日常

第83話 招待状




「「「「「論功行賞式?」」」」」


ミラ達ギルドの職員も巻き込んだ大宴会の翌日。 俺やセシル、マリア達はノースラント村ギルド支部にて、ある人物から出た聞き慣れない単語を聞き、頭にハテナマークを浮かべていた。



遡る事数時間前



「ふぅ‥‥‥よし! 今日の訓練はここまでにしよう」

ヴァウ!


俺やセシルにマリア、ドラルとレーヴェそしてロルフは清々しい朝日が降り注ぐ森の中に居た。

此処はセシルの家からやや離れており、訓練に御誂え向きの小さな空間が広がっている。 最近は訓練する人数が増えた事で、よくこの場所を使っていた。



今日から依頼等で満足に行えていなかった剣術の訓練を再開した。

同時にレーヴェの頼みで、ベレッタやHK416Dの構造や構え方をグリュック3姉妹に教えていた。


剣術訓練は前々から一緒にやっていたが、マリア達に加護の事を教えた次の日、マリア達が「銃火器の扱いを教えて欲しい」と銃火器に興味を持ってくれたので、今後は剣術訓練と並行して銃火器の扱いも教えていく事にした。


俺としてはレーヴェに頼み込まれたからと言うのも有るが、今後もし俺やセシルの身に何かあった時の備えとして、マリア達も銃火器の扱い方を知っておいた方が良いと判断したからでもある。


「お疲れ様〜」

「ありがとうございました!」

「ふぃ〜腹減った〜!」

「レーヴェ昨日あんなに食べてたのに‥‥‥ 」

「うるさいな〜 動いたら腹が減るのは当たり前だろ?」

「それじゃ今日の朝ごはんはちょっと多めに作るね」

「お、サンキュー! セシル!」

「全くレーヴェったら‥‥‥」

「はいはい! そんじゃ、皆銃を片付けるぞ〜」

「「「「は〜い」」」」」


俺は人数分召喚したベレッタとHK416Dを、同じく人数分召喚したガンケースに入れる様に指示をする。 こんな早朝に魔獣も出る始原の森に人が来るとは思わないが、出来るだけ人目に着くこれらの武器を大っぴらにしておきたくない。


俺が教えた通り、皆は其々手際良くベレッタやHK416Dから空のマガジンを抜き、ガンケースに入れていく。

今日マリア達には銃の構造と構え方だけしか教えなかったが、マリアもドラルもレーヴェも要領が良く、直ぐに完璧な構えを身に付けた。


構造の事や危険な点はこれからも繰り返して説明していくつもりだが、今日の様子から見ても明日から軽い射撃訓練程度なら始めても問題ないだろう。


グルル‥‥‥

「ん? どうしたロルフ?」

「あ、ミカド。家の前に誰か居るよ?」

「本当だ。ギルドの制服を着てるからギルドの人かな?」


今日の訓練の成果を頭の中で確認しながら家の前まで歩くと、ロルフが唸り声をあげ、セシルが家の前に立つ人影に気が付いく。

その人物はミラ達が着ている物と同じギルドの制服を着ていたからノースラント村ギルド支部の職員だと分かった。


もしここでこの職員に抜き身のベレッタやHK416Dを見られたら‥‥‥ そう考えるとガンケースを召喚して本当に良かった。


だがこんな早朝から何の用だ?

心当たりが無い‥‥‥ 訳では無いが、急を要する案件は無い筈だ。


まぁ、この人に聞けば済む事だな。


「あの、何か用事ですか?」

「あぁセシル様! ミカド様達もおはようございます」


家の前で立つ人物にセシルが声を掛けると、爽やかな笑みを浮かべた男性職員が微笑みかけてきた。やはりこの人はノースラント村のギルド支部の職員だった。

ギルド支部で何回か話した事も有る。


確か名前はグラディだった筈だ。


「あぁ、おはようグラディ。それよりどうしたんだ、こんな朝早くに?」

「はぁ、それが今朝ペンドラゴから軍の方がいらっしゃいまして‥‥‥ どうやらミカド様方に用事らしく、出来れば直ぐに呼んで来て欲しいとの事で 」

「軍の人‥‥‥ ですか?」

「なんで軍の奴が僕達を呼び出すんだ?」

「ん〜、その軍の人は何か言ってましたか?」

「それが私は何も聞かされてないんです。

ただ、ミカド様方を呼んで来て欲しいとだけ頼まれただけで‥‥‥

その方は今、ノースラント村のギルド支部の方でお待ちになっています」


ふむ、どうやらグラディも詳しい内容は知らされていないみたいだ。

軍の人からの呼び出しか。もしかしてこの前のベルガスの反乱関係の事か?


