第七章 人間の叫び
クリスの死から、二週間が過ぎようとしていた。例年ならば、そろそろ暖かさを感じ始めてもいいころなのだが、今年は寒さが続いている。
人々は、まだ新しい国家に慣れないのか、どこかそわそわしながら、時折国民議会が行われている方向へと視線を投げた。
いまだに王党派の抵抗は続き、戦いの火種はなくならない。しかもそれは、町中で突然はじまることもあるのだ。経済面や食料面への不安も、改善はみられるものの、解決には至っていない。
人々は、いまだに明日に希望を見出していない。だから、人々は明日へと導いてくれる英雄に依存する。その者がいる場所へと、目を向ける。
マレー・オルディネスが君臨する国民議会へと。
そのマレーは間もなくはじまる議会の準備を進めながら、思考をめぐらしていた。
クリスの処刑を広く発表したおかげで、それにおびきだされた大量の王党派を処理することができた。ただ、一掃できなかったのが心残りだ。
絶対的な象徴と多くの同志を失った王党派の残党たちは、もはややけくそといわんばかりに、むしろ活発化している。
だがそれは、ろうそくが燃え尽きる寸前に、一瞬大きく燃え上がるのと同じ、最後のあがきに過ぎない。何かもうひと押ししてやれば、すぐに掻き消えることだろう。
幸い、こちらには王党派の捕虜が多くいる。その者たちを処刑すれば、精神的苦痛を与えることができるだろう。それに彼らの死は、民衆の望むところでもある。
問題があるとすれば、シオンであった。クリスの死刑を行って以来、彼の心は死んでしまったらしい。先日会話をしたときも、終始心ここにあらずという様子だった。
あれでは、人の命を刈り取ることなどできないだろう。とはいえ、彼に「断罪騎士」という称号を与えてしまった以上は、そう簡単に役割を交代させるわけにもいかない。
だとしたら、どうするか……。
腕を組み、眉間に皺を刻みながら頭を働かせていたマレーは、ある意見書を手に取った。以前、一人の医師から提出されたものだ。名前はたしか……ギヨタンといったか。
その内容は、簡潔にまとめるならば、まず「これからの時代は貴族と平民が平等になるのだから、処刑方法は統一すべきだ」ということだ。たしかに、現在の制度では平民には主に絞首刑が用いられ、貴族には斬首刑が用いられる。
続いて「これからの時代は、人権を尊重する時代である。それならば、処刑も人道的な方法をとるべきだ。処刑方法の中で、斬首こそが最も苦痛が少なく、しかも迅速に執り行える処刑方法だ」という。
しかし「斬首には、相応の技量が必要である。死刑執行人の腕によっては、一太刀で絶命させることができず、死刑囚を苦しませることになる」とあり、「だからこそ、処刑は人の手ではなく、より確実に、より平等に首をはねることができる機械によって行われるべき」だとまとめられている。
そして、そのあとにはその機械の設計図が描かれていた。
――これはいい!
思わず、マレーは立ち上がった。この機械なら、今のシオンでも扱えるはずだ。さらにこれならば、人々の視線は機械の方に向き、いずれはシオンのことなど忘れるだろう。そのときこそ彼を解放してやればいい。
しかも、文句がいい。人権を尊重した、平等で人道的な処刑! これを議会でとりあげれば、民衆はきっと自分を評価するだろう。
そうだ、それでいい。それで、すべてがうまくいく。
「マレーさん。時間になりました。議場の方に、お願いします」
「ああ、すぐに行く――」
その日の議会において、マレーは新たな処刑器具を発案する。
その新しい機械の名前は、「ギロチン」と名付けられることになる。
処刑台の広場。以前は、飾り気のない木の舞台があるだけだったが、今その上には、二本の木の柱が伸びており、その間には禍々しい斜めの刃がきらめいている。刃が落ちる先の台は、もとからその色だったのではないかと疑いたくなるほど、見事に赤黒く変色していた。
一種の呪いともとれるシミを見つめながら、シオンは苦渋の表情を浮かべていた。
最近は、どうにも頭痛がひどい。意識だって、どこかぼやけている。
昔本で読んだが、医者の不養生とはこのことだろう。
いや、今はもう医者など名乗れるような立場にはない。このところは、診療所にも行っていない。ほとんど、家にこもりっきりだ。
もう、何も考えられない。クリスの首を断ったあの瞬間を、何度夢に見たことか。
それでも、マレーから仕事の連絡があれば、自分は家を出て、処刑台に向かう。そして、このギロチンをもって、多くの命を奪ってきた。
これまでの処刑では、手間がかかるゆえにそれほど回数は行えなかった。多くて、二回といったところだろう。
