一人前という量を考えよう

 ストーカーの存在に気付いたのは一ヶ月前。

 そしてそのストーカーが同じ学校の制服で、しかも女子だと気付いたのは二週間前。それまでは全身黒の服装だったから、性別など特定出来るものなんてなかったから被害届を出そうにも出せなかった。

 しかし、今となっては特定出来るものがあり過ぎて向こうが、どうぞ通報してください、と言っているような気がして怖い。

 僕は日課となっている学校帰りにスーパーへ寄った。ストーカーのことは気にはなるものの、それよりも自分の夕飯のメニューを優先させる。


「お、今日は鶏肉が特売か……うん、唐揚げだな。だとすると、唐揚げ粉を買わないとか。あ、そう言えば、圭菜けいなが昨日突然来たからジュースがない」


 買う物を言葉にし、忘れないようにする。いつもながら思うこととしてはメモれば忘れないだろ、と自分自身にツッコミたくなる。

 スーパーの袋二枚分の買い物をして、僕はスーパーを後にする。

 視線を感じながら帰宅することに違和感を覚えるが、仕方ないと言うしかないだろうか……。

 元凶である人物に近付いて注意したとしても、人通りの多いここでは目立って逆に僕の方が怪しく思われる。ここはしばらくの辛抱、と覚悟を決める。

 スーパーの通りからかなり離れ、人通りが少ない路地まで来ると僕はとある行動を起こした。


「えーっと、けい……」


 少しばかり大きめに声を出しながら、スマホを手に持つと後ろにいるストーカーの辺りから物音が聞こえた。

 けい、としか言っていないのにも関わらず、後ろにいるストーカーは警察に連絡されると思ったのか、慌てて逃げようとして自分の足に躓いて転んでいた。姿は見せないよう直ぐ、近くにあった自販機に隠れていたがバレバレだ。


「イッ……ター」


 微かに痛みを我慢している声が聞こえてきたが、ストーカーを助ける気はさらさらない。そこまでお人好しでもないし……。

 これで退散してくれるだろうと思い、残りわずかな帰路を歩き始める。


「連絡するのは警察じゃなくて、圭菜だけどな」


 それにしても面白いストーカーだったなぁ。でも、どこかで見たことがあるような顔だったなぁ……。



 *



 面白いストーカーを何とか撒いて帰宅した。家がマンションの七階だから少しばかり景色が良いことが自慢となるが、景色を楽しむ高校生などあまりいない。いるとしたら旅行好きくらいだろうな。

 リビングのテーブルに買い物袋とポストの中に入っていたチラシや謎の封筒を置いて、自分の部屋に行き二分で着替えを済ます。手洗いうがいを忘れることなく、再びリビングに戻り買ってきた物を冷蔵庫にしまう。

 時計を見ると時刻は六時を回っており、やるべき家事が何も終わっていないことに絶望しながらも、一つずつ作業を行っていく。

 まずは洗濯物の取り込み。ベランダに出て三日分の洗濯物を全てソファーに投げ込む。畳むのは面倒だからやらずに次の家事を行う。

 時刻は七時。ほとんどの家事を終え、今は夕飯の支度をしていた。

 太刀花たちばな家はただいま在宅しているのは輝希てるきのみ。両親は海外へ仕事の都合上渡米中。

 そのため、食事はもちろんのこと、家のことは何から何まで輝希一人でこなさなければいけなかった。

 油のジュクジュク音がキッチンに響き、輝希の空っぽなお腹からグゥーと鳴ってしまう。つまみ食いの衝動を起こす音に負け、揚げ終わったばかりの唐揚げを一つ口に放り込む。


「はぁつ……あっつ」


 口の中に溜まっている蒸気を吐き出すようパクパクさせ、新しい空気を求める。


「ハァ……でも、美味い!」


 全ての唐揚げを揚げ終わってから気付いた。量を間違えた、と……。

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