第61話 仮説



「ほぉ...... つまり、ミカドのにぃちゃんは、俺が怪しい奴に見えたから声をかけたと?」

「あ、あぁ」

「だっはっはっは! まぁ確かにシュタークは悪人面だからな! 」

「ミカドのにぃちゃんが怪しく思うのも仕方ねぇさ!」

「うるせぇ!てめぇらだって悪人面じゃねぇか!」


11月22日の第4月龍日の午後16:00時。


場所はラルキア王国の王都ペンドラゴの片隅。


多くの人々から忘れ去られた様にポツンと存在する貧民街に、厳つい男達の笑い声や怒号が響いていた。


俺はこの貧民街で声をかけたシュタークやその仲間のクリーガ、アルがラルキア王国軍の兵士である事を知り、簡潔に俺やレーヴェ達が何故ここに居るのかを説明した。

説明と言っても、正直まだ憶測の部分が多かっただけに、言葉を濁しつつの説明になってしまったが.....


初めは仏頂面だったシュターク達だったが、最後には笑い声をあげながらお互い小突きあったりしている。


口ではなんだかんだ言いつつも、この3人は仲が良いみたいだ。


何かマリア達と近しい物を感じる......


「ひひひ...... それにしても、それじゃミカドの兄ちゃんは無駄足を踏んじまったな。

さっきも言ったが、俺達はここの貧民街の治安を守る側の人間だ。ミカドの兄ちゃんが俺達を奴隷商人と思って声をかけたなら、余り力になれる事は無ぇと思うぞ?」


一頻り大声で笑った強面3人組の1人、耳に大量のピアスを付けたアルは、大笑いし息も整いきらない内に俺に話しかける。


アルに言われるまでも無く、俺もそう感じてはいたが、ここは発想の転換だ。


アルを始め、3人はこの貧民街の治安維持をしている軍人...... つまり貧民街の土地勘もあるし、仕事上奴隷商人と関わった事があるかも知れない。ならこの3人に話を聞くだけでも捜査の助けになる筈だ。


「そうかも知れないけど、これまで何か怪しい事は無かったのか? 例えば..... 貧民街で誘拐事件が多発しているとか」

「ん...... いや、俺はそう言った話は聞いた事無いな」

「あぁ、俺もだ。何よりここは名前も素性もわからない奴等が集まる貧民街。

普通の街ならまだしも、貧民街から人が1人、2人消えた程度じゃ誰も気にも留めねぇんだよ」

「そうだな。ここは毎日新しい浮浪者が来ては消えていく場所だからな...... 待てよ......」

「どうかしたのかクリーガ?」


アル、シュタークの言葉を聴き、本当に徒労に終るかも知れないと思いながらクリーガの言葉に耳を傾けていると、クリーガは急に何かを思い出した様に顎に手を当てた。


「いや、そう言えば数ヶ月前、今日みたいに貧民街で任務に付いてた時なんだが、酒屋で飯を食っている時、変な奴に声をかけられてな」

「変な奴?」

「あぁ。確か声をかけて来たのは焦げ茶色のフードを被った男だったな...... 」


こげ茶色のフードを被った男?

あれ...... 確か前に何処かでそんな奴を見たような気が.....


「焦げ茶のフードを被った男だと!? 詳しく教えろ!」

「な、なんだ獣人の嬢ちゃん!? どうしたんだ急に!」

「そのフードの男...... 私達を攫った男かも知れない...... 」

「「!!」」


俺は声を荒げるレーヴェと、静かに怒りの篭った目で呟くマリアの言葉を聴き思い出した。


そうだ! 確かにマリア達を攫った奴隷商人達のグループは、皆焦げ茶色のフードを被っていた。


あの、人を人とも思わない焦げ茶色のフードを被った外道共は、俺がHK416Dで物言わぬ骸に変えた。


まさかこんな所で、また其奴等と思しき奴の事を聞くとは夢にも思わなかった。


「そうだったのか...... 大変だったな...... そのフードを被った男が俺に言ってきたのはこうだ......『なぁ、お前、もし仕事が無いなら俺達の仕事を手伝わないか?』と」