「とりあえず、ノースラント村のギルド支部に行けば良いんだな?」

「はい。すみませんこんな早朝から‥‥‥」

「グラディが謝る事じゃねぇさ。そう言う事なら直ぐに向かうから、グラディは先に戻ってその人に直ぐに向かうって伝えておいてくれ」

「わかりました。では、お先に失礼します!」

「その軍の人は私達に何の用事でしょうか?」


去り際も爽やかに微笑み、馬に乗って駆けて行くグラディの背を見ながらドラルが小さく呟いた。


「軍って事は、この前のベルガスの反乱についてじゃねぇのか?」

「ん‥‥‥私もレーヴェのいうとおりだと思う」

「俺もマリア達と同じ意見だな。とにかく、朝飯は後回しにしてノースラント村に向かうぞ!」

「これで大した用事じゃなきゃ怒るぞ」

「まぁまぁ、レーヴェちゃん少し落ち着いて‥‥‥ 」

「何だったら朝飯は満腹食堂で食えば良いじゃねぇか。ほら! 行くぞ!」

「「「「はい!」」」」

ウォン!



▼▼▼▼▼▼▼▼



そしてギルド支部に着くと半壊したギルド支部の前で、ミラと俺達を呼び出しただろう軍服を着た男性が楽しげに雑談していた。


第7駐屯地から借りた馬に乗っていたらもっと早く着いたのだが、生憎とその馬達はミラ達に預けている為、俺達は走ってノースラント村に向かう羽目になった。


馬の世話などした事が無かったから仕方ないとは言え、こんな事ならうちで面倒を見れば良かったな。と少し後悔した。


「おはようミラ」

「おぉ、来たかミカド! おはよう」


俺がやや遠くから手を挙げミラに挨拶をすると、ミラも俺達に気付き手を大きく振りながら挨拶してくる。


ミラとは僅か数ヶ月の付き合いだが、ミラのテンションが高い時は大抵面白い事が起こった時か、予想外の事が起きた時に限られる‥‥‥ と言う事を俺は過去の経験から学んでいる。


今のミラの様子を見る限り、今回俺達が呼び出された事は前者の可能性が高い。


少なくとも、悪い事ではないみたいだからある程度気が楽になったな。


「なっ!?ヴァイスヴォルフ!?」

ワゥ?


あ、マズイ。

ノースラント村の皆はロルフの存在に慣れていたからスッカリ忘れていたが、ロルフは一応始原の森の王者に君臨していたルディの子‥‥‥ 白狼ヴァイスヴォルフの子供だった。


体高1m以上、体長3m近いロルフを見れば、これが普通の反応だ。

当のロルフは俺の横でお座りをしながらクゥン? と小さな鳴き声を出し、首を傾げているが。


ここで変に騒がれるとややこしい事になりそうだ。


「っと、驚かせて悪い! 確かにコイツはヴァイスヴォルフだけど俺達の家族で大人しい奴なんだ!」

「危害は加えませんから、安心してください」

「は、はぁ‥‥‥ 確かに危険は無さそうですが‥‥‥ まさかヴァイスヴォルフを手懐ける事ができるとは」

「えっと、貴方は?」

「と、失礼しました。私はラルキア王国軍総司令部所属の参謀科中官、ハル・オコーネルと申します。以後お見知り置きください」


ロルフを見て腰から下げた剣に手を掛けた男を何とか落着かせようと、俺やセシルがロルフの前に立ち、ロルフは安全だと分かる様に滅茶苦茶にロルフを撫で回した。


無邪気なロルフは構ってもらってると勘違いしているのか、直ぐに弱点の腹を見せ降伏ポーズをする。 そんな無防備なロルフの様子を見て少し落ち着いた軍服の男は、ゆっくりと剣から手を離した。


この男が落ち着いたのを確認して、俺は改めて男の事を聞いた。


伊達男の様に少し軍服を着崩した栗色の髪の男、ハル・オコーネルと名乗る人物は丁寧に自己紹介をし、ロルフの方をチラチラ見ながらも優雅に会釈した。


このハルと言う男はラルキア王国軍の総司令部に所属しているらしい。エリート組と言う奴か。

見た目は少しチャラチャラしている様に感じるが、カリーナさんやミラとは別タイプで仕事が出来る人物なのかも知れない。


「そのハルさんが私達に何の用なんですか?」

「貴女はセシル・イェーガー様ですね? 私はゼルベル陛下から貴方方へ伝言を頼まれ馳せ参じました」

「ぜ、ゼルベル陛下からの伝言ですか!?」

「はい。貴方方に論功行賞式に参加して欲しいとの事です」

「「「「「論功行賞式?」」」」」



▼▼▼▼▼▼▼▼



と、いう経緯があったのだ。

時系列を戻して話は続く。


「えっと、なんだその‥‥‥ ろんこー何とかって?」

「論功行賞式‥‥‥ 解りやすく言えば、戦で活躍した人を表彰する式典の事ですね」

「それに私達が?」

「はい。私はゼルベル陛下やユリアナ様からミカド様方のご活躍を拝聴致しました。

ゼルベル陛下は皆様に深く感謝しており、是非この論功行賞式に参加して欲しいとの事です」

「あぁ、成る程」


レーヴェ、マリアの問いに答えたハルの言葉を聞き合点がいった。

ゼルベル陛下と別れる際、陛下は今回の礼は前回の様に非公式では無く、後日大々的に行わせて貰うと言っていた。 恐らくこの論功行賞式と言うのが、大々的に行ってくれると言うお礼の事なのだろう。


「それって凄い事‥‥‥ なんですよね?」

「凄いなんてモノじゃないぞ! 軍属以外で論功行賞式に招待される事は先のエルド帝国との戦争時にも無かった事だ!

