第29話 休日

 夏祭りから二日が過ぎ、月曜日を迎える。


 毎朝起こしに来てくれる幼なじみなんているはずもないため、六時半になったことを知らせる目覚まし時計に起こしてもらう。

 やかましく鳴り響くそいつを憎しみ半分ありがたさ半分でガシャンと強めに押し、俺は起床した。

 気分は、悪くない。それはおそらくサクと仲直りしたことによるものだ。

 そんなに朝が強い方ではないが、今日はぱっちり目が覚めた。朝一番から冴えた頭で、まずはスマホに届いていたメッセージをチェックする。サクも合宿のとき、俺と同じように起床直後にスマホをチェックしていたが、これは友達から届いたメッセージの内容によってその日のスケジュールが大きく変わる可能性があるからだ。俺はリアルで、サクはネットで。


 新着は二件。一件目はクラスの中の第二勢力グループからのお誘い。週末にボウリングに行くつもりだったが、一人欠員がでたそうだ。ぜひとも行きたいところだが、一つ確認しておかなければならないことがある。

 メッセージを送ってすぐに返信がきた。

 俺が確認したかったのは、その週末が土曜日か、それとも日曜日かということ。週末って言葉は解釈が人それぞれ違うからな。土曜日だという人、日曜日だという人、その両方だという人。

 日曜日だということで、行く旨を伝えるメッセージを送る。


 スマホ部に入ってから約二ヶ月。最近俺は土曜日に予定を入れなくなっていた。理由は、先輩の思いつき。朱音先輩が休みの日にどこかに行こう、遊ぼうというときは決まって土曜日なのだ。数日前に聞いてみたところ、日曜日は完全に休む日、またはバリバリ作業する日と決めているそう。振り回されるこっちの身にもなってほしい。おかげで今まで何人の友達の誘いを断ってきたか。

 でもそれだけ俺が先輩の予定を優先するようになった、ってことだよな。認めるのは癪だけど。

 さて、次は二件目だ。ん、朱音先輩からだ。なんだろう。


『今日は桃園高校創立記念日のため部活はなし。ノルマもないから各自英気を養うように』


 そうか。今日は創立記念日だったか。すっかり忘れていた。夏祭りの前にクラスでみんなが月曜休みだやったーってはしゃいでいたような気もするが、ずっとサクのことを考えていたせいで頭に入ってきてなかったんだ。

 しかし困ったな。今日一日何をしよう。誰か遊びに誘ってもいいけど、きっともうみんな予定が入っているだろう。

 友達手帳、人物相関図の更新は昨日やっちゃったし。このまま二度寝するか、ブレファンをしまくるか、真ん中の成績維持のため勉強、運動をするか。


 何をするか悩んでいた俺は、ふとあることを思い出した。そういえばそろそろ俺とサクが手伝った、朱音先輩のiP○one使い方ガイドブック最新版が発売されているはずだ。

 それを買いに行こう。特に必要ではないが、記念として。

 実は以前、見本が届いたからスイとサクにもやろうと先輩から言われたが、俺もサクも必要ないからいらないとすげなく断っているのだ。先輩は若干しょげていた。

 なんであのとき断ったんだっけ。ああそうだ、自分でお金を払って買いたいって思ってたからだ。最近色々ありすぎてすっかり忘れてしまっていた。

 そうと決まればさっそく書店へ行こう。あのテの本は売り切れとかないはずだから特に急ぐ必要はないけれど、なんとなく早く手に入れたかった。


 財布だけを入れた小さなカバンを肩にひっかけ、いつものように無難な服装、身だしなみで外へ出る。外出時も油断はできない。偶然というものはおそろしい、ということをここ一ヶ月ほどでイヤというほど思い知ったからな。


 俺の家の近くには書店がないため、地下鉄で数駅ほど移動して大型書店へ。

 人が少ないスカスカの地下鉄に揺られること一五分あまり。降車して一、二分歩き、マンガやラノベなんかも幅広く取り扱っている書店に到着する。

 まずは友達手帳にメモってある小説、マンガを探す。趣味を一致させることは友達維持活動の基本中の基本だからな。

 ここには通い慣れているため、だいたいどこにどういう系統があるかわかる。そのためあまり時間をかけずに揃えることができた。お金の都合もあり、優先度の高いものを三点ほど。

 さあいよいよだ。自分も、少し、ほんの少しだけだけど関わっている本を探す。ちょっとドキドキするな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る