「レーヴェ、離してやれ......」

「わかったよ...... 悪い、頭に血が上っちまった」

「気にすんな。獣人のお嬢ちゃんが怒るもの当然さ」

「でも、何故そんな事を見ず知らずのクリーガに...... 」

「ミカドの兄ちゃんの疑問は最もだ。俺も同じ事を感じて質問したんだが..... 」



▼▼▼▼▼▼▼▼



「仕事を手伝わないかだと? 何で顔も名前も知らない俺に声をかけたんだ? フードの兄さんよ」

「ふふ、俺は今、一緒に仕事が出来そうな奴を探してるんだ。

お前は体格も良いし、顔付からこの仕事に向いていると思ってな...... 本来なら見ず知らずの奴に声をかけるなんて事はしてねぇんだから、お前はラッキーだぜ?」

「御託は良い。ならお前は俺に何を手伝って欲しいんだ?」

「いやなに、実は金持ち共の娯楽だかなんだか知らねぇんだが、金払いの良いお得意さんが魔術師や、魔術師の素質がある奴を大量に探していてな.....」

「まさか...... 俺に魔術師の素質がある人の誘拐を手伝えと......?」

「さてね。ただ、俺達は人手を必要にしている。この話に興味があるなら、今日の24:00丁度、貧民街の外れに有る酒屋【ショット】に来て、この紙を見せな......」



▼▼▼▼▼▼▼



「って事があったんだ...... 俺はその後直ぐに部隊の基地に戻って、隊長に許可を取って部隊を率い、指定された時間丁度に【ショット】に行ったんだが...... 中はもぬけの殻だった。どこからか情報が漏れたのかもしれないがな...... 」

「成る程.....」


俺はクリーガの話を聞いて顎に手を置き、頭を働かせる。


もし、クリーガが言ったこの話が真実なら、今回の爆破事件とマリア達を攫った奴隷商人には関連性があるかも知れない......


俺の中での仮説はこうだ。


確かマリア達を攫った奴隷商人達は、『今回の仕事じゃ1人も捕まえられなかった』と言っていた。


この『今回の仕事』とは、クリーガが焦げ茶色のフードを被った男に言われた魔術師、またはその素質のある人を攫う事と見て間違いないと思う。


だが、奴隷商人達は魔術師の素質がありそうな人を攫えられず、代わりに魔力が人間より高いと言われているエルフのマリアを初めとしたグリュック3姉妹を見つけた.....


マリア達が攫われた時系列や、クリーガに声をかけた男の特徴。

以上2つの事から、クリーガに声をかけたこの男は、マリア達を攫った奴隷商人の可能性が大だ。


となると、次に浮かぶ疑問は、何故この【金払いの良いお得意さん】は、魔術師、またはその素質がある人を大勢攫う様に依頼したのかと言う点だ。


これはノースラント村ギルド支部が爆破された際にマリアが言っていた事を踏まえれば、納得出来る。


簡単に纏めると......


ノースラント村ギルド支部が爆破する際に使われたあの手榴弾の様な物は、以前マリアが言った様に、魔力を原動力として爆発する魔法具の可能性が高い。


【金払いの良いお得意さん】は、この手榴弾の様な爆発物を開発・ないし購入して、奴隷商人が攫った魔術師、魔術師の素質がある人達にギルド支部や軍駐屯地を爆破させる計画を立てたのではないか?


【金払いの良いお得意さん】は、この爆発物の運搬者兼爆破役として大勢の魔術師が必要になり、奴隷商人達に魔術師を攫う様に依頼した.....


そして、奴隷商人がこの依頼を受けた前後に、マリア達は捕らえられ、そこを俺とセシルが救った.....


だが、仮にこの仮説が合っていたとしても、この仮説には不明な点が有る。


例えば、何故【金払いの良いお得意さん】はラルキア王国のギルド支部や駐屯地を爆破したか...... だ。


軍やギルドに何らかの恨みがあったのか......?


俺の頭の中で、今まであった出来事や憶測がグルグルと飛び交う。


仮説としては、これ以上無い位に説明が付くが、今回は上手い具合にこれらの出来事が噛み合っただけかも知れない......


