第85話 最終確認
「まずは論功行賞式の事を詳しく説明するわね〜?
論功行賞式とは、戦等で功績を挙げた部隊や人物に褒美を与えて、軍全体の士気を上げる為に行う式典の事なんだけど〜
この論功行賞式は功績を挙げれば讃えられ、罪過は罰すると言うラルキア王国軍の信賞必罰の理念に則り執り行われるの。ここまでは良いかしら?」
真っ青な空の下、ペンドラゴの端に有る第9駐屯地にホンワカしたカリーナさんの声が広がる。 カリーナさんはまるで学校の先生の様に、論功行賞式とは何かの解説をしてくれた。
「はい! つまり、今回の場合はベルガス反乱の時に功績を挙げた人達を表彰する為に行われるんですよね?」
「えぇ。ドラルちゃんの言う通りよ〜」
「あれ? でも確かカリーナ達はあの時貧民街の任務を放棄してなかったか?」
「ははっ‥‥‥ まぁ、そうだな。 実は俺達も本来の任務の放棄で罰せられるとは思ってたけど、まさか表彰されるとは思ってなかったんだよ」
「そうなの‥‥‥?」
「おう、俺達は命令違反したと言われても反論出来ねぇからな。 それを踏まえた上で、それだけラルキア城前での戦闘はヤバかったって事だろ」
「実際に俺達がラルキア城前に到着した事で、反乱軍の奴等に押され気味だった近衛兵団の連中が態勢を立て直すキッカケにもなったみたいだからな。
ま、嫌味の1つは言われるかも知れねぇけど」
「なるほど。アルさん達大活躍だったんですね」
「ミカドちゃん達ほどじゃないわ。聞いたわよ〜?
私達と別れたあの後、ミカドちゃん達は反乱軍に包囲されていたラルキア城に侵入して、ゼルベル陛下とユリアナ様を助け出したって。
私との約束を破ってそんな危ない事をしてたなんて‥‥‥ お姉さんプンプンよ?」
リスみたいにプクッと頬を膨らませるカリーナさん。カリーナさんは本当に俺達の事を心配してくれていたみたいだ。
ちょっと悪い事をしてしまったな。
「本当にすみませんでした‥‥‥ あの時ラルキア城から火の手が上がったので居ても立っても居られず‥‥‥」
「もう済んだ事だし、無事だったから良いのだけど、余り皆に心配させちゃダメよ?」
「以後気を付けます‥‥‥」
「よろしい。それじゃ次は今日の日程なのだけど‥‥‥ 今日の12:00時、この第9駐屯地には論功行賞式に参加する部隊が集合する事になっているわ。
そこから集まった皆でパーレドする道筋とかの最終確認をする事になっているの」
「って、事は俺達はその最終確認の1時間以上前に着いたことになるのか」
今の時刻は10:05分。
余裕を持って早く来たつもりが、どうやら早く着きすぎたみたいだ。
だから第9駐屯地の門も閉まっていた訳だな。
「あれ? なら何でカリーナさん達はこんなに早く此処に居るんだ?」
「実は私達も論功行賞式に参加するのは初めてなのよね〜
だから舞い上がっちゃって少し早めに来ちゃったのよ」
「あはは、そうだったんですね。 あ、ちなみに今日はパレード以外に何かするのでしょうか?」
「ん〜‥‥‥ パレードが終わったら、俺達はラルキア城の謁見の間で勲章とかの授与式が有った筈だが」
「ミカドの兄ちゃん達はどうなんだろうな?」
「シュターク達もわからないのか?」
「そりゃ軍の奴以外で論功行賞式に参加するなんて前代未聞だからな。
多分、兄ちゃん達がラルキア王国軍創設以来初めての例外なんじゃないか?」
「マジでか、どうなるんだろう‥‥‥」
この前ミラはこの論功行賞式に軍属以外の人‥‥‥ 民間人が参加した例は、昔エルド帝国との間で勃発した戦闘時にも無かったと言っていたからな。
ラルキア王国軍創設以来の例外と言う名誉に軽く困惑したが、とりあえずパーレドに参加するのは決定事項みたいだけど‥‥‥
でも、その後俺達はどうなるんだろうか?