しかし、このギロチンは違う。たしかにこれは、死刑囚に苦痛を与える間もなく、迅速に命を刈る。ひどいときには、一日で五〇人もの人間を殺したこともある。
その中には、貴族もいたし、平民もいた。老人もいたし、子供もいた。死刑は、たしかに平等になったのだ。しかし同時に、感情を失った。
見物人たちは、悲しむことも、疑問を持つこともないまま、ただ処刑を眺めている。
それは、シオンが最も望まぬことであったはずだ。そのはずなのに、彼はそれを否定することなく、淡々と断罪の刃を操作している。
なぜなら、それが彼に残された最後の役割だったからだ。それを奪われればもう、自分が自分でなくなるような気がしていた。
なんの感傷も抱かず、それこそ機械のように、与えられた役割をこなす。そのことの、なんと楽なことか――。
不意に、先日処刑した子供の顔がよみがえる。まだ、一〇歳にも満たぬような子供だった。どんな罪状で殺されるのか、シオンにはわからなかった。ただ、マレーから命じられたから、殺すだけだ。子供はすがるように見てきたが、シオンは目をそらした。自分にできることなど、何もないと思って。
そう。自分にできることなど、何もない。この執行人の役目すら、いつまで続けられるか。自分などもうすでに、ギロチンの付属品に過ぎないのだから。
遠くで、正午を知らせる鐘が鳴る。その音を聞いて、シオンは外出の目的を思い出した。
彼は、これから国民議会で開かれる裁判を傍聴しようと思っていたのだ。
ただ、裁判とは名ばかりの死刑宣告ではあるが。普段の彼ならば、わざわざ行こうなどとは思わない。しかし、裁判にかけられる人間の名前が、見知った人間であったことが、彼の胸をざわつかせた。
被告人の名は、レイナ・レフィナディア。またの名をレイナ・ラフィーヌ。クリスの妻である。
彼女が裁判にかけられることを聞いたとき、シオンの心はこれまでにないほどざわついた。感情など、ほとんど失っていたはずなのに。
しかし、なぜそんなにも心が揺さぶられるのか。
その理由は、どうしても思い出せなかった。
国民議会の傍聴席には、すでに人があふれていた。椅子はすべて埋まり、通路にも立ち見の見物人があふれている。やはり、王族の裁判ということで、人気があるのだろう。
人ごみの苦手なシオンにとっては悪夢のような光景だが、彼は必死に人の波に逆らい、一番前まで躍り出た。
背中に圧力を受けながらも議場に目をやる。一番高いところには、議長であり裁判長であるマレーが鎮座している。レイナの裁判だから、深刻そうな表情をしているかと思ったがそんなことはなく、眉間の皺はむしろ浅いように見えた。その脇に控えていた男が立ち上がり、レイナの名を呼ぶ。どうやら、はじまるらしい。
扉の一つが開き、被告人が姿を現す。衆人環視の議場に足を踏み入れたその女性を見て、人々はざわついた。そして、マレーもシオンも目を丸くした。
入ってきたのは、レイナではなかった。細く小さな体に、人形のような愛らしい顔。そして、父や兄と同じ赤毛。純白のドレスに身を包んだその女性は、たしかにローワンの王女、フィオナ・ラフィーヌであった。
どうして彼女が現れたのか、見物人たちはもちろん、彼女を裁くはずの議員たち、ひいてはマレーも理解できていないようだった。
「どうして……君がここにいる? レイナはどうしたのだ?」
気弱な彼女を威圧するように、マレーが問いかける。けれどもフィオナは、まっすぐにマレーを見据え、凛とした声で告げた。
「義姉のレイナは、ただいま妊娠しております。ローワンの伝統では、妊婦については、裁判や処罰を延期する取り決めですね? なので、代理で私が参ったのです」
たしかに、ローワンでは妊婦の裁判や処刑などは行われない。これは、お腹の子にまで罪はない、という考え方からきているものだ。
レイナの妊娠を知らなかったであろうマレーは、唇を震わせた。
「そんな話は聞いていない。証拠はあるのか?」
証拠を求められたフィオナは、傍聴席へと視線を向けてくる。一瞬、シオンと目が合う。
「義姉がいない以上、この場で証拠を示すのは難しいかと。ですが、証人ならばそこに」
今度ははっきりと、フィオナはシオンを指さした。マレーはおろか、議場全体の目ににらみつけられる。
「……え? 僕?」
そんなことをいきなり言われても、ここのところレイナに会った記憶などない。知らない、と答えようとして、ふと頭に声がよみがえった。
――本当に、やり残したことはないんだよ。それに、希望も残すことができた。
クリ……ス……? そうだ、これはクリスの言葉だ。
――レイナとフィオナ、そしてもう一人のことを、よろしく頼む。
思い出した。自分は、託されたのだ。レイナとフィオナ、そしてレイナのお腹に宿った新しい命のことを。
