第5話 リアルサイド自己紹介
「ゴホン。え~、本日は第一回ブレファンオフ会にご参加いただき誠にありがとうございます。わたしの敬愛するギルドメンバー、サクとスイの二人が来てくれて幸せいっぱいです。一年前、わたしたちは出会うべくして出会ったのだとこのごろ実感しております。思えば当初から他のメンバーとは違いサクもスイも」
「おねえちゃん、そういうのいいから早くはじめようよ」
「そうですよ先輩、早くはじめましょう」
「むぅ、ノリの悪い連中だ。まあそういうところが好きなんだけど! では、初顔合わせを祝して、かんぱーい!」
「「かんぱーい」」
グラスとグラスのぶつかる小気味の良い音とともにオフ会がはじまった。
各々食べ物を注文し、それが届きはじめたところで先輩が改めて自己紹介をしようと言い出した。
「まずはギルドマスターたるわたしから。私立桃園ももぞの高校三年、春藤朱音だ。どのゲームでもだいたいレッドというハンドルネームを使っている。これからも末永くよろしく頼む!」
申し訳程度に拍手をする俺。サクにいたっては聞いてもいないようでコーラの中の氷をガリガリかんでいる始末。
「サク、スイ、そこはもっと、おぉ~と盛り上がるべきところじゃないか!?」
「いやだっておねえちゃんだし聞く意味ないでしょ」
「俺もすでに知ってますしね。何を今更って感じです」
「冷たい。冷たいぞ君たち。まあそういうところが好きなんだけど!」
また言ってるよ。ブレファンのときもそうだけど、この人はどれだけ俺たちのことが好きなんだ。これじゃ何を言っても変わらない。
先輩はテンションの高いまま、次はサクの番だ! と指名した。
サクはしぶしぶといった様子でストローを口から外すと、こちらをジト目で見ながらぼそぼそと自己紹介をはじめた。
「私立桃園高校一年、春藤咲良しゅんどうさくらです。私はハンドルネームを使い分けるタイプで、『サク』という名前はブレファンで使っている一アカウントだけです。よろしくお願いします」
本名は咲良か。先輩は有名だけど妹の咲良についてのうわさは聞いたことがないな。これだけの美少女なら少しぐらいうわさになってもおかしくないのに。
「最後は俺ですね。私立桃園高校二年、秋川彗です。『スイ』というハンドルネームはブレファンでしか使っていません。どうぞよろしく」
これで一通りの自己紹介がすんだ。
しかし、偶然というものは本当におそろしい。レッドとサクはリアル姉妹だからいいとして、その二人と俺が同じ高校に通っているなんて。
「よし、自己紹介も終わったところでフリートークへ移ろう。要するに雑談だな。二人とも自由に話してくれ!」
そう言われ、俺とサクは即座に言葉を放つ。
「秋川先輩っていうんですね覚えておきますこの変態のぞき魔先輩」
「高校一年生にもなってあのパンツはないだろ。今どき小学生でもはかないんじゃないか?」
バチバチと視線がぶつかる。春藤先輩がいいぞーもっとやれーとか言っているがそちらには目もくれない。
「別に私がどんなパンツはいたって個人の自由ですし先輩に口出しされるいわれはありません」
「確かにそうかもしれない。それは認めよう。でものぞき魔といわれるのは心外だ。あれは偶然が重なっただけで見ようとして見たわけじゃない」
「偶然あんな変な場所にきて、偶然私の方をじーっと見つめていたと」
「出来心でついつい三毛猫を追ったらあの大きな桜の木の下に着いた。で、その三毛猫が上の方をずっと見てるもんだから俺も気になって同