「おや、皆様お早いお着きですね」
「あ、ハルさん。おはようございます」
シュターク達と頭にハテナマークを浮かべていると不意に背後から声を掛けられた。
その声を聞き振り返ると、そのには先日俺達にゼルベル陛下の招待状を届けてくれた伊達男ハル・オコネールが立っていた。
「はい、セシル様おはようございます。皆様もおはようございます」
「おはようハル。ちょうど良かった。実はハルにちょっと聞きたい事があったんだ」
「聞きたい事ですか? はい。何なりとお聞き下さい」
ペコリと頭を下げ執事の様な仕草でドラルを始め、ハルは皆に挨拶した。
改めて思ったがこの男‥‥‥ ハルは軽薄そうに見えて隙が全く無い。
表情は親しみやすさに溢れているが、体からは研ぎ澄まされた刃物の様な、鋭い闘気を纏っている様な気がした。
「‥‥‥今日の論功行賞式なんだけど、パーレドが終わった後、俺達はどうすれば良いんだ?」
「あぁ、なるほど。ミカド様方は軍の部隊への表彰が終わり次第、軍の方と一緒に謁見の間にてゼルベル陛下とお会いして頂く事になっております。
詳しく説明するなら、ミカド様方は今回参加する部隊と共にペンドラゴ内をパレードして頂き、パレードの終着点ラルキア城までご同行して頂きます。
その後謁見の間にて軍の方達と一緒に表彰を受けて頂きます」
「って事は、俺達はカリーナさん達と一緒に行動する事になる訳だな」
「左様でございます。ミカド様方は12:00になりましたら、他の部隊の代表の方々とご一緒に本日のパレードの道筋、順番等をご確認して頂き、13:00からのパレードに備えて頂きます」
つまり12:00から他の部隊の代表と打ち合わせをした後、パレードに参加。
その後はカリーナさん達と一緒に謁見の間で表彰を受けるという流れか。
よし、おおよその流れは理解したぞ。
「了解。大体の流れはわかったよ。それと服装なんだけど、これで大丈夫か?」
「はい、問題ありません。よく似合っておりますよ。急な申し出で苦労なされたでしょう?」
「まぁ、ちょっとだけな」
念の為に式に参加する為の服は今着ている黒い制服で大丈夫かな? と確認したが、ハルはニコッと女性が見れば惚れてしまいそうな優しい笑みを浮かべた。
服装も問題ないみたいだな。
これで一安心だ。後は他の部隊の人達が来るまで此処で待機していれば良いだけだ。
「あら、他の部隊の人達も来始めたみたいよ〜 」
「その様ですね。それでは少々早いですが、皆様を打ち合わせをする部屋までご案内致します。先に第9駐屯地の隊長がお待ちになっているでしょう」
「わかった。今日はよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします!」
「今日は楽しむぞ〜!」
「レーヴェ‥‥‥ はしゃぎ過ぎないようにね?」
「うぅ‥‥‥ 緊張して来たよ‥‥‥」
「まぁまぁ、気楽に行こうぜセシル」
「それじゃ、打ち合わせは姐さんに任せますぜ? 俺達は部隊の奴等の所に戻ってますわ」
「えぇわかったわ。念の為に皆身なりがキチンとしてるか確認しておいてね?」
「了解です姐さん!」
「そんじゃ、兄ちゃん達もまた後でな〜」
「あぁ! また後で!」
「ふふ。さぁ皆様こちらですよ」
「おっと、今行くよ」
一旦部隊の皆と合流する為にシュターク達と別れた俺達は、楽しそうな様子のハルに案内され待ち合わせをする為の部屋に向かった。
▼▼▼▼▼▼▼▼▼
「失礼します。遅れて申し訳ありません、
「おぉ、ラミラ尉校にニクル大官お待ちしておりました」
「あ、ラミラだ」
「ミカド・サイオンジ‥‥‥ お前が論功行賞式に招待されたと言う話は本当だったんだな‥‥‥」
11:50分になると、ハルに案内された広い部屋には黒い制服を纏った俺達5人の他にカリーナさんを含め、ラルキア王国軍の制服を着た6人が揃っていた。
するとそこに見知った顔の軍人がノックの音とともに入室して来た。 優雅に入室しつつビシッと素早く敬礼したこの人物は、ユリアナの護衛を務める
そのラミラの1歩後ろに立つ桃色の髪をした大人しそうな女性はラミラの部隊の副官で、ニクルと言う名前らしい‥‥‥
ニクルはラミラ同様素早く敬礼をすると俺の方を見て静かに微笑んでくれた。
それに引き返え、ラミラは俺の顔を見るなり苦虫を何十匹も噛み潰した様な凄い表情で見つめてくる。
