第八章 夢を語る
ルフォー砦は、ヴァンが死亡したころから、囚人を収容する施設として使われていた。囚人用の牢は主に地下にあるが、春を迎えたこともあり、朝晩を除けば、それほどの苦痛は感じない。それでも、ときおり聞こえる怒鳴り声や嗚咽が、精神をすり減らしていく。
シオンは、湿った石壁にもたれながら、黙然として裁きの時を待っていた。
――カミーユたちは、無事に逃げおおせただろうか。考えることといえば、そればかりだった。
不意に、足音が響いて来た。おそらく、新しい囚人が来たのだろう。
サッとシオンの顔から血の気が引く。もしもカミーユやフィオナだったら。そんな不安がよぎる。
シオンの記憶によれば、一つ奥の牢が空いているはず。そこに入るなら、通るときに顔を見ることもできるだろう。
石壁から体を起こし、鉄格子から廊下をのぞく。規則的に配置された燭台に照らされ、ぼんやりとだが、新たな住人の姿を見て取れた。
その正体を知り、シオンは息をのんだ。歩いて来たのは、先刻別れたはずのマレーであった。
一瞬、目が合う。マレーは特になんの感情も見せなかった。ただ、その顔はどこかつき物が落ちたようにも見えた。
新たな囚人は、やはり一つ奥の牢、すなわちシオンの隣の牢に入れられることとなった。
見張り番が遠くにいったことを確認してから、思い切って声をかけてみる。
「マレー。どうして、君がここに?」
牢屋と牢屋を仕切る壁は、思いのほか厚くない。まったく知らない声ならともかく、知っている声ならば聞きとることも不可能ではない。
「……シオン、か? どうしてとは……皮肉だな。君とて、その片棒を担いだんだろうに」
無視されるかと思ったが、マレーは普通に返してきた。声も、まるで世間話をするかのように軽い。
「僕が片棒? そんなこと……」
「あるさ。フィオナ嬢の言葉だけでは、きっと人は動かなかった。君が彼女の声を聞き、実際に動いたからこそ、人々も動くことができたんだ」
責められても不思議ではないはずだが、そんな響きはなく、むしろ友人の行動を称賛しているように感じられた。
「……恨んでいるかい?」
マレーの態度が予想外だったからか、思わず口をついてしまった。言ってから、しまったかな、と後悔する。
しばしの沈黙。聞こえなかったか、と安心しかけたところで、
「……さてな。私自身、よくわかっていないんだ。怒りを感じているわけでも、喜びを感じているわけでもない。ただ、私の役目が終わった。それだけは、よくわかるんだ」
その言葉に、ウソはなかっただろう。マレー自身、きっと今の状態を理解していないのだ。けれど、シオンにはなんとなく理解できた。だから、彼なりの解釈を述べてみる。
「きっと、君は解放されたんだよ。もう、ヴァンと比べられなくていいし、比べなくていいんだ」
「……そうか。そうなのかもしれないな。結局は、君の言う通りだった。私は、ヴァンと自分を比べて、彼のようになろうとしか、考えていなかったんだ。ふ……かつては君に、考えることをやめるな、などと言いながら、実際に考えることをやめたのは、私の方だったな」
「気づけたなら、よかったじゃないか。君はまだ、生きてるんだ。やり直しなんて、いくらでもきくよ。ここを出たらやりたいこととか、考えてみたら?」