まだ全てを知った訳ではないし、決め付けるのも時期尚早だが、今日の調査は無駄では無かったみたいだ。


「ありがとうクリーガ。参考になったよ」

「いやいや、あんまり力になれなくて悪いな」

「そんな事無いさ。今日3人に会えて本当に良かったよ」

「また俺達に聞きたい事が出来たら、ペンドラゴの西側にある【ラルキア王国軍第7駐屯地】に来ると良い。

この第7駐屯地は俺達の部隊の本部がある場所だ。この貧民街からもそう離れていないから、移動も楽だろう」

「あぁ、わかった。シュターク、クリーガ、アル。今日はありがとう。

それとシュターク...... 今更だけど、ナイフで脅したりなんてして申し訳なかった......」

「なに、あの場面ならナイフで脅されたって仕方ねぇさ。

それじゃ、俺達はそろそろ駐屯地に戻る時間だからここでお別れだな。お互い頑張ろうぜミカド・サイオンジ!」

「あぁ、それじゃまた!」


俺は夕陽に照らされながら、駐屯地へ帰るシュターク達に手を振った。


シュターク達3人も手を軽く振り返す...... ぱっと見は怖い人達だと思ったが、話せばとても良い人達だったな...... うん、人を見かけで判断しちゃダメだな。


「顔は怖いけど、良い人達だった......」

「そうだな。でも、本人達が居る前で今のセリフは言うなよマリア?」

「にしても、まさか今回の爆破事件が、僕達を攫ったあのクソ野郎共と関わりがあるなんて思いもしなかったぜ..... 」

「まだ、関係があると決った訳じゃないさ。それにレーヴェ達を攫ったあいつ等はもう居ない......」

「ま、そうだけどよ...... それよりミカド! ミカドって本当にユリアナ様を助けた事があるのか!? 前に聞こうと思ったけど、有耶無耶にされちまったし!」

「ん、私もその時の話...... 詳しく聞きたい」


ちょっと雰囲気が悪くなってしまったのを敏感に感じたのか、レーヴェが俺に食いより気味に近づき目を輝かせる。


マリアも言葉は淡々としているが、声色が何時もより微妙に高い気がする。


真偽はどうあれ、レーヴェが折角話題を振ってくれたんだ。

ここはその流れに乗るとしよう。


「話したいのは山々なんだけどな。これはドラルも知らないからさ。

先に2人だけに放すと不公平だろ? 今日の夜、晩御飯を食べながら話してあげるからちょっと我慢しててくれ」

「って事はミカドは本当にユリアナ様を助けたんだな!」

「あぁ、そうだ。正確に言うと、俺とセシルが...... だけどな。ところでマリア。

何でレーヴェはあんなにハイテンションなんだ?」

「ん、ユリアナ様...... 戦乙女ワルキューレはレーヴェの小さい頃からの憧れだっだから...... でも、顔まで見た事無いみたいだけど...... 」


そう言う事ですか。


俺はレーヴェが少し悪い雰囲気になった事を悟って、新しい話題を振ってくれたのだと思ったが、存外そんな事は無かったみたいだ。


って言うか、少し前にラルキア城で会ってたんだけど、その事を伝えるべきか?


「あ~...... 成る程ね...... まぁそう言う訳だ。さ、とりあえず今日はここまでにして一旦帰ろう。もうそろそろセシル達もパセテに帰って来てるだろうしな!」

「了解..... 」

「はぁ..... きっと戦乙女って言うくらいだから、カッコよくて凛々しい人なんだろうな...... って!? お、おいちょっと待てって! 置いて行くなよ!」

「妄想に耽ってるから置いて行かれる......」

「べ、別に妄想なんかしてねぇし!!」

「やれやれ....」


太陽が半分ほど沈んだ午後17:30

俺とマリア、そしてレーヴェは3人並びながら、拠点としている宿パセテに通じる道を歩みだす。


パセテに着いたらまずは飯だな..... んで、飯を食いながらレーヴェ達にユリアナと知り合うきっかけになったあの事件を話して、セシル達に調査してもらった事の確認しよう。