前々から感じてはいたが、ラミラは俺の事が嫌いな様だ。 特に彼女に何かした訳ではない筈だが、此処まで露骨に嫌な顔をされると結構堪えるものがあるな‥‥‥
早い内にラミラとの関係を改善しないと俺の胃に穴が空きかねないぞ。
「静粛に! さて、これで全員集まりましたね。
それでは只今より本日の論功行賞式パーレドの道筋、並びにパーレドに参加する部隊の並び順の最終確認をさせて頂きます。
申し遅れましたが、私が本日のパレードの監督官を務めさせて頂くラルキア王国軍総司令部参謀科所属のハル・オコーネル中官と申します」
俺の方を向きあからさまに怪訝な顔を浮かべるラミラをハルが窘めてくれた。
ふむ‥‥‥ ラミラ達を含めて、ここに揃った軍の制服を身に纏う8人が今日の論功行賞式に参加する軍の部隊の代表みたいだ。
此処に居る人達は論功行賞式に参加する強者なだけあって、皆威厳たっぷりの顔付きをしている。
特に右肩に9の文字が入った制服を着ている第9駐屯地の隊長さんはおでこから左頬にかけて大きな傷が有り、まさしく歴戦の古強者と言った風貌だ。
こんな面々に囲まれると少々場違い感がするな‥‥‥
「それと今回の論功行賞式では、2つの特例がありますので説明させて頂きます。
まず、ラミラ・アデリール尉校が団長を務めるユリアナ姫殿下の
一旦席に腰掛けたラミラとその副官ニクルはハルの言葉を聞くと颯爽と立ち上がり、ペコっと会釈した。
「
パチパチパチパチ。
パラパラと集まった面々がラミラ達に向け拍手を送ると、ラミラ達は皆に向け静かに頭を下げた。
が、俺にはラミラが一瞬悔しそうな表情を浮かべたのがハッキリ見えた。
「此処に居られる両名以外の
次に、もう1つの特例なのですが‥‥‥
今回の論功行賞式では、ラルキア王国軍創立以来初めてとなる民間人の方々への表彰が御座います。 さぁ、ミカド様方ご起立を」
「お、おう!」
「「「「は、はい!」」」」
ラミラ達が座ったのを確認したハルは、今度は目線を俺にセシル、ドラルとレーヴェそしてマリアを見ると楽しそうな声で俺達に起立する様促した。
「彼等5人はノースラント村ギルド支部副支部長ミラ・アルティス殿の依頼で、此度のベルガスの反乱に早期から関わっており、国内で頻発していた誘拐事件とベルガスの反乱の関与に気付き、軍やギルド支部を爆破した武器の詳細を解明する等の功績を挙げられました。
さらに反乱が起こった当日にはベルガス率いる反乱軍に包囲され、窮地に立たされたゼルベル陛下とユリアナ姫殿下を見事お救いすると言う、これ以上無い功績も上げております」
「「「「おぉ‥‥‥」」」」」
軍の人達から見たらギルドに登録しているとは言え、何故民間人の俺達が此処に居るのかをハルが説明してくれると、集まった代表の面々が感心した様な声を上げた。
だがラミラを始め、第9駐屯地の隊長等数名は難しい表情を浮かべている。
その目からは、俺達に対する不信感や苛立ちの様な物を感じた。
正直ラミラに睨まれるのは慣れてしまったが、顔に大きな傷のある第9駐屯地隊長他、軍のお偉いさん方に睨まれるのは慣れていないから少し萎縮してしまった。
「加えてこのミカド・サイオンジ様とセシル・イェーガー様は、以前軍内部でも噂になったあの事件‥‥‥
国境の砦視察任務から帰還途中のユリアナ姫殿下が何者かに襲われたと言われる【ユリアナ姫殿下襲撃事件】にも関わっており、お二方はこの時襲われたユリアナ姫殿下をお救いになられたのです!」
「なんと!」
「あの噂は本当だったのか!?」
「この少年達が‥‥‥」
更に、ハルは表向き非公式となっているユリアナ襲撃事件の事も集まった面々に報告した。
この秘密を知っているのは俺達の他には当事者のユリアナとゼルベル陛下、そしてギルバードさんと戦乙女騎士団の面々しか知らない。
いや、良く良く考えればシュタークやアル、それにクリーガ達もこの事件の話を戦乙女騎士団の面々から聞いたと言っていたから、上の人は知らなくとも、末端の軍人達なら意外と事の経緯を知っているかもしれないな。
それはさて置き、ゼルベル陛下は今回の論功行賞式はこのユリアナ襲撃事件の礼も合わせて大々的に行うと言っていたから、ユリアナかゼルベル陛下がこの事をハルに正式に教えたのだろう。
「これらの功績から、このミカド・サイオンジ様を始めセシル・イェーガー様、マリア・グリュック様、レーヴェ・グリュック様、ドラル・グリュック様は、此度の論功行賞式にゼルベル陛下が直々にご招待なさった次第です」