シオンは明るく言ったが、マレーの今後は、厳しいものになるだろう。ここを出ても、政治の世界には戻ることはできまい。もし民衆の憎しみが強ければ、死刑を宣告されることすら、考えられる。賢いマレーならば、そんなことはわかっているだろう。だからこそシオンは、幼馴染として、彼に接する。
「……不思議というか、情けない話なんだがな。議長の職を解かれてから、かえって国のためにやっておきたいことが出てきてしまっているんだよ。できることなら、そういうことに携わりたいがな……」
「具体的には?」
「しかし……私は……」
言いよどんだところから察するに、やはりマレーは自分の行く末をわかっているのだろう。声にも、力がない。けれども、この男の心を折ってしまうのは、惜しい。
「〈アブニール〉では、実現する可能性がなくたって、真剣に話してたじゃないか」
実際、あの私塾の中では、現実的な話から、とんでもない計画まで話していた。たとえば、クリスは当時から革命を志していた。その一方でヴァンは、世界征服を夢見てもいた。それでも、くだらないと嘲笑する者はおらず、みんなで真剣にどうやれば世界征服ができるかを考えたものだ。
「……そうだったな。私はやはり、国外への警戒を強化したい。ヴォスタニエは、必ずこの国を狙って来る。あそこも、王国だからな。王族を打倒するような国がのさばっていては、さぞ気分が悪いだろう」
「たしかに、自分たちの国でも革命が起こったら困るもんね」
「そのために私は、北方の国土を開拓したい」
「北方を……?」
ローワン北方は、寒さがひときわ厳しいこともあり、ほとんど未開の土地となっている。そこから海を隔てたさらに北方の地がヴォスタニエ王国だ。もし、あの国が攻め込んできた際、北方が無防備な状態では、すんなりと上陸を許すことになる。あちらに警戒の意思を示す意味でも、北方を開拓することは有効かもしれない。
「実は、手をつけてはいたんだ。ただ、進行は思わしくなかった」
「どうして?」
「単純に、人材と物資の不足だ。いわゆる僻地だからな。行きたいと志願してくれる人間が、なかなかいない。それでもかき集めて送り込んだが、やはり統率がとれていないらしい。それに、ああした土地には、補給物資を送るのも難しくてな。食料などが不足し、体調を崩す人間も多いようだ」
「難しいね……」
しかも、開拓の目的は万が一のためのヴォスタニエ対策だ。見えない相手に備えるというのでは、なかなか意欲も出ないだろう。
「だが、必要なことだ。そうしてヴォスタニエを牽制できれば、国をまとめるまでの時間稼ぎもできる。とはいえ、これからのことはこれからの議会が決めることだ」
最後の方は、吐き捨てるような調子になっていた。今更ながら、悔いが出てきたのかもしれない。
「……それで、君はどうなんだ?」
「僕? 僕は別に、大したことは考えてないよ」
「人にだけ言わせるのは、不公平だろう? 処刑人をやめて、どうするんだ? 医者を本業にするのか?」
お見通しか、とシオンは嘆息した。フィオナ救出の際、死刑台の上で絶叫したことで、シオンの中で何かが吹っ切れた。もう自分は、処刑人にとらわれる必要はない。そう、思えたのだ。
「……僕も、やってみたいことはあるよ。学校を、つくってみたいと思ってる」
「ほう。意外……でもないか。君はずっと、それに憧れていたんだものな」
死刑執行人の一族であったシオンは、まともに学校に通えなかった。なんとか身分を隠して通っても、やがてばれ、退学を余儀なくされた。
――こんなにも学びたいのに、どうして自分は学校に通えない!
