怪しい手紙と水没魔の幼馴染

 大量に作った唐揚げの半分を明日の弁当のおかずと朝食に分け、残りの分を輝希てるき一人で夕飯のおかずとして食べた。

 野球部男子一回分の食事くらい食べた実感がする。

 空っぽだったお腹が満たされたことに満足し、ポストの中に入っていたチラシなどに手を伸ばす。その中でも一際目立つ謎の封筒が気になっていた。


「差出人の名前はなし、……宛先も書いてないということは郵便じゃないな」


 怪しいがポストの中に入っていたことには変わりないので、封を開ける。


「手紙だとしても手口が古いな。もしかして⁉︎ ラブレ……ターなわけはないか。ラブレターをポストに入れるなんていつの流行りだ? 今はスマホで一言だからなぁ、やったことないけど……」


 封を開けると中には二つ折りにされているこれまた可愛らしい手紙が入っていた。本当にラブレター⁉︎ なんてバカな考えが出来ることは今の僕はまだ正常だ。

 恐る恐る二つ折りにされている手紙を開く。



 拝啓、太刀花たちばな輝希様。

 この度は今、お手に持っている手紙をお読み頂きありがとうございます。



 たった一行読んだだけで僕は手紙をクシャクシャに握り締め、ゴミ箱へと放り投げた。


「はーあ、バカバカしい。……風呂入ろ」



 *



 風呂上がりに飲む物としたら至ってシンプルに牛乳だ。

 透明なグラスに牛乳を並々に注ぎ、それは一気に喉へ流し込む。


「ぷハァ……」


 火照っている体に冷たい牛乳はとても合う。まぁ、冷たい飲み物なら何でもそうだが……。

 自分の部屋からスマホを持って来てとある人物に電話を掛ける。内容としてはストーカーについて。時間帯からまだ寝ていないと思い、繋がるのを待つ。


「……」

「ーーあ、もしもし? こんな時間にどうしたの、テル?」

「こんばんは、圭菜けいな。突然だがーー」


 言葉を言いかけたところで圭菜の居場所が部屋からではないことに気付いた。


「おい、圭菜。また風呂場から電話してるな?」

「あれ、バレちゃった? 今日は湯船に浸かってただけなんだけどなぁ……」

「声が反響してる。静かにしてたってそれは無駄だ」


 電話の相手、鈴宮すずみや圭菜は僕の一人の友人であり、幼馴染である。

 相変わらずといって圭菜は僕との電話は風呂の最中に応じる。そして、たまにスマホを水没させてお母さんに怒られている。しかも新しいスマホを買うため、こっちに金を請求してくるという最低な奴だ。


「水没させるなよ。もう圭菜には金を貸したくはない」

「えー、ダメだよ。テルは私の貴重なお財布なんだからさっ! エヘヘ」

「笑い方が気持ち悪い。今すぐにでも、そっちに押し掛けて圭菜のお母さんに言ってやろうか? 僕は圭菜からずっと金を集られていたって」

「うぅぅ、それを言われてしまうと……あ、そうだ! き、今日の数学の授業で解けなかった問題があるんだ。教えて」

「へー、あの圭菜から勉強を教えて欲しいとせがんでくるとは……うん、圭菜のお母さんに報告だな」

「ふざけんな!」


 たった一人の友人にして、こんな僕の幼馴染にしては勿体無い。

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