俺はマリアとレーヴェのやり取りを微笑ましく見守りながら、頭の中でこの後の予定を組み、また足を1歩踏み出した。



▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼



「あ! 皆お帰り!」

「ミカドさん、マリア、レーヴェお帰りなさい」

「おう、ただいまセシル、ドラル」

「ただいま...... 」

「ただいま!」


貧民街で厳ついラルキア王国軍3人組と別れた俺達は、ギルド御用達のホテル【パセテ】の部屋へ戻って来た。


すると、ギルド本部とラルキア王国軍総司令部に聞き込みに行ってもらったセシルとドラルが既に聞き込みから戻っており、暖かな笑顔で出迎えてくれた。


「悪いな、ちょっと話し込んでたら遅れちまった」

「大丈夫だよ。何か良い情報は聞けた?」

「あぁ、ヒントになりそうな情報を聞けたよ」

「あれ、セシルやドラルは僕達が貧民街に行ったのを知ってたのか?」

「えぇ、私とセシルさんは事前にミカドさんから教えられていたわ。大丈夫だから心配するなって」


実は今日、貧民街に行くに当たり、俺は別行動するセシルとドラルに無用な心配をさせない様、事前に貧民街に行く事を伝えておいた。


「思い返せば、マリアとレーヴェには途中まで黙っている形になっちゃってたな...... すまん」

「まぁ、謝らなくても気にしてねぇよ」

「ん、私もレーヴェと同じ...... 気にしてないから謝らないで..... 」

「ん...... ありがとな。よし、2人に撫で撫でしてやろう!」


全く...... この子達は本当に良い子だよ......


取り敢えず、マリアとレーヴェを撫でてやろう。


髪がボサボサになろうと知った事か。


「ん...... ミカド、擽ったい...... 」

「ちょ! やめろ! セシル達が見てるだろ!?」

「ふふっ、それじゃ皆お腹減ってるでしょ? 何かルームサービスして貰おう?」

「そうですね。1日中歩き回ってお腹ペコペコです」

「っと、賛成だ。早速何か頼もうぜ」

「たく...... あ、そう言えばミカド!ユリアナ様を助けた話を聞かせてくれるんだったよな!? なぁ!?」

「え、何の話?」

「ミカドが前、ユリアナ様を助けた事があるって話...... 」

「あぁ! なるほど! 私も聞きたいです!」

「わかったわかった! 話してやるから落ち着けレーヴェ! 肩を掴んでブンブンするなぁあ!!」



▼▼▼▼▼▼▼▼▼



時刻20:20。


俺達はルームサービスした食事が届けられるまで、以前黒隼シュバルツファルクの討伐依頼を受けていた時、謎の鎧武者に襲われているユリアナ・ド・ラルキアをセシルと共に助けた話をした。


食事が届いてからは、その食事に舌鼓を打ちつつ、ユリアナの印象やその筋では有名な剣の使い手である彼女の腕前等について質問攻めにあった......


というか、主に質問して来たのはレーヴェだったけど......


残念ながら、ユリアナの剣技を見る機会は無かったと伝えた時のレーヴェのガッカリした顔が、実に可愛らしかった。


ちなみに、ラルキア城でユリアナと会った事は黙っておいた。


そっちの方が面白そうだったし。

ユリアナの顔も知っているセシルはちょっと苦笑いしてたけど......


「よし、食事も済んだ所で...... セシル、今日の調査で分かった事があれば教えて欲しい」


運ばれた食事を綺麗に完食し、ご馳走様をした俺達は先程までの緩みきった雰囲気をキュッと引き締め、今日の調査のまとめに移ることにした。


今回別行動をしたセシルとドラルに頼んだ事は、ギルド本部とラルキア王国軍総司令部に行き、被害にあったギルド支部や軍の駐屯地の場所や、被害規模などの確認だ。


もしかしたら被害にあった場所を調べる事で何か閃くかも知れないと思ったからだ。


「うん、えっと...... まずは被害にあったギルド支部や軍の駐屯地なんだけど...... よっと! これを見ながら説明した方がわかり易いんじゃないかな?」

「おぉ、凄ぇな...... 」

「大きい...... 」

「あぁ...... 」


俺達の前に置かれた大きな机の上に、セシルが得意げな表情で持った紙の筒を広げた。


その紙の筒は、広げると大きさ約2m四方くらいで、描かれている絵には見覚えがあった。そして、所々赤や青の丸印が書き込まれている。

ふと、この大きな紙の右上に目を向けると、右上には【ラルキア王国 全国図】と書かれていた。


あぁ、この紙に描かれている絵の形!どこかで見覚えがあると思ったら、ラルキア王国だ!