「……本当です、議長。レイナは、妊娠しています」
シオンの堂々とした返答に、マレーは眉をひそめた。それからしばし思案して、フィオナの方へと向き直った。
「……医者でもある彼が言うなら、信用しよう。それで、それだけのためにわざわざ君が来たというのか?」
「――いいえ。少し、あなたに訊きたいことがあります。かまいませんか?」
不遜ともいえる態度で、フィオナはにこやかに笑う。その様子を見ていて、シオンは思わず首をかしげてしまった。
自分の知るフィオナは、態度も口調ももっと弱々しかった。しかし今の彼女は、マレーを前にしても臆することなく、堂々と舌戦を挑もうとしている。どこか、クリスを見ているようでもあった。
「私に? ……いいだろう。だが、これは君の裁判を兼ねさせてもらう。発言の内容によっては断頭台に上がってもらうことになるぞ?」
「……かまいません。では、議長殿。あなたにお尋ねします。いったい、あなたの目指す国とは、どんな国ですか?」
フィオナの登場にざわついていた傍聴席も、堂々たる彼女の態度にいつの間にか黙り込み、マレーの答えを待った。
「私が目指す国? 決まっているだろう。……平民が虐げられることのない、平等な国だ」
議場の所々から、拍手が起こる。この場にいるのは、ほぼ全員が平民といっていい。そんな彼らからすれば、マレーの目指す国は、実際理想の国だろう。ヴァンの目指した国だって、同じようなものだった。二人の違いは、王族がいるかどうかぐらいだ。
……しかし、今のマレーは一瞬言いよどんだ。
おそらく、普通の人間であれば気づかないような間であっただろうが、彼をよく知るシオンは、彼らしくないな、と訝しんだ。
「……では、そのためにあなたは何をするのです?」
「民の声を聞き、それに応える。そして、国民議会のもとで、国はひとつになるのだ……!」
議場から、「マレー、マレー!」と歓声が起こる。
国民の声に応える。これが口だけではない点が、マレーの人気の理由だろう。実際彼は、人々の望むままに、その手を汚してきた。
彼らが望めば、王族を処刑し、彼らが恐れれば、王党派を駆逐した。その手を汚しながら、彼は英雄への階段を一気に駆け上がった。その覚悟を知るから、国民は彼を支持し、同時に恐れてもいる。
マレーは正しい。そんな空気が場を支配する中、フィオナは肩を震わせた。
――臆したか。誰もが、そう思った瞬間――。
「ふふ……あははははっ!」
こだまする英雄の名をかき消すように、少女は肩を揺らして笑った。誰もが呆気にとられ、批判することすら忘れてしまう。
「……何がおかしい?」
ただマレーだけは、怒りに満ちた瞳で、フィオナを見下ろしていた。今すぐにでも死刑を宣告されそうな状況の中で、彼女はなおも不敵に笑う。
「だって、まるで子供ではありませんか。国民の声に応える行動力や、手を汚す覚悟は立派です。ですが、国民がいうから処刑する。そのやり方は、認めるわけにはいきません」
「ふん。どうせ自分が死にたくないから、私のやり方を否定するのだろう」
「違います。今のあなたは、危険です。あなたは自分で考えず、民の言葉に耳を傾けすぎてしまう。それも、自分を支持してくれる人々の言葉に。一方で、その人たちと対立する者たちは、邪魔だから処刑する。あなたは本当に、それで国が存続していけると思いますか?」
いつのまにか、傍聴席からの声援は止んでいた。マレーの頬を、一筋の汗が伝う。
「当然だ。国が一つになれば――」
「国は、一つになどなりませんよ。考えてもみてください。人はそれぞれが、違う考えを持っているんです。国とは、その集まりです。だから、一つにならなくて当たり前なんですよ。もちろん、ある程度の統一は必要です。ですが、自分とは違うものすべてを認めないというのであれば、その国は、遠からず滅びるでしょう」
「国が……滅びるだと……? バカなことを! 私たちはむしろ、その滅びからこの国を救ったんだ!」
傍聴席からも「そうだ、そうだ!」という声が響く。しかし、その声量は先ほどまでと比べて、かなり小さい。
「はたして、そうでしょうか? たしかに、父の統治は褒められたものではありませんでした。自らに益をもたらす貴族を重用し、自らに逆らう者には厳罰を処した。似ているとは、思いませんか?」
「似ている……だと?」
「今のあなたは、自分を支持する人々の声に耳を傾け、自分を乱すものを処刑する。まるで、父のようです」
シン、と議場が静まり返る。その沈黙は、その場にいた誰もが、無意識のうちに肯定してしまったことを示していた。
そしてマレーも、拳を握りしめ、口をつぐんでしまった。
シオン自身は、今のマレーがロワ一五世と重なるとは思っていない。しかし、いずれそうなる可能性は、十二分にあった。いや、あるいはもっとひどいのではないだろうか。