勉強が好きだったシオンは、ずっとそれを嘆き続けた。ヴァンに声をかけられ、〈アヴニール〉に参加したおかげで、その思いは解消された。だが、自分と似たような境遇の人がいると思うと、もどかしく思う部分もある。
「革命が起こる前までは、ちゃんとした教育を受けられる人間は少なかっただろう? クリスやフィオナは考えろっていったけど、ほとんどの人は、考えるための下地がないんだよ。だから僕は、これからの時代の基礎をつくりたい。学びたいと思う人全員が、勉強できる環境をつくりたいんだ」
「たしかに……教育は、これから重要な意味をもっていくだろうな。なんとも、君らしい。だが、生半可な道のりではないだろ?」
「正直、アテもないからね。でも、がんばるよ。あきらめなければ、実現できる。それは、ヴァンたちが教えてくれたから」
「……そうだな。それが、生き残ってしまった我々の責任でもあるのだろう」
その後、二人は見張り番がやってくるまで、互いの夢について議論を重ねた。時に笑いながら。時に、激高しながら。
まるで懐かしいあの頃に、戻ったかのように――。
数週間の時がたち、月がかわった頃、シオンは解放された。外はすっかり春に染まっており、気候は暖かく、至るところで花が開いていた。
とりあえず家路につこうとしていると、彼は思わぬ迎えを受けた。
「カミーユ!」
二人は抱き合い、再会を喜んだ。そしてシオンは、彼の用意した馬車に乗り、ある場所に向かうことになった。
馬車の中でカミーユは、シオンのいない間に起きたことを語った。まず、フィオナの身柄だが、事前にシオンが話していたように、ある教会に預けられた。その教会は、〈アヴニール〉の先生を務めた神父がいた教会だった。彼自身はもう他界しているが、今その教会にいるものたちは、その神父の遺志を継いだ者たちであり、信用できる。それに教会であれば、議会や王党派は、容易には手を出せない。
また、レイナは安全を確保する意味でも、故国に帰ったらしい。出産も、そちらでするようだ。
その後カミーユは、臨時で行われた選挙に参加し、見事議員として当選したらしい。
今日も議会が控えている中、迎えに来てくれたのだ。そして二人は今、議場に向かっているのである。
「それで、今日の議題は?」
なんとなく見当はついたが、シオンはあえて訊いた。普通の議題であれば、わざわざシオンを連れて行く必要はないはずだ。それを連れて行くということは、思い当たることは一つ。
「マレー・オルディネスの処遇について」
やはりか、とシオンは小窓から外を見る。議場に近づくにつれ、人が増えてきている。みんな、傍聴に行くのだろう。
「……見込みは?」
カミーユの顔が、苦いものになる。命すらも、危ないということだろうか。
「正直、死刑を望む声が多い。今回の議会には、王党派の議員も多く当選している。それがまずかった。私自身はともかく、王党派の多くの人間は、彼を恨んでいるからな」
何か、自分にできることはないのか。シオンは、頭を働かせる。しかし、妙案は浮かばない。
「……フィオナ様も、彼の死は望んでいなかった。だから、私の方でも可能な限り呼びかける。あとは、ヴァンに期待するしかない」
「ヴァン……?」
懐かしい名前に、シオンは首をかしげる。
「ああ、ヴァン・ピオニエールとは別人だ。遠縁ではあるらしいが。ヴァン・クードゥ。マレーの議会を解散させた発起人だな。まだ一四の少年だが、そうとう頭が切れる。彼も、何やら動いているようだったが、どうなるかな」
ヴァン・クードゥ。たしかに、ヴァンという名前は、それほど珍しいというわけではない。まして遠縁なら、共通の先祖にあやかった名前というのも考えられる。
それでもシオンは、親友と同じ名を持つ少年に、期待を抱かずにはいられなかった。
議場の中は、やはり人でごった返していた。傍聴席からは、今にも人があふれ出してきそうである。カミーユの好意で、彼の隣に控えさせてもらえているからいいが、あの中にいたら、押しつぶされていたかもしれない。
当のカミーユは、先ほどから隣の空席を気にしている。そこに座るべき議員が、来ていないのだ。
「まさか……ヴァン・クードゥかい?」
