第35話 海に来てやること? そんなのスタミナ尽きるまでスマホゲーやるに決まってるじゃないですか
そう言って先輩とサクは更衣所へ。二人の水着か。……ゴクリ。いやゴクリってなんだよ何緊張しちゃってるんだよ俺。
男の着替えは一瞬。ただ悶々と待つ時間だけが過ぎていく。
「待たせたなスイ~。着替え終わったぞ~」
「ほんといつまで待たせる気なんですか」
振り返ると、朱音先輩の圧倒的なプロポーションが目に飛び込んでくる。水着はシンプルな黒ビキニ。シンプルだからこそ素材の良さが活かされるというかなんというか。くっきりと見える谷間に、芸術的な流線を描く腰から足のライン。
「どうだスイ、この完璧なスタイルは! ほれほれ、こんなポーズや、こーんなポーズまで!」
「ちょっとやめてくださいよ先輩! 恥ずかしくないんですか!」
「そうだよおねえちゃん、それくらいにしておこうよ。他の人も見てることだし」
「すまんすまん、スイの反応があまりにウブだったから面白くてな。サクもいつまでもわたしの後ろに隠れてないでスイに水着姿を見せてやれ」
「か、隠れてるとか、そんなんじゃない。ただおねえちゃんを日除けがわりにしてるだけで」
「ええーいごちゃごちゃうるさーい!」
先輩によって強引に前にだされるサク。
朱音先輩と色違いの、白いビキニだった。胸の布地の真ん中が一つ結びのデザインになってるやつ。
胸は大きくはないが全体的なバランスが完璧なまでに整っている。痩せ型だが肉がついていないわけではなく、小ぶりな胸とお尻が発達途上ならではの魅力を放つ。
「うぅ~、この格好でおねえちゃんの横に並びたくない……」
サクは先輩に劣等感を感じているらしく、身体を縮こませている。サクもサクで十分魅力的だと思うけどなぁ。
「サク、そんなこと気にする必要ないと思う。ほら、周りを見てみろよ。先輩だけじゃなくてサクにも視線が集まってるぞ」
「その人たちはきっとロリコンですね」
「なんだ、自覚してたのか」
「それはどういう意味ですかスイ!」
「ごめん、つい口がすべって」
「そこは否定してください!」
気にしてたことなのか顔を真っ赤にさせながら追いかけてくる。俺も走って逃げるが、すぐに追いつかれてしまった。忘れてた。初対面のときもそうだったが、サクは非常に足が速いんだった。
「ま、待てサク!」
「待ちません。覚悟してください、スイ」
「か、身体が密着しすぎてる!」
追いつかれたと思った瞬間、サクが跳躍して背中に飛びついてきたため、その、かすかなふくらみが押し当てられていて大変なことに。
「へ? ひゃ、ひゃあ!」
かわいらしい叫び声をあげて慌ててとび退く。
「ったく、気をつけろよな。サクも女の子なんだから」
「はい、すみません……あれ、何で私が怒られているんでしょう」
「とにかく! せっかく海に来たことだし遊び尽くすとしますか」
話を逸らすべく俺はスイカを取りにいこうとする。だが、朱音先輩に行く手を阻まれた。
「待つんだスイ。わたしたちには海で遊ぶ前にまだやることが残っている」
先輩は俺の目の前にスマホの画面をつきつける。ブレイドファンタジアが開かれていた。
それを見てサクがすぐに本気モードの目になる。俺はそれを見て先輩の言わんとしていることを察した。
「海に来てまでやるんですね……」
パラソルの下で三人とも体育座りしながらひたすらスマホの画面をポチる。端から見たらさぞかしシュールな光景だろう。
ゲリラダンジョン。それは発生時間がランダムで、一日に三〇分しか現れない貴重なダンジョン。報酬は装備品を大幅にレベルアップさせる強化アイテムで、普段は高校生活を送っていて日中はなかなかスマホをチェックすることができないため、できるときは血眼で進めなければならない。
スマホ部らしいいつもの光景。安心感すらわいてくる。
スタミナが尽きるまでダンジョンに潜り続けること二〇分あまり。全員ホクホク顔でアプリを閉じる。よし、これでやっとランキング報酬でもらった装備品をレベルマックスにできた。
「さあ、ゲリラも消化できたことだし、遊ぶぞ! まずは日焼け止めをしっかり塗ることからだ! 日焼けはお肌によくないからな」
先輩は手早く日焼け止めを身体に塗り込んでいく。あらかた終わったところでシートにうつ伏せに寝ころび、俺に、ん、と日焼けどめを差し出してきた。
「これを俺に塗れと? サクに頼んでくださいよ」
「よく見ろスイ。サクもわたしの横で待機してるぞ」
先輩に気をとられて気づかなかったが、ちゃっかりサクもうつ伏せになっていた。
「サク……お前は違うって信じてたのに」
「な、なんですかその残念なものを見る目は! 届かない場所なんだから仕方なくですよ仕方なく!」
「スイ、あきらめろ。そして早く手を動かせ」
「わかりましたよやればいいんでしょうやれば!」
半ばヤケクソ気味に先輩の手から日焼け止めをひったくり、中身を背中にたらしていく。
「んっ」
「ちょ、変な声ださないでくださいよ!」
「不可抗力だ」
「はいはい。じゃあ塗っていきますからね」
俺は両手を使い、丁寧に塗り込んでいく。先輩の肌は柔らかく触り心地抜群だ。油断しているとずっと触れていたくなってしまいそうなので、手早く終わらせることにした。
「むぅ、これはなかなか。やはり他人にしてもらうと違うな。それにスイの手が予想外にたくましくて、その、ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ、ドキドキ、するというか」
「よくわからないことふにゃふにゃ言ってないで、はい、塗り終わりましたよ」
「もう終わりか……」
「なんでそんな残念そうなんですか。先輩だって早く遊びたいでしょうに」
「知らん!」
先輩はプイッとそっぽを向いてしまった。なんなんだ一体。先輩は気まぐれすぎてたびたび真意をはかりかねるんだよな。
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