。
「おはようミラ、アンナ」
「「「「おはようございます」」」」
「おぉ、ミカド達か。おはよう」
「おはようございますミカド様! あっカッコ良い服ですね! 副支部長から聞きましたよ〜 それが論功行賞式用の制服ですか?」
ノースラントのギルド支部に着くと、大分原型を取り戻した支部の前にミラとアンナが居た。
日曜日の早朝だから周囲にギルド職員や組員の姿は無く、辺りは遠くから聞こえる鳥の囀りと木々の擦れ合う音しか聞こえなかった。
「はい! ミカドが用意してくれたんです」
「ミカド様、良いセンスですね!」
静寂に包まれたノースラント村にセシルの楽しげな声が広がっていく。アンナはこの制服の意味をミラから聞いているらしい。
うんうん、アンナもこの制服のカッコ良さが分かってくれるか。なんか嬉しくなるな。
「中々様になっているじゃないか! 皆似合ってるぞ。馬達を引き取りに来たのか?」
「ありがとうミラ。ん、その通り。ペンドラゴに行くからな」
「うんうん、それだとついでに姉さんの所に馬も返せるしな」
「そういう事」
「わかった。アンナ、ミカド達を馬の所に連れて行ってやれ」
「わかりました」
「ん、頼む」
「あ、それとミカド。1つ言付けを頼みたい」
「ん? 何だ?」
「姉さんに会ったら変な事を言いふらさない様に釘を刺しておいてくれ。
何だったら、私に変な噂が立った瞬間姉さんを殺して私も死ぬと付け加えてもらいたい」
「あ、はい‥‥‥ 」
口角は上を向いているが目が全く笑っていないミラからカリーナさんへの抗議を頼まれてしまった。
加えてミラからは尋常じゃない程の殺気が滲み出ている。 何故これ程の殺気を出せるのか。
ちょっとミラのやらかした事に興味が出たから、チャンスが有ったらカリーナさんに聞いてみよう。
「あ、そうだ。それと何度もすまないけどまたロルフの面倒を見てくれないか?
出来るだけ早く戻って来る様にはするけど、もしかしたらペンドラゴで1泊するかも知れないから」
「うむ、心得た。それよりロルフが身に付けている首輪もミカド達とお揃いなのだな」
「あぁ、用意してやって着せたんだけど、凄く気に入ったのか脱がせようとしたら怒るから注意してくれよ?」
ガウ!
ミラがニヤニヤしながらロルフの方を見つめる。そう、ロルフは一昨々日に召喚してやった首輪や仮面をずっと着けたままなのだ。
それを着けたままじゃ寝にくいだろうと何度か脱がせようとしたのだが、仮面や首輪にちょっとでも触れると短剣の如き犬歯を見せつけながら唸るもんだから、ずっと着せたままにしていた。
余程気に入ってくれたのか。召喚した俺が言うのもなんだけど、動きにくくないのかな?
「おう。それじゃロルフ大人しくしてるんだぞ?」
クゥン‥‥‥
ロルフの事をミラに説明しつつ、首輪に触れない様にロルフの喉元を撫でる。
ロルフは寂しそうな声を出したが、魔獣のロルフを人が沢山いるペンドラゴまで連れて行く訳にはいかない。
ここは心を鬼にして、ロルフには留守番を頼むより他無い。
「ロルフちゃんは任せて下さい。さ、預かってた馬は此方に居ますよ」
「おう!」
フンッと元気に話すアンナに引きつられ、俺達は馬が待っている所に向かった。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼
「よしよし、またよろしく頼むぞ」
ヒヒィン!
「それでは行ってらっしゃいませミカド様! セシル様! ドラル様! レーヴェ様! マリア様!」
「おう! 行ってくる!」
「はい! ロルフの事はお願いします!」
「行ってきます!」
「行ってくるぜ!」
「行ってきます‥‥‥」
預かってもらっていた馬に跨り、ロルフのサラサラとした毛とは違う少し硬い黒馬の鬣を撫でた俺は、先頭を切って馬を走らせた。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼
「ふぅ、どうどう。さて、ペンドラゴの近くに着いたけどこの後はどこに行けば良いんだっけ」
時刻は09:30
韋駄天の様に馬で森を駆け抜けた俺達は、ペンドラゴから少し離れた小高い丘の上に到着した。この分だと指定された時間には余裕で間に合いそうだ。
「手紙に待ち合わせ場所とか書いてないの?」
「確か書いてあったと思う。えっと、第1城下街の西側にある【第9駐屯地】って所に集まる様に書いてあるな。
場所は‥‥‥お、ここから真っ直ぐの所みたいだな」
「ここから真っ直ぐの第9駐屯地だな? 早く行こうぜ!」
「あ、こらレーヴェ待ちなさい!」
「私達も急いで追わないと‥‥‥」
「そうだね! 急ごう?」
「ったく、しょうがねぇな‥‥‥おい! 待てよレーヴェ!」
手紙に書かれている集合地点をセシル達に告げると、レーヴェが1人先に駆け出した。