この大きな紙は、ラルキア王国の地図のようだ。


「これはセシル達が用意したのか?」

「えへへ...... 違うよ。これはギルド本部の職員さんが古い地図をくれて、被害があった所を書いてくれたの。

この青い丸が、被害にあったギルド支部で、赤い丸が被害にあったラルキア王国軍の駐屯地みたい......

あ! でも、分かりやすくする為に、丸印の下にギルド支部の名前や駐屯地の名前を書いたのは私とドラルちゃんだよ?」


セシルの話を聞く限り、ギルド本部も王国軍総司令部も調査に協力してくれた様だ。

セシルに持たせた爆破調査の依頼書が効果を発揮してくれたみたいで一安心だ......


「なるほど。ありがとなセシル、ドラル」

「えへへ〜 」

「いえいえ、そんな...... 」

「それにしても、青い丸も赤い丸も随分多い...... 」

「うん...... そうだな...... 」


静かに地図を眺めていたマリアが声を漏らした。

その声にレーヴェも同意する。


俺も2人と全く同じ事を感じていた。


パッと見ただけでも、地図に書き込まれた青い丸は10個以上。赤い丸に至っては20個以上ある様に見える。


その青い丸印の1つに、慣れ親しんだノースラント村ギルド支部の文字があった......


「青い丸は被害にあったギルド支部...... 赤い丸は被害にあった軍関連施設になります」

「正確に言うと、被害にあったギルド支部はラルキア王国内にある全支部42箇所中18箇所...... 同じ様に被害にあったラルキア王国軍の駐屯地や軍の関連施設は、全71箇所中24箇所だって...... 」

「そんなにか...... 」


セシルの言う事が確かなら、ギルド支部も軍の関連施設も全体の3分の1近くが爆破の被害にあっている事になる......


この爆破された各施設はラルキア王国の東西南北に分散していた。


もし被害にあった施設が一箇所に固まっていたりしたら話は違ったのだが......


「ねぇセシル......この黄色い丸は何?」

「え? 何処だ?」


セシルから爆破の被害にあった各支部や駐屯地等の数の多さを聞き、こんなにもノースラント村と同じ様な悲劇がラルキア王国の各地で起こっていたのか...... と、背筋に冷たい物を感じていると、マリアが疑問の声を上げた。


机に広げられた地図に再度目を落とすと、確かに青や赤の丸印の中に1つだけ、黄色い丸印が記入されていた。


その黄色い丸の下には【ベッセル・ギルド支部】と、同じく黄色の文字で書かれている。


「あ、そこは確認されている中で唯一、爆破の被害に遭わなかった、ベッセルという都市のギルド支部がある場所です」

「あ! ティナが不審者から不審な丸い物を回収したって言ってた所か!」


どうやら、この黄色い丸はティナが言っていたベッセルと言う都市のギルド支部がある事を記している様だ。


これはペンドラゴでの調査がひと段落したら、1度現場検証しに行くのも良いかもしれない......


「うん。今頃その回収された物が魔術研究機関に届いているだろうって、ギルドの職員さんが言ってたよ」

「なるほど...... もっと分かった事はないか?」

「はい、ギルド関連と王国軍関連で幾つか...... 」

「了解した。それじゃギルド関連の事から教えてくれ 」

「うん、皆ここを見てくれるかな?」


セシルが地図の青い丸で囲まれた部分を指差す。


そこには【ローデンラント・ギルド支部】と書かれていた。


あれ...... このローデンラントって名前も何処かで聞いた事がある様な......


「此処が...... どうかしたの......?」

「うん。実は此処、ローデンラントのギルド支部は、爆破があった前日に各地のギルド支部の支部長が集まって、会議をしていたみたいなの...... 」

「此処も爆発の被害に遭い、ギルド支部長達は...... 」

「っ! 確かミラ達もそんな事言ってたな...... 」


そうだ。確かミラとアンナが、ギルド支部長達はローデンラントのギルド支部で会議をしていると言っていた。


セシルから各ギルド支部のトップ達が集まった支部が爆破の被害に遭ったと聞いた俺は、ある単語を連想した。


その単語は、俺が元居た世界でも時折耳にし、憎悪を込めてこう呼ばれていた......


テロリズムと......


もしや、今回のこの事件は俺が考えている以上に...... それこそ、このラルキア王国が地図から無くなるかも知れない可能性を感じさせた......


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る