定理3-2

 ネハンは円形の外周を持つ人工島だ。中心は都会のようにビルが立ち並び、それを囲むように居住区が設けられている。居住区の向こうには海岸や森、飛行場までが存在し、ないものはないというぐらいに全てが揃っている。チュウネンは私立中央ネハン高校といいつつビル群の外側にあって、どちらかというと住宅街のある方に近い。


 役場は、ネハンの中心にあるビル群の中にある。ビル群は複数のビルからできており、一つのビルは複数の会社や企業の窓口やらオフィスやらでできている。

 待ち合わせは場所は四角いビルの入り口前。役場はこのビルの階層のどこかにあるらしい。役場も、その他の様々な窓口も、みな一様に四角く形成されて、積み上げられている。そのダルマ落としのダルマの側面を、ARの魚がゆっくりと泳いでいく。巨大な魚は、ビルの中にある水槽の中に本体がいて、リアルタイムで撮影されたものをここに投影しているらしい。


「おいしそう」

 花園香織は、魚を見上げて言う。

「あっ……あっ……」

 心一はやはり言葉を発することができずに、頷くしかない。


 心一が集合時間より五分早く到着した時には、香織は既に待ち合わせ場所にぼうっと立っていた。制服で。心一は自分の姿を改めて見る。妹の言葉を思い出す。制服で来ればよかったと思う。今更気付いてももう遅い。


「みなさん、早いですね」

 明彦が一番最後に到着した。といっても、待ち合わせ時間ちょうどだ。もしかしたらどこかに隠れていて、時間を調整して現れたのかもしれない。明彦ならやりそうだと、眼鏡を指であげる彼を見て思う。


「明彦くんの眼鏡、いつも光ってるよね」

 明彦の眼鏡は、常に光を反射したように光っている。そのせいで心一は彼の目をまだ一度も見たことがない。

「ええそうです。光らせてるんです」

「光らせてるの⁈」

「はい。ARで光るように見せてあるんです」

「一体何のために?」

「かっこいいからです」


 明彦が眼鏡をクイッと持ち上げる。光りものがかっこいいと思うのは、男の性なのかもしれない。心一も子共の頃は光るビームサーベルを振り回して遊んでいたような気がする。今はやっていないけれど、やはり光りものはかっこいい。


「それでは、行きましょう。花園さんはどうしますか?」

「行く」

「ベンチぐらいは中にあるでしょうから、そこで待ちますか?」

「うん」

 香織が頷く。彼女が小さく奥ゆかしく頷くその姿を見て、心一の背中を電流が駆けた。

「ああ! 可愛い!」

「碓氷さん、どうして私にそんなことを言うんですか」

「ああ、ごめん。つい……」

「変な人ですね……」


 明彦はスタスタと歩いていく。明彦の動きを感知して、自動ドアが開いた。心一と香織も後を追う。

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