俺は先走るレーヴェの後を追おうと、跨った馬の腹を軽く蹴った。
「やっと来たか〜 遅ぇぞ皆?」
「レーヴェとその馬が速すぎるんだよ。んで、ここが第9駐屯地か‥‥‥」
「見た目は第7駐屯地と同じ様な感じですね」
「うん、でも門番が居ない‥‥‥」
「そうだね、ねぇミカド本当にここで良いの?」
「間違って無いはずだけど‥‥‥」
先走るレーヴェを全速力で追っていると、追いつく頃には門の上に『第9駐屯地』と描かれた看板が誇らしく掲げる集合地点の第9駐屯地前に着いてしまった。
だが、問題が1つ。
この第9駐屯地の門は固く閉ざされていた。
この門の向こうから人の話し声が聞こえるから、向こう側には人が居る事は分かるけど‥‥‥ ちょっと不安になって来たな。
とりあえず確かめてみるとしよう。
「お〜い! 誰か居るか〜!」
「何用でしょうか?」
俺は無礼を承知で閉ざされ門を強めにノックした。 すると静かに門が開き、向こうから軍の制服を纏った男性が姿を見せた。
この男性の制服の右肩には9の文字が刻まれているから、この男性は第9駐屯地所属の軍人だと言う事が分かった。
「あぁ、良かった。俺達は論功行賞式に招待されたミカド・サイオンジとその仲間だ」
「おぉお! 貴方がミカド様でしたか! お話は伺っております。さ、集合時間には少し早いですがどうぞこちらへ」
人が出て来た事に安堵しつつ、俺がゼルベル陛下から貰った手紙を姿を見せた男性に見せると、この男性はとても朗らかな笑みを浮かべた。
うん。どうやらここが論功行賞式の集合地点、第9駐屯地で間違い無いみたいだ。
俺達はこの第9駐屯地の軍人さんに促されるまま、駐屯地の中へ足を踏み入れた。
「ん? おぉ〜! ミカドの兄ちゃん達じゃねぇか!」
「数日ぶりだな〜!」
「何だ何だ。兄ちゃん達イカす格好してるじゃねぇか!」
「シュターク! クリーガ! アル!」
「お久しぶりですクリーガさん達!」
「うんうん。セシルの嬢ちゃん達も元気そうだな」
第9駐屯地の軍人さんに案内され駐屯地の中心部にある広場に行くと、そこには派手な赤い飾り羽の付いた帽子を被ったシュターク達第7駐屯地の面々が揃っていた。
「シュターク達がここに居るって事は、シュターク達も論功行賞式に?」
「おう! ベルガス反乱の時ラルキア城前での戦闘で反乱軍鎮圧に貢献したからな!」
「そう言う兄ちゃん達も論功行賞式に招待されたんだろう? 話は聞いてるぜ」
「アル達も知ってたのか。あぁ。3日前に論功行賞式の招待状を貰ってさ。
この服も盛大な式典らしいから、皆でお揃いの物を用意したんだ」
「なるほどな、似合ってるじゃねぇか皆!」
「ありがとうございます!」
「へへ〜 照れるぜ」
「ん‥‥‥ 」
「ふふっ、好評で良かったねミカド?」
「お? この服ミカドの兄ちゃんが用意したのか?」
「へぇ! スゲェな」
「あら、ミカドちゃん! 着いたのね〜 」
「カリーナさん!」
見知った顔を見つけ、安心して雑談していると白馬を巧みに操るカリーナさんが第9駐屯地の奥から走って来た。 カリーナさんもシュターク達同様飾り羽の付いた帽子を被り、腰には細かな装飾が施された剣を下げていた。
カリーナさん達が被るこの派手な帽子は式典の際に被る制帽という事なのだろう。
見た目はシャコー帽みたいだ。
これはこれでカッコいいな。
今度試しに召喚してみるのも良いかもしれない。
「ごめんなさい。遅れてしまいましたか?」
「そんな事無いわ〜 むしろ早過ぎる位よ。
まだ門番さんが立っていなかったでしょう?」
「あぁ、だから門が閉まってたのか‥‥‥ はい。貰った手紙には12:00までに此処に来る様に書かれていたので遅刻したらマズイなって思って、 早めに着くようにしたんですよ」
「あらあら‥‥‥ ちなみにミカドちゃん達はその後の予定は知ってる?」
「パレードをやるって事しか知らねぇな」
「そうですね。手紙にはパレードをするって事と、それなりの服装で来る様にとか書かれていなかったような‥‥‥ 」
「ん、それ以外の事は詳しく知らない‥‥‥」
「そうなのね、なら今日の詳しい予定を説明が必要かしら?」
「そうですね、よろしくお願いします」
「お願いしますカリーナさん!」
「よろしくお願いします」
「頼むぜカリーナ!」
「お願いする‥‥‥ 」
どうやら俺達は早く着き過ぎたみたいだ。
ちょうど良い。
確かにゼルベル陛下からの手紙には今日論功行賞式が行われ、パレードを行うとしか書かれていなかったから、この後の詳しい予定をカリーナさんから聞いておこう。
カリーナさんは暖かい笑顔を浮かべ、先生が生徒達に言い聞かせる様にこの後の予定の説明を始めてくれた。
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