「違う……私は……」
動揺するマレーに、フィオナはさらなる言葉の刃を突き立てる。
「ええ、違いますとも。父上は、我の強い人間でもありました。たとえ重用している人間の言葉であったとしても、自分の考えと相違があれば、はっきりとおっしゃりました。マレー! あなたはどうなのです!? あなた自身の考えは! 言葉は! どこにあるのです!?」
「ああ……私は、私は……」
マレーはヴァンになろうと必死になっていた。そして、その方法として民衆の声に応えることを選んでしまった。もしかしたら、彼は彼であることを忘れてしまったのかもしれない。
シオンは、胸のあたりで拳を握りしめる。彼女の刃は、こちらにまで届いていた。
それに気づいているかの如く、フィオナが傍聴席へと向き直る。
「みなさん! みなさんももう一度、自分の頭で考えてください! 自分の目指したい国とはなんなのか。そのために自分が、何をすればいいのかを!」
すると傍聴席の一角から「でも、俺たちは平民で……」という力ない声が聞こえた。
その声が聞こえたのだろう。フィオナは、険しい表情から一転、柔らかな笑みを浮かべた。
「いいえ。もう自分を、平民などとひとくくりにしないでいいのです。あなたは、あなたであればいい。そして、あなただからできることをさがしてください。それが、これからのローワンなのだと、私は思います」
その言葉は、不思議と心に沁みた。あるいはそれは、フィオナに言われたからかもしれない。シオンは、かつての彼女を思い返す。かつての彼女は、クリスの駒であればいいと思っていた。そこには、自分というものがなかったといっていい。しかし彼女は見つけたのだ。自分が今、国のためにするべきことを。そのきっかけは、クリスの死だろうか。いや、彼のことだ。きっと、死ぬ前に何かを託していたのだろう。
――僕だから、できること……か。
ギロチンの付属品ではなく、シオン・コンダーナだからできること。何か、あるんだろうか。
ふと傍聴席を見回すと、中には涙を流している人もいた。これをきっかけに、この国はまた何か、変わるのかもしれない。きっと、いい方向に……。
「――死刑だ」
そのとき、議長席のマレーから声があがった。皆が、一斉にそちらを注視する。
「国民よ、惑わされるな! その女は言葉で我々を乱し、国を混乱させようともくろんでいるのだ! 私がロワ一五世と、あの暴君と同じ……? そんなはずがない! ここまで、国をまとめあげたのは誰だ!? あなたたちの願いを叶え続けたのは誰だ!? 私だ! この、マレー・オルディネスだ! 私のやり方こそが、正しいんだ! それに異を唱えるこの女は、我々を陥れ、王権を復活させようとしているのだ! そうだ! しかも、彼女は王族だ! もし彼女を認めれば、王党派の増長をまねくことになる! だから、彼女を処刑すべきなのだ!」
マレーは喝采を待ったようだったが、それは起こらなかった。むしろ人々は、彼の無茶苦茶ともいえる発言に、呆然としていた。
当のフィオナは、優しかった笑みを消し、厳しい目でマレーをにらみつけた。
「……それが、あなたの答えですか」
「ああそうだ。もう、話すことなどない! 衛兵! 彼女を連れていけ!」
呼ばれた兵たちは、今一つ状況を理解していないようであったが、マレーの迫力に気圧され、フィオナを連れて行こうとする。
「……最後に一つだけ。政治とは、言葉だと私は思います。それがなくなれば、その政治は終わりですよ」
その一言を残し、フィオナは連行された。
後ろ姿を見送った後で、傍聴席は一気にざわついた。このまま彼女が殺されてもいいのか、そんな声が大半だった。
そしてそれは、シオンも同じだ。
しかし、自分にできることがあるのか。
マレーの説得? いや、おそらく彼は、説得には応じまい。
なら、どうする? 考えろ。自分は、クリスに託されたのだから。あのときのように、救えないのはもう――。
そこでシオンは、一人の男のことを思い出した。クリスを救いたいと願いながら、それを果たせなかった男のことを。
「カミーユ……」
そうだ。あの時の自分は結局、待っていることしかしなかった。今度は、自分から動くんだ。
決意したシオンの瞳には、人としての輝きが戻っていた。
長く続いていた寒さも薄れ、サントリアの町では春の訪れを感じるようになった。
石造りを中心としたサントリアの町の通りは、ゴミなどもなく清潔的だ。間もなく花も咲き、色を添えることになるだろう。
ただ、それはあくまで表通りの話だ。一歩裏路地に入れば、至るところにゴミが落ちており、足の踏み場にも迷うほどだ。仮にここに花が咲いても、無残に踏みにじられるだろう。
