第7話 近代機器研究部

「それで先輩、その近代機器研究部って何をする部活なんですか? 聞いたことないんですけど」

「聞いたことがないのは無理もない。部員は今までわたし一人しかいなかったのだから」

「それ部として認められてるんですか?」


 部員が一人しかいない部活は部活と言わないような気がする。


「もちろん認められている。というか認めさせた。わたしの近代機器研究部は大きな、それこそ企業レベルの実績をだしているからな」

「企業レベル?」

「そうだ。スイも見たことぐらいはあるんじゃないか? iPh○neの使い方ガイドブックみたいなやつを。あれを出版しているのはわたしだ」


 俺はにわかには信じられず、サクに確認をとる。


「本当ですよ。おねえちゃん、昔から異様なくらい機械を使うのが上手くて。特に得意なのがスマートフォンで、今じゃある程度のものを自作できるくらいです。改造、解析なんでもお手のもので、おねえちゃんに任せれば旧モデルでも最新のアップデートに対応できるくらいにまでなります。どれだけアプリを入れてもサクサク動くし、我が姉ながら恐ろしいです。将来は独自のOSを作ると豪語してるんですが、おそらく本当にやってしまうでしょう」


 サクはエアメガネをクイッとしながらそう語ってみせた。なんだかんだいって先輩のことが大好きなんだなということがわかる力説っぷりだった。


「丁寧な解説ありがとうサク。先輩がどれだけぶっとんだ人かよ~く伝わったよ。それで、春藤先輩、そんな部に俺が入部しちゃって大丈夫なんですか? 俺、スマホやパソコンは人並み程度しか使えませんよ?」

「ノーゥプローブレーム。出版はあくまでわたし個人がやっていることだ。小遣いかせぎと、高校の理事長に媚びを売るためにな。編集者プロフィールのところに私立桃園高校在学中とでも書いておけば大喜びさ。部としての活動は一ヶ月に一度の部誌の作成。スマホの使い方から絶対いれるべきおすすめアプリなどなど。これもわたしが一時間かそこらで完成させるから問題ない」

「じゃあ俺たちは何をすればいいんですか?」

「それは入部して部室に来るまでのお楽しみだ。心配する必要はない。きちんと定時の十七時には帰宅できるから」


 自信たっぷりにそう言う先輩。何の活動をするかわからないが、遅くまで活動しないのは確かに安心できるかも。

 サクも心なしかホッとしているように見える。

 それから入部の手続きの仕方を聞き、初部活の日を決めて、部活の話は一旦終了。

 ようやく俺のしたかったブレイドファンタジアの話ができる!


「諸君、昨日ギルドランクがAからBへ下がってしまったのは記憶に新しいと思う。そこで、どうすればAランクを維持することができるか作戦会議を行う!」


 課金すればいいんじゃ、スキマ時間を有効活用してひたすらダンジョンに潜れば、その前に装備の見直しを、等々熱い議論が交わされる。この時間だけは完全にレッド、サク、スイとして、さきほどまでの部活の話なんて完全に忘れながら話し合いに没頭することができた。


 そうそう、こういうのが俺が本来想定していたオフ会ってやつだよ。俺にとってレッドとサクは同じ高校に通う先輩後輩という関係の前に、気の合うソシャゲー仲間なんだから。

 議論の結果、各自ダンジョンに潜る時間をできるだけ増やすこと、攻略サイトなどを用いて装備品の組み合わせを考え抜くこと、掲示板のチェックを頻繁に行い、美味しいレートのトレードが提示されていたらギルドチャットで情報共有を行うこと等が決まった。


 俺は今まで友達と趣味の話をするために、あまり興味がないゲームでもやりこんできた。元々ゲーム自体そこまで好きではなかった俺にとって、このブレファンははじめて自分から興味をもってはじめたゲームだ。それが空き時間とかにサクッとできるポチゲーというのがなんとも俺らしいが。


 そのゲームの中で仲の良い人ができて、こうして顔をつきあわせてゲームについて思い切り語り合うことができているこの状況に、俺は今まで経験したことのない楽しさを感じていた。

 おかしいな。同級生以外と友達つきあい、遊んでも意味がないと思っていた俺が、顔も本名も知らなかった人たちとこうやっておしゃべりしているなんて。

 初オフ会ということに加え、レッドとサクが顔見知りだったこで頭が麻痺しているのかもしれない。

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