第10話 こんな部活動あってたまるか!

 今日一緒にカラオケに行く予定だったメンツに急用ができたから行けなくなったと謝ってから部室に向かう。

 先輩から事前に行き方を教えてもらっていたため、なんとか部室にたどりつくことができた。校舎の奥まったところにぽつんとある存在感の薄い教室だ。部室のまわりは現在使われていない空き教室しかなく、多くの生徒はおそらくこんなへんぴな場所によりつかないだろう。

 俺は特に何も考えないまま部室の扉を開けた。


「あ……」


 小さく声をあげたのは、朱音先輩だった。

 スカートに手をかけ、若干前かがみになっているため、より強調された豊かな胸部。それを色っぽい紅色の下着がつつみこんでいる。キュッとくびれたウエストに、色の白い肌。

 肩からこぼれた長い髪が、窓から吹き込んだ風でそよそよと揺れている。

 時間が止まることしばし。先に動いたのは先輩だった。


「その、着替えたいので、外にでていてくれると助かる、かな」

「す、すみませんでした!」


 俺はあわてて回れ右をし、後ろ手で扉を閉めた。

 暴れる心臓を鎮めようと左胸に手を当てる。

 なんで先輩は部室で着替えをしているんだ。あれか、今まで自分一人だけだったからつい習慣で、とかそんな感じだろうか。

 とにかく、今後はきちんとノックをしよう。ないとは思うが、もしサクが着替えていたところに入ってしまったら。想像したくもないな。


「もう入っていいぞ」

「失礼します」


 習慣づけるため一応ノックをしてから部室に入る。

 先輩は学校指定の緑色のジャージに着替えていた。長い髪も後ろで一つにしばってある。


「その、さっきはすまなかったな。今まで一人だったものだからすっかり油断してしまった。これからは着替え中の札でもはっておくとしよう」


 横を向き、ほのかに赤くなった頬をちょこちょこかいている。

 普段は強気な先輩でもこんな女の子らしい、恥ずかしがっている顔をしていたのが意外で、やっとおさまってきた心臓のドキドキがまた激しくなる。


「こちらこそすみませんでした。これからはちゃんとノックしてから入りますね」


 声がうわずってしまわないようにするのが大変だった。


「まあなんだ、好きなところに座るといい。ここは無駄に広いからな。スペースはいくらでもある」

「じゃあ入り口に近いすみっこのところで」


 妙な空気にならないよう、努めて平静を装う。

 早く来てくれサク。このままじゃ間がもたない。


「ごめんおねえちゃん、ちょっと遅くなっちゃった……って二人ともどうしたの? 顔赤らめちゃって」


 祈りが通じたのか、疲れきった様子のサクが部室に入ってきた。


「「べ、別に何もなかったぞ、うん」」


 意図せずユニゾンしてしまう俺と先輩。これじゃ怪しまれてしまう。


「むー、なんかあやしい。ま、いっか。やっぱりリアル生活は疲れますね。今日も周りに生身の人間がたくさんいたからHPゴリゴリ削られましたよ」


 そう言ってカバンを部室中央の長テーブルにドサッとおろしたあと、机につっぷしてうなりだしたサク。疲れた理由がなんともサクらしい。おかげで変な空気が霧散して助かった。

 改めて部室を見回す。大体一二畳くらいだろうか。うちの高校の他部室より明らかに広い。壁は白塗りで、窓は奥の大きいのが一つ。壁際に設置している棚には雑多に物が置かれている。中央には長テーブルが二つくっつけてあり、椅子は全部で六つ。三人で使うにはもったいないと感じてしまう。今まで先輩一人で使っていたというのが驚きだ。


 メンバーがそろったところで、部長たる朱音先輩がテーブルに片足をのせ、拳を突き上げる。ファミレスのときも同じことやってたからきっと先輩このポーズ好きなんだな。


「今日、わたしの野望は半分叶った! あとの半分はここで楽しく過ごすことで達成される! ようこそ、サク、スイ。地上に残された最後の楽園へ! 英語で言うとラスト・パラダイス!」

「先輩、とりあえずテーブルから足をおろしてください」

「おねえちゃん、わざわざ英語で言う意味がわからないんだけど。なんかダサいし」

「ぶーぶー。相変わらずノリが悪いぞお主ら~。だがそういうところもイイ!」

「先輩はMなんですか」

「たぶんどっちもイケる」

「そんな情報知りたくなかった!」

「それはいいとして、今からこの近代機器研究部、通称スマホ部における活動内容を説明しよう」


 俺が入部する際に最も気になっていたこと、それは活動内容だ。負担のかかるものだったり、休みがあまりとれない内容だと困る。


「その一、わたしが数時間で、月一頒布の部誌をつくる。その二、余った時間を使いみんなでブレイドファンタジアで遊ぶ。以上だ」

「え、つまりそれって」

「うむ。二人は何もやらず、ただゲームするだけ、ということだ!」

「おつかれさまでした。俺、用事あるんで失礼しますね」

「待て待て待て。あの写真はわたしが握っていること、忘れていないか」

「チッ」

「ん、あれ、部長たるこのわたしに今舌打ちした?」

「してません。空耳です。ってかゲームするだけって。それじゃあ俺たちいる意味ないじゃないですか」

「いや、ある。言っただろう、ここはわたしの、わたしたちの楽園だと。サクとスイがいるからこそ楽園と呼べるんだ。二人ともこのわたしから逃れられると思うなよ~」

「俺たち捕らわれの身じゃないですか。楽園というより監獄じゃないですか。サクも何か言ってやれ」

「私は特に何も。ネット友達維持活動はスマホでもできますし、ここでやっても支障はありませんから」


 ダラーッとテーブルに上半身をのせ、片手でスマホを高速操作していたサクがけだるげにそう答える。


「なんだこの唐突な裏切り」

「そもそもスイと協力関係とか結んでないですから裏切りと言われましても」

「それもそうか」

「ちょっと待てサク、部活中はブレファン以外のゲーム禁止だぞ」

「えーおねえちゃんそれはキツいってー」

「ならばコアタイムを設定しよう。一五時半から部活がはじまるから、そうだな、一六時から一七時の間にしよう」

「りょうかーい」


 なんかちゃんとした部活っぽく話しているが、結局やることはただゲームして遊ぶっていうだけというね。


「と、話してたらちょうど一六時になったな。皆の衆、ブレファンを開くのだ!」

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