そんな道を、シオンは歩いていた。人気はまるでないのだが、先ほどから妙に視線を感じる。裏通りの住人などといったら、彼らは怒るだろうか。とはいえ用があるのは、そうした日の当たらない生活をする者たちだ。
裏通りには、いくつも扉が並んでいる。その一つを前にして、シオンは足を止める。
これらの扉のほとんどは、表通りに建つ建物の裏口であり、主に裏通りにゴミを捨てたりするときに使われる。だが、表通りに建つ建物の中には、こちらの扉から入ることで、まったく違う世界が現れるものがある。その世界は、たとえば違法な取引が行われたり、盗賊の根城だったりする。シオンが得た情報によれば、彼らもそこにいるはずであった。
扉の奥から、人の気配がする。気を引き締めながら、シオンは扉を叩いた。
返事はない。遠慮なく扉を開いて、中へと足を踏み入れる。中ではろうそくが灯っているが、その全容はよく見えない――。
そのとき、頭上で殺気を感じる。シオンはとっさに、体をひねる。白刃が横をすり抜けるのが、かすかに見えた。目を凝らし、剣を握る手をとらえる。すかさず手刀で、相手の手首に一撃をいれる。短いうめき声と共に、剣が床に落ちる。それを拾い上げる頃には、目も慣れ、痛みに顔をしかめる男の姿が視認できた。その男の首めがけ、剣の切っ先を向ける。
ピリ、と空気が張り詰めるとともに、部屋の奥から物音がする。暗闇に慣れた目で見れば、いくつかの人影が動いている。
五人……いや、六人か。
部屋の広さからいっても、あまり大きな動きはできない。銃を持っている相手がいると厳しいな、とシオンは目算をつけた。
一触即発の雰囲気。シオンの頬を一筋の汗が伝ったとき、一つの人影が動いた。
「待てみんな! この人は敵ではない!」
その声を聞いて、シオンは肩の力が抜けた。同時に、喜びがこみ上げてくる。
「生きていたんだね……カミーユ」
ろうそくの灯りに照らされて、カミーユの姿が見える。金の刺繍が入っていた服は、すっかり薄汚れてぼろぼろになってしまっている。顔にも、どこか生気がない。
「なんとかな。……いや、こんな生き恥をさらすくらいなら、いっそ死んでしまった方がよかったのかもしれない」
「そんなこと、言わないでくれ。少なくとも僕は、君に再会できてよかったと思っているんだ」
「シオン……しかし、私がふがいないばかりに、クリストフ様が……」
他の者たちも、声を殺しながらも、悔恨のうめきを漏らす。ここは、王党派の集まりと聞いて来たのだが、やはり王族への思いは人一倍なのだろう。だからこそ、これは一種の賭けだった。
「カミーユ。君たちに、力を貸してもらいたい」
「我々に? いったい、何をやらせようというんだ? これ以上、どんな生き恥をさらせばいい?」
「――フィオナの救出」
そのとき、ぼんやりとしていたカミーユの目が、見開かれた。フィオナの処刑は、公にはまだ発表されていない。寝耳に水もいいところだろう。
「……まさか、フィオナ様までもが、処刑されるというのか?」
「事実だよ。だけど、彼女を失うわけにはいかない。今度こそ、救出を成功させるんだ」
「……なら、すまないが他を当たってくれ。我々では、力不足だ」
カミーユは震えていた。その内にあるのは、悔しさだろう。彼だって、フィオナの力になりたいに決まっている。しかし、クリスのときの失態が、彼に二の足を踏ませていた。
「いや、君たちでなければならないんだ」
シオンは彼を鼓舞するように、力強く言い切った。ただ、ウソは言っていない。実際、フィオナを救出するのは彼らでなければならないのだ。下手な王党派に渡せば、余計な争いをまねくことになる。だが、ヴァンやクリスと同じ理想を抱く彼らになら、託すことができる。
「シオン……。しかし、我々にはもう、戦力も武器も残っていない」
それを聞き終わる前に、シオンは近くの机に大きな袋を置いた。その口を開けると、中にはあふれんばかりの金貨が詰まっていた。
「これは……?」
「処刑人というのは、存外儲かる職業でね。これまでは、孤児院とかへの寄付につかってきたんだけど、ここのところはそこまで頭が回っていなかった。金に頼るのは嫌だけど、これで傭兵を雇うなり、武器を購入するなり、戦力を整えてくれ」
「シオン……本当にいいのか?」
「もちろん。でも、今度は僕も何かやらせてもらうよ? 何もしないなんていうのは、もうごめんだ。僕は、僕がすべきことをなす。君はどうするんだ? カミーユ。君が今なすべきことは、ここに潜みつづけることなのかい?」
我ながら、らしくない挑発めいた言葉だ。
しかし効果はあったらしく、カミーユの顔には、かつてのような激しさがあった。