それにまさかお前達が出る事になるなんて私は鼻が高い!」

「ミラ‥‥‥」


まるで自分の事の様に顔を綻ばせながら喜んでくれるミラを見て、俺も自然と顔を綻ばせた。

そうだとすれば大変名誉な事だ。俺は俺に出来る事をしただけだが、こうやって評価して貰えるというのはやはり嬉しい。


「つきましては3日後、ペンドラゴへお越し下さい。此方に詳細が載っておりますので、ご一読をお願いします」

「了解した。ありがとうハル」

「いえいえ、早朝なのにご足労いただき申し訳ございませんでした。

それでは、自分は本来の職務に戻りますのでこれにて失礼をば。ロルフ様も、また」

ウォウ!


俺はハルが差し出した手紙を受け取る。

それを確かめたハルは、俺達やロルフにまで恭しく頭を下げて颯爽とギルドを去っていった。


「結局どう言う事だったんだ?」


ハルが立ち去ると、レーヴェは小首を傾げていた。

レーヴェよ、ハルがこれ以上無いくらい簡単に説明してくれた筈だけど、結局良く分かってなかったんだな。


「つまり、私達は3日後ペンドラゴに行く‥‥‥ そこでご褒美を貰える‥‥‥」

「ご、ご褒美が貰えるかは分からないと思うけど」

「とにかくそう言う事‥‥‥ 」

「ふぅん? まぁ、またペンドラゴに行くって事で良いんだな?」

「それで間違いじゃないけど、レーヴェ、貴女はもう少し真面目に勉強しなさい」

「えぇ〜 ヤダ。勉強嫌い」


淡々と語るマリアとツッコミを入れるドラル、そして少しアホの子レーヴェ。

相変わらず仲の良い3人の会話を聞きながら、俺は豪華な便箋の封を切って中に入っている手紙を取り出した。


「その手紙には何て書いてあるの?」

「ちょっと待ってろ‥‥‥ えっと、おぉ凄ぇ! これゼルベル陛下直筆らしいぞ!」

「本当!?」

「ゼルベル陛下直筆の招待状か。家宝になるな」


手紙を持つ俺の背後からセシルとミラが顔を覗き込ませる。中に入っていた手紙も便箋同様豪華で、紙自体もとても高価な物だという事が分かる。

そしてその手紙には綺麗な文字が書かれていた。

この手紙はゼルベル陛下の直筆らしく、手紙の右下の方にはゼルベル・ド・ラルキアとサインが書き込まれていた。


一国の王様からの直筆の手紙‥‥‥

これは確かに家宝になるな。


「式の招待にゼルベル陛下の直筆なんて恐れ多い気もするけどな。 何々‥‥‥ 去る3日後、ペンドラゴにて先のベルガス反乱の際の功績を称え、論功行賞式にミカド・サイオンジ、セシル・イェーガー。

マリア・グリュック、レーヴェ・グリュック、ドラル・グリュックの5名を招待する。

その際ペンドラゴ内をパレードするのでそれ相応の服装で是非とも参加して欲しい‥‥‥ だってさ」

「うぉぉ! パレード!? マジでか!」

「ぱ、パレードなんてするんですか!?」

「パレード‥‥‥ 楽しみ」

「凄い! 私パレードに参加するなんて初めてだよ!」


手紙に書かれていた内容をセシル達に告げると、皆目をキラキラと輝かせた。


「それは良いがミカド。お前達服はどうするつもりだ? 手紙にはそれ相応の服装で参加する様に書かれているが、お前達式典用の服は持っているのか?」

「「「「 ‥‥‥ 無いです‥‥‥」」」」


ハイテンションだったセシル達だが、ミラの一言で一気にお通夜ムードになってしまった。だが、確かにミラの言う通り俺達はただの一市民。

ミラ等ギルド職員は制服が有るから良いとしても、俺達は式典に着ていく大層な服は持ち合わせていない。


だが、俺にはあの力が有る!


「大丈夫だ! 俺に考えがある!」

「そうか? もし着て行く服が無ければ私からノースラント村に有る服屋の奴等に相談しておくぞ?」

「ありがとうミラ。もしもの時は頼む!

よし、皆! 満腹食堂で朝飯を食ったら家に帰るぞ! そこで俺の秘策を披露する!」

「あ! もしかして‥‥‥」

「あぁ、アレだ! そう言う訳だからミラ、俺達は飯を食ったら3日後の用意をしに帰るよ。

預けた馬はペンドラゴに行く時についでに乗っていくから、それまで悪いけど面倒はよろしく頼む」

「あぁ、任せておけ。私もお前達の晴れ姿を楽しみにしているからな!」

「さよならミラさん!」

「失礼します」

「またな〜」

「バイバイ‥‥‥ミラ」

「またな!」


俺の考えを察したドラルに悪戯っ子の様な微笑みを向け、ミラに別れの挨拶をしながら、ひとまず腹ごしらえをする為に俺達は満腹食堂へ向け歩き始めた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る