「ああ。遅刻をするようなやつではないが、何か不測の事態に陥ってないといいが……」
その後も、ヴァン・クードゥは現れなかった。シオンとカミーユの二人がやきもきしている間に、議長が姿を見せる。
そして彼は、どこかギクシャクとした動作で、議会をはじめようとする。
「くそ……!」
なんとか、開始を引き延ばそうとカミーユが立ち上がったとき――。
「待ってください!」
少女のような甲高い声を響かせながら、一人の少年が議場に入ってきた。シオンは直感的に、彼がヴァン・クードゥだと確信した。
そして、彼が伴ってきた人物を見て、目を見開いた。
そこにいたのは、フィオナ・ラフィーヌだった。格好こそ、町民のような粗末な服を着ているが、顔を見ればすぐにわかる。
「どうして……」
カミーユのほうを一瞥するが、彼も開いた口がふさがらない、という様子だ。
議場にいた誰もが、一瞬首をかしげていたが、すぐにその人物が誰なのかが判明し、一斉にざわつく。
そんな騒ぎなど意に介さず、ヴァン・クードゥは口を開く。
「議長! どうか、この方の話を聞いてください!」
議長も、それほど気が強い人物ではないのだろう。渋々ながら、それを承諾した。
フィオナが議場の中央、議会の発言者が立つ場所に行く一方で、ヴァン・クードゥはこちらへとやってきた。
「お前……なんという人物を連れてきたんだ」
呆れたように、カミーユがつぶやく。
「……フィオナ様は、僕の憧れなんです。ヴァン・ピオニエールの存在とあの方の言葉があったからこそ、僕は行動できた。あの人の言葉には、不思議な説得力がある。マレー殿を助けるのに、あれ以上の適任はいませんよ」
たしかに、マレーに殺されそうになった張本人が、彼の助命を乞うなら、最も効果的かもしれない。
「しかし、よく連れてきたな」
「ええ。おかげさまで、苦労しましたよ。教会の説得、大変だったんですから。そのせいで、こんなギリギリになってしまって」
身振り手振りを交えながら話すその姿は、中性的な顔立ちも合わさって、不思議な愛らしさがあった。天然で、人に好かれる類の人間だ。そういう点も、ヴァン・ピオニエールに似ているかもしれない。
「……あなたが、シオン・コンダーナですか?」
いつのまにか、少年の興味はこちらを向いていた。シオン自身も名乗り、握手を交わす。
「ヴァン君。言っておくけれど――」
「わかっています。僕は、彼女を利用しようなどとは、考えていません。今回は、これしか手段がないと思っただけです。今後は、決して手を出しません」
その誓いを信用することにし、シオンはフィオナの方へと視線を向けた。町娘の格好ながら、やはり彼女からは王者の雰囲気が漂っていた。人々が静まりかえるなかで、彼女はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「みなさまは、マレーの処遇について何を望むのでしょうか。彼の行いには、死こそ妥当な罪だとお思いでしょうか。ですが、私はそうは思わないのです」
その発言に、傍聴席から声が漏れてくる。はっきりした内容は聞こえないながら、不満や否定の意思があるのは明らかだ。
――殺せ、殺せ。
人々の怨嗟の声が響いてくるようで、シオンは吐き気を覚える。マレーへの憎しみが渦巻く議場は、どこか処刑台の広場に似た雰囲気があった。
やはり、命を奪うことでしか、憎しみは晴らせないのか。そんな絶望にすら、駆られてしまう。
カミーユやヴァン・クードゥも、眉をひそめている。もはや覆すのは、不可能か。表情からは、諦めも読み取れた。
しかし、ただ一人、フィオナだけはぶれていなかった。
「では、みなさんもまた、死ぬ覚悟はおありですか?」
刹那、議場の温度がいくらか下がった気がした。空気が凍りつく、とはこういうことをいうのだろう。
「マレーは、民の声に忠実な男でした。つまり、彼の行いは皆さんの望みでもあったのです。彼を悪だと断じるならば、皆さんの望みもまた、悪だったのです。それなのに、都合が悪くなれば、彼ひとりに責任をなすりつけるのでしょうか。これからの国は、誰もが発言できる、意思を示すことができることでしょう。ですがそれは、誰もが責任を負うことにもなるのです」