「シオン。我々に汚名返上の機会を与えてくれたこと、感謝する。……いや、違うな。この汚名が雪がれることはあるまい。だが、だからこそ私はあなたに協力させてもらいたい。もう二度と、同じ過ちを犯さないために……!」
「ああ。人間はきっと、そう在ればいいんだ」
そして、シオンたちはフィオナ救出のための作戦をたてはじめた。
フィオナ処刑の当日。兄のクリスの時とは違い、頭上にはまばゆいばかりの青空が広がっていた。気温も、ちょうど過ごしやすい。これから処刑が行われるなど、想像もできないような陽気だ。
シオンは、ギロチンの傍らで死刑囚の到着を待っていた。この前レイナの証人となったことで疑念を抱かれたのか、今回死刑囚の連行は別の人間が行っている。
もしかしたら以前、カミーユたちに協力しようとしていたのが、ばれているのかもしれない。だとしたら、道中を警戒するのは当然だ。
だが、これくらいのことはこちらも想定に入れている。今回救出を決行するのは、この処刑台の上だ。
クリスのときと同じように、今回も多くの見物人たちが集まっている。彼の時と違うのは、この中の多くが、フィオナの死にためらいを抱いていることだ。
今回は、その心理を利用させてもらう。とはいえ、ほとんど賭けだ。それも、分が悪い。
けれども思えばこの革命は、ずっとそれを潜り抜けてきた。ルフォー砦、トロンヌ王宮、そしてオリゾン平原。いずれも、ほとんど勝つ見込みのない賭けだった。ヴァンは、革命を志した人々は、それを勝ってきたのだ。今回も、これが国のためになるのなら、きっと成功するはずだ。万が一失敗するのなら、それもまた運命。
シオンの肚は決まっていた。
やがて、馬車の音が聞こえてくる。そして、二人の兵士に伴われ、フィオナが処刑台に上がってきた。
「……シオン」
こちらの存在を認めたフィオナは、小さく微笑んだ。だが、その体は震えていた。彼女は、以前よりもはるかに強くなった。しかし、心の底から強くなるには、あまりに時間がなかった。きっと今も、必死で死の恐怖と戦っているのだろう。
「……よくがんばったね」
優しく言葉をかけると、フィオナは頷いた。兵士から彼女を預かり、ギロチンの台へと連れて行く。そして、彼女をギロチンの台に立たせたところで、シオンは彼女から離れた。処刑台の一番前。民衆から、最も見やすい位置に立つ。
「ローワンの国民よ! 今、一人の小さく勇気ある少女が、無慈悲なる鉄の刃に殺されようとしている! そこで、諸君に一つ問いたい! この処刑は、本当に正しいのか!?」
突然叫びだした処刑人の姿に、その場にいた誰もが目を丸くした。
「いや……この処刑だけではない! この革命が始まって以来、我々はこの処刑台の上で、多くの血を流してきた。だが、それは本当に必要な血だったのか!?」
それは、作戦と呼ぶには、あまりに粗末なものだった。今回の処刑では、多くのものが疑問を持っている。だから、シオンが言葉をもって、それを説得するというのだ。
あるいは、カミーユたちは反対するかもしれない。シオン自身、そんなことを考えていた。だが、彼らは反対しなかった。むしろ、応援してくれたのだ。その胸の内にあるものを吐き出してくれ、と。だから、心優しい処刑人は声の限りに叫ぶ。
「死刑とは、未来の可能性を摘み取る行為だ! この断頭台に送られたものたちの中に、そこまでの行いをした者がいたか! 貴族、王党派、あるいはその関係者! 彼らは、あなた方と違う考えを、価値観を持っていただけではなかったか!? 彼らは本当に、死ぬしかなかったのか!?」
これまでの人生の中で、ここまでの声量を出したことがあっただろうか。のどが熱くなり、血が出ているような感覚さえある。それでも、叫ぶ。
「このギロチンができて以来、死刑はあまりに軽くなった! 気に入らないから、いずれ違う考えを抱くかもしれないから。そんな理由で、ここに来る者だっていた! ふざけるな! 命は、そんな軽いものじゃないだろう! そうやって考えなしに殺して、殺し続けて! その先にできる国が、あなた方の理想の国なのか!?」
人々は、呆気にとられてシオンを見つめていた。どれだけの思いが届くかなんて、わからない。それでも、何度でも叫ぶ。
「あなたたちは、この冷たいギロチンとは違うだろう! 感じる心が、考える頭があるはずだ! だから、もう一度答えを聞かせてくれ! フィオナは本当に死ななきゃならないのか!? 未来を摘み取られなきゃいけないのか!? 頼むよ……僕はもう――殺したくないんだぁぁぁっ!!」
シオンが叫びきるのを合図に、カミーユたちが動き出す。呆然とする兵士を蹴散らし、処刑台の上へとあがる。
「こちらへ!」
そして、フィオナを連れて民衆の波の中へ走り抜けようとする。
――ここが、勝負どころだ!
