第6話 朱音の野望

 えっへんと豊かな胸をはりながらドヤ顔でそうのたまう先輩。

 何か聞いてほしそうにこちらをチラチラ見てくるため、しぶしぶ口を開く。レッドはかまってちゃんなところがあるからリアルでもそうなのかなぁと思っていたら案の定だった。


「具体的にどうやって作るんですか?」

「よくぞ聞いてくれたスイよ! ふっふっふぅ~、実はもう準備は整ってるのだよ。あともう少しでわたしの野望は叶う。お前たち二人を我が近代機器研究部に入部させることでな!」

「「お断りします」」

「いけずぅ。一応理由を聞こうか」

「私はネット友達の維持活動のため部活をやってる時間がない」

「俺はリアル友達の維持活動があるため部活をやってる時間がありません」

 俺とサクは同時に答え、その内容に思わず目を合わせる。

「スイ、リアル友達なんていらないよ。やっぱりネットの中が一番。リアルなんてめんどくさいだけ」

「サク、ネット友達もいいけどリアル友達も大事だぞ。多ければ多いほど日常生活が楽になる。いない方がめんどくさいことが多くなる」


 またもやお互いムッとしてにらみ合うことに。


「私にはネット友達が百人いる」

「俺にはリアル友達が百人いるぞ」

「「それがどうしたっていうんだ(いうんですか)!」」


 なんだろう。似ているような全然違うような。とにかく俺とサクは意見が合わないようだ。ブレファンをやってるときはこんな口論になったことはなかったのに。

 俺たちが勝手にヒートアップしていくかたわら、春藤先輩はニヤニヤしながらこちらを見ていた。出会って間もないがなんとなくわかる。あれは何か危険なことを企んでいる顔だ。誰にとっての危険かって? それはもちろん俺たち。

 サクも同じ事に気づいたのか口論を止め、先輩に注目する。


「おねえちゃん、何企んでるの?」

「何も企んでなんていないぞ? ただサクとスイのやりとりが微笑ましくてな。ところで二人とも忘れていないか? まだ部活についての話の最中だということを」

「先輩、それなら俺たち断ったじゃないですか。他に何を話すっていうんです?」

「サクはよく知っていると思うが、わたしは欲しいと思ったものはすべて手に入れてきた。もちろんこの先も手に入れ続ける」

「そんなに世の中うまくいくわけないじゃないですか。なあサク」


 サクの方を見ると、歯をカチカチならしながら震えていた。


「スイ、あきらめましょう。おねえちゃんがこれ言うときは本気のときです」

「おお、わかってるじゃないか。もし入部を断ると言ったら、わたしの知っているかぎりのサクの恥ずかしい過去を洗いざらいスイに話そうと思ってたところだ。写真つきで」

「ほら、もうどうやったって逃れられないんですよ」

「でもサクは先輩と姉妹だから弱みを握られてるんだろ? なら俺は大丈夫なはずだ」

「甘いなスイよ。このわたしに目をつけられたら何人たりとも逃れることはできない」


 そう言いながら先輩は一枚の写真を取り出し、手でヒラヒラと挑発するように振っている。


「そ、それは!」


 スカートがめくれあがったサクと、それをガン見している俺の姿が、そこにあった。


「ちょっとおねえちゃんそんなのいつの間に撮ってたの!?」

「スイに部活勧誘を断られてから少々尾行したんだが、まさかこんな面白いものが撮れるなんて思わなかったよ」


 先輩はのどの奥でくっくっくと笑いながら写真を愛おしそうになでている。


「それをよこせええええ!」


 俺はもうなりふりかまっていられなかった。こんなものが流出したら女子全員を敵にまわしてしまう。


「バカめ、このわたしがバックアップをとっていないとでも?」

「サク! この悪魔の部屋に侵入してあの写真のデータを消してきてくれ!」

「無理ですよ。おねえちゃんの部屋、私どころか家族の誰も入れないように厳重に鍵がかけられてるんですもん。こうなったらもう頼み込むしかありません」


 そんな。結局俺はこの傍若無人な先輩にひれ伏すしかないというのか。


「先輩、その写真をこの世から抹消するにはどうしたらいいですか? 教えてください」

「無論、我が部に入部するのが条件だ」

「なら入部します」

「入部してすぐやめるとかは無しだぞ。わたしが卒業するまではデータを残しておく。そのかわりスイが部活に在籍しているうちは神に誓って写真を流出させない。これでどうかな?」


 むぐぐ。完全に退路を絶たれてしまった。

 この人はわかっている。俺が何より人間関係、友達関係を維持することにこだわっていることを。


「降参ですよ、先輩。入ります。入りますよ、先輩の部活に」

「サクも異論はないな?」

「異論なんてはさませないようにしたのはおねえちゃんでしょ」

「よし、決まりだ! ふっふっふ、あーっはっはっは! これでわたしたちの楽園が完成するぞ!」


 ファミレスにいるというのに片足をテーブルにのせ(もちろん靴は脱いでいる)、拳を突き上げながら高笑いしている。この人は人目が気にならないのだろうか。


「おねえちゃんの楽園、じゃないの?」


 サクはそう言いながら迷惑行為をしている姉を席に座らせる。できた妹だ。


「いいや、わたしたちの楽園、で合っている。サク、スイ、君たちはわたしの大切な部員だ。約束しよう。必ず二人の高校生活をバラ色にすると」

「俺はもうすでにバラ色なんですけど」

「私も」

「わたしにはそうは見えないけど。でも本人がそう言うのならそうなのだろう。なら、バラ色じゃなくて虹色にしてやろうじゃないか!」


 虹色どころか灰色になってしまう。部活に入ることは友達維持活動の時間が減ることを意味する。さらに忙しくなるぞ。

 おそらくサクも同じことを考えているのだろう。俺と同じように大きなため息をついている。

 仕方ない。入部するって決めたんだ。腹をくくろう。

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