「西園寺 帝と申します。本日はよろしくお願いします!」
「せ、セシル・イェーガーでしゅ! よ、よよよろしくお願いします!」
「マリア・グリュック‥‥‥ 」
「レーヴェ・グリュックだ‥‥‥です! 論功行賞式に参加出来るなんて光栄‥‥‥ です!」
「ドラル・グリュックと申します。若輩者ですが、論功行賞式に参加させて頂けるとは光栄の極みです」
チラッと俺の方を向いたハルは、意味深に目を小さく閉じた。
これは自己紹介をしろという意味だろうと受け取った俺は、部屋に居る面々を見渡しラミラ達と同じ様に軍の敬礼を真似しつつ、簡単な自己紹介をした。
その様子を見ていたセシルはガチガチに緊張し、マリアは何時も通り静かに‥‥‥ レーヴェは慣れない敬語を使いつつも元気一杯に、ドラルは礼儀正しい言葉遣いで其々自己紹介をした。
「ふふ、中々個性的な子達じゃないか」
「えぇ。将来有望ですな」
「是非私の部隊に来て欲しいですね」
「ふん‥‥‥ 」
「恐縮です」
「以上が特例事項となります。それでは、次にパレードの道筋とパレードする部隊の順番の最終確認に移させて頂きます」
俺達の自己紹介が終了すると、仏頂面の数名を除く代表の軍人達は温かい眼差しを向け、楽しそうな声を漏らした。
貫禄たっぷりの面々の賛美に恐縮しつつ、いよいよ今日の本題パレードの最終確認が始まった。
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「それでは以上でパレードの最終確認は終了です。
パレードの終着点はラルキア城で、パレード終了後はそのままラルキア城の謁見の間にて表彰式が執り行われます。
各部隊はラルキア城に到着し次第、総司令部並びに近衛兵の指示に従って下さい」
「仔細了解した。それでは各員各々の部隊に戻りパレードに備えようぞ」
「そうですな。では、私は失礼しますぞ」
「某も失礼する」
パレードが始まる40分前に最終確認は終わり、各部隊を代表して第9駐屯地の隊長が締めくくり、其々の代表は自分の部隊の元へと戻って行った。
今日の流れは下記の通りである。
まず、13:00までに此処から5分程の所に有る第3城下街西門に集合し、そこで紋章官と呼ばれる人がパレードに参加する其々の部隊の功績を集まった市民に説明してパレードが始まる。
パレードの道筋は第3城下街西門から第2城下街西門、第1城下街西門まで伸びる真っ直ぐの道で、そのまま第1城下街の先にあるラルキア城に向かう。
その後はラルキア城の謁見の間でゼルベル陛下が、各部隊の代表を招き表彰すると言った具合だ。
俺達がパレードに参加する順番は‥‥‥
なんと1番目。
つまりパレードの先頭を飾る事となった。
理由としては俺達が1番の武功を挙げていたし、民間人で初めての論功行賞式の参加者、加えてゼルベル陛下からこの式典に招待されたと言う経緯が有るかららしい。
俺個人としては軍の式典なのに軍に属していない俺達が先頭を飾るのに抵抗があったが、代表の皆が口々に
『1番の武功を挙げた者が最も讃えられるべき』
『お前達にはパレードの先頭を飾る資格がある』
と、言ってもらえた事で多少気は楽になった。
「あ、そうだカリーナさん。申し訳ないんですけど、この論功行賞式が終わるまでもう少し馬達を借りてて良いですか?」
他の代表達同様、俺達とカリーナさんは一緒に部屋を後にした。
カツカツと靴音が響く廊下を歩きながら、カリーナさんに話しかける。
「全然構わないわよ〜。パレードの先頭のミカドちゃん達が徒歩じゃ格好が付かないでしょうからね。
あの子達は今日の日程が全部終わったら引き取るわね」
「ありがとうございますカリーナさん」
「良いのよ気にしないで。さぁミカドちゃん達〜 貴方達は先頭を切るんだから、他の人達より急いで準備した方が良いんじゃない?」
「そうですね‥‥‥ ではお先に失礼します! 皆、装備の最終確認をするぞ!」
「う、うん!」
「はい!」
「おう!」
「了解‥‥‥」
「それじゃカリーナさん、また後で!」
「頑張ってね〜 」
手を小さく振るカリーナさんに見送られ、俺とセシル、ドラルにレーヴェそしてマリアは借りた馬達の元へ駆け出した。
時刻は12:30
パレード開始まで後30分まで迫っていた。
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