「頼む! 彼女の死刑を望まぬなら、道をあけてくれ!」
力の限り叫び、シオンは恐怖のあまり目をつぶってしまった。しかし、すぐに思い直し、現実を直視する。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
ローワンの伝説に、ある聖人が海を割り、現れた大地を歩いたというものがある。
その伝説のごとく、目の前では人海が割れ、フィオナたちが駆ける道をつくっていた。
シオンは、うれしさのあまり涙を流した。だが、いつまでも泣いてはいられない。
処刑台から飛び下り、フィオナたちを追おうとする兵士たちの前に、彼は立ちはだかる。
「ここから先へは、行かせない……!」
武器をとったシオンに続くように、民衆も兵士たちに群がった。守るべき一般人を傷つけるわけにはいかず、軍人たちは戸惑う。
その光景は、どこか革命当初のようであった。
シオンたちが時間を稼ぐ間に、カミーユたちはフィオナと共に駆け抜けて行った。
やがて軍の増援が来たことで、民衆たちも下手に騒ぐことはできなくなり、シオンも拘束された。しかしそのときにはもう、フィオナやカミーユの姿は、影も形もなくなっていた。
処刑台のある広場。先ほどまではあふれんばかりの見物人がいたが、今はわずかに残るのみだ。その残った人たちは離れたところから、処刑台下に陣取った軍と彼らに捕らえられたシオンを見守っていた。
フィオナ脱走の知らせを受けたマレーは、眉間に深い皺を刻んだ顔で現れ、シオンを見下ろした。
「……なぜ、こんなことをした?」
マレーにとって、シオンは最後の友人とも呼べた。多少ぶつかるようなことはあっても、絶対に自分を裏切るようなまねはしないと思っていた。「断罪騎士」という称号も、ギロチンの導入も、今日処刑台で待たせたのも、マレーなりの気遣いだった。シオンもそれをわかっているから、辛いなりに力を貸してくれているのだと思っていた。
「それなのに……なぜだ……」
怒りとも、悲しみともつかぬ表情で、マレーは親友に問いかける。死刑執行人は、これもまた達成感と申し訳なさが同居したような表情で答える。
「……思い出してしまったんだ。僕が、シオン・コンダーナだと。思い出してしまったらもう、処刑のための機械ではいられない。シオン・コンダーナとして、譲れないものがある」
「それがこれか……くだらない!」
「くだらなくないさ。大事なことだ。マレー、君がヴァンと思い描いたのは、本当にこんな国だったのか? 君の一番やりたいことは、なんなんだ!」
今にも掴みかかってきそうなシオンの剣幕に、マレーはたじろいだ。彼がここまで感情を露わにするのを、はじめてみた。
「私の望みは――」
まただ。このことを考えると、頭に霧がたちこめる。フィオナと対峙しているときもそうだった。同時に、体に悪寒が走る。霧の奥にあるものを直視したら、何かが壊れてしまう気がして。だから、必死に目をそらす。
「私の手によって、国を一つにまとめあげること。そして、誰もが平等な国をつくることだ」
「……そうやって君は、自分が認められたいんじゃないのか?」
刹那、心臓が強く跳ねた。表情が、こわばる。反論の言葉が、紡げない。
「君は、ヴァンの代わりとして、いいや、ヴァン以上の英雄として認められたいんじゃないのか? 国づくりは、そのための手段になってしまっているんじゃないのか?」
「……勝手な憶測だな。しょせん、君のような男には、私を理解できないよ」
無理やりに口角をあげ、不敵な笑みをつくってやる。
「……僕には、君の気持ちがよくわかるよ。僕も、人に認められたかった。だから、医者をはじめたんだ。一人でも多くを救いたい、なんて大層な言葉を口にしながらね。でも結局僕は、そうやって人に好かれたかったんだよ。最低だろ? だけど、だからこそわかるんだ。今の君は、僕と同じだ」
「違う! 断じて違う! 私の理想は、そんな小さなものではない!」
目と目を合わせ、シオンと真っ向から向き合う。どこまでも続く闇を思わせる黒い瞳。これまでは気にかけたこともなかったが、今は、すべてを見透かされているような気にさせられた。
――これ以上、感情を掻き乱されてたまるか!