責任。
その単語は、民衆の肩に重くのしかかった。これまで国の運営は、王家と一部の貴族によって行われていた。平民は口をはさむ余地もなかったが、責任をとる必要もなかった。しかし、これからは違う。平民もまた、国の運営に関われるのだ。ただ、同時に自覚しなければならない。自分たちも、責任を背負ったのだと。
「では、マレーを無罪放免にしろと?」
傍聴席の人々が黙る中で、議長が声を発する。ぎこちなく見えたが、議長に選ばれるだけはあるらしい。
「いいえ。償いは、させなくてはいけません。彼に、より多くの命を救わせるのです」
「と、いいますと?」
そこでフィオナは、ヴァン・クードゥを一瞥した。彼は頷き、立ち上がる。
「議長。先日議題にあがったように、マレーは北方の開拓を進めていました。これは、先進国であるヴォスタニエ王国と関係を築くうえでも、重要な事項です。ですが、ご承知のように、開拓の進行状況は、芳しくありません。報告によれば、それなりの数の死者も出ています。その原因は、主に指揮系統の人材不足です。統率がとれぬゆえに、事故が起きたり、仕事が効率的に進まず、過酷な環境に長く身を置くことになり、病魔に侵されたりするのです」
もう十分です、とばかりにフィオナが頷いたため、ヴァン・クードゥは着席する。そして彼女が後を引き継ぐ。
「マレーは、人を動かす才に長けています。彼ならば、開拓に携わる人々のよき司令塔となるでしょう。死をもって、事態を終わらせるのか。それとも、生かして新たな道を模索するのか。みなさま、どうか広い視野でのご判断を」
そのとき、パン、という小気味いい音が響いた。まばらではあるが、傍聴席から拍手が起こったのだ。
――ああ、もう大丈夫だ。
安心したシオンは、議場の部屋を後にした。
――しかし、これも運命だろうか。
廊下を歩きながら、不思議な高揚に駆られる。牢で語り合った二人の夢。その一つが、叶う可能性が出てきたのだ。友人として、それは素直に祝福すべきことだと思った。
「シオンさん!」
甲高い声に呼び止められ、驚いて振り返る。
「ヴァン君。君、議会は?」
呆れたように問うと、愛らしい少年はいたずらっぽく笑った。
「少しくらい抜けても、大丈夫ですよ。それより、あなたに伝えたいことがあったんです」
「伝えたいこと?」
何か言いにくいことなのか、ヴァン・クードゥは視線を泳がせる。
壁に並べられた燭台。窓から流れ込んだ風が、その火を揺らめかせる。
「――僕の父は、ギロチンに殺されました」
突然の告白に、シオンは言葉を失った。頭の中で必死に思い出そうとするが、ギロチンを使っていたときの記憶は、ひどく曖昧だ。
「……すまない」
殺してしまったことと、それを思い出せないこと。二つの意味をこめて、シオンは詫びる。それしかできない自分が情けなかった。
「……僕は、あなたを恨んではいません。いいえ、正確には恨んでいたこともあります。でも、あなたのあの叫びを聞いて、気づいたんです。恨むべきは、あなたではなく、簡単に人を殺せてしまった機械と政治です。だから僕は、あのときも今回も、動こうと決めたんです」
「……ありがとう。わざわざ、それを伝えに来てくれたのかい?」
「それもありますけどもう一つ、決意表明を。――僕は、死刑の廃止を目指します」
その言葉を、どれだけ聞きたかったことか。
気付いた時にはもう、シオンは涙をこぼしていた。
「し、シオンさん?」
戸惑うヴァン・クードゥの手を取り、何度も感謝の言葉を述べる。
「ありがとう、ありがとう……」
自分の役目が終わった。
今なら、マレーの言っていたあの意味がよくわかる気がする。
ヴァンやクリス、そしてマレーにシオン。みんなの意思を継ぎ、自ら未来をつくろうとする者たちが現れてくれた。そのことの、なんとうれしいことか。
もう、自分のような存在は、必要なくなるのだ。
もはや、言葉もない。新しき希望の手を握りながら、シオンは大粒の涙をこぼし続けた。
その後、国民議会はマレーの処分を見送り、後日彼を議会に改めて召喚することを決めた。
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