「もういい! 連れていけ!」
兵たちに命じ、連行させる。
「マレー。君にも、思い出すときがくることを願うよ」
「ほざけ。いずれお前を、断頭台に送ってやる」
連れていかれるシオンの後ろ姿が見えなくなると、一気に体が軽くなった気がした。頭にも、冷静さが戻る。
「……フィオナと王党派どもの捜索は任せる。そう遠くへは行けないはずだ。おそらく、どこかに潜伏しているのだろう。裏通りも、くまなくさがせ。私は、議会に戻る」
指示を出し、マレーは議場へと足を向けた。
自分が、認められたいだけ? シオンはいったい、何を言っているのだ。そんなはずはない。自分の理想が、そんなものであるはずがない。
結局、彼は自分の理解者ではなかったということか。
――さぁ、議場に戻ろう。
あそこには、自分の理想を理解してくれる多くの同志がいる。彼らと共に、最高の国をつくるのだ。
議場の自室に入った彼は、議会のための書類を整理し始めた。
今日の議会の内容は、どうしようか。さすがに、いきなりシオンの裁判をするわけにもいかない。とりあえず、フィオナを逃がしてしまったことの謝罪はしなくてはいけないか。頭が痛い。やはりこれを機に、反社会集団への取り締まりを強化すべきかもしれない。ああ、そうしよう。
頭の中で原稿を練り上げながら、マレーは議場へと足を踏み入れる。
いつも通りの喝采が、全身に浴びせられる。彼は、そう考えていた。
――しかし、現実は違った。
議場は静まり返り、誰もが冷たい瞳で、現れたマレーを見つめてきた。いや、それだけではない。普段は傍聴席から議会を見守っている民衆が、議場の中に入り込んできている。
「なんだこれは……いったい、どういうことだ!?」
厳しい声音で責めたが、人々はまるでひるまない。彼らの顔には、明らかな敵意があった。
まさか、フィオナ脱走の責任を追及するつもりか。マレーの額に、汗がにじむ。
「先ほどの処刑での事件を気にしているのならば、心配はいらない。必ず見つけ出して――」
「議長。僕たちは、そんな話に来たのではありません」
民衆の中から一人の少年が歩み出る。一瞬少女かとも見まがうような、中性的な顔立ち。声もまだ、子供のそれだ。格好が男の服装だから、かろうじて少年だと判断できる。服などに、装飾もないことから、平民の少年だろう。
「……では、なんのためにこんなことをしたというのだ?」
もしや、王党派に議会が占拠されたのではないだろうな、とマレーは最悪の事態までも想定に入れる。しかし、少年の言葉は、そんな想定など一瞬で吹き飛ばした。
「僕たちは、あなたの辞任を要求しに来たんです!」
一瞬、何を言われているのか理解できなかった。そんなはずはない、と否定しようとする。しかし、この耳はたしかに聞いてしまった。
「私を……辞めさせるというのか? いったいなぜ?」
「今のあなたのやり方では、この国は独裁に戻ってしまう。この国のためにも、あなたはやめるべきです!」
全身の力が抜ける。これまで築き上げてきたものが、一気に崩れ去った心地だ。
「そうか……。だが、私の代わりを務まる人物が、いると思うのか?」
「……わかりません。それは、みんなで考えます」
「みんなで?」
「今後、国民議会の議員は選挙で選びます。僕たち一人一人が、国の未来を託せる人間を選ぶんです。選ばれた中には、意見が食い違う人たちもいるでしょう。だけど、そういう違いを話し合って、道を模索していくのが、議会という場所だと思うんです」
少年の幼いながらも力強い言葉に、マレーは頭を思いっきり叩かれたような気がした。けれども、彼はまだ折れない。
「悠長なことだ。そんなことで、国がまとまると思うのか? 国外に目を向けろ。ヴォスタニエ王国などが、虎視眈々とこの国を狙っているんだぞ!」
「……まとまりますよ。みんな、この国を想っていることは、変わらないんですから」
少年の屈託のない笑み。それを見て、マレーは一人の男を思い出していた。追いつきたいと願い、どこまでも遠くに行ってしまった、あの男。
「……少年。名前は、なんという?」
「――僕は、ヴァン。ヴァン・クードゥです」
名を聞き、改めて少年を見据える。不思議と、雰囲気も似ている気がした。
「ヴァン……まさか……?」
「……遠い親戚にあたるそうです。直接会ったこともありませんし、このことを知ったのもつい最近でした。でも、あんなすごい人が僕にとって実は身近な存在だったということが、僕に勇気をくれたんです」
それを聞いて、マレーは笑いだしてしまった。こんな偶然が、本当にあるのか。いや、ここまでくれば運命か。
「……本当に、かなわないな」
あるいは、彼に追いつこうとしたのが、バカな考えだったのかもしれない。彼は自分にとって、越えるべき壁ではなかったのかもしれない。
「この人々は、君が集めたのか……?」
「僕一人ではありません。僕の学ぶ塾のみんなに協力してもらいました。僕一人では、こんなには集められなかった」
「そうか……」
どこまでも、自分たちと似ている。時代とは、こうして廻っていくものなのかもしれない。まちがいを繰り返しながらも、少しずつ進んでいくものなのかもしれない。
「あとは……任せていいのか……?」
「はい。――お疲れさまでした」
肩の荷が下りるとは、このことか。これまで走り抜け、つくりあげてきたものは、すべて失ってしまった。
――そのはずなのに。
マレーの心は、どこか晴れやかだった。
共暦元年、マルスの月。こうして、マレーによる国民議会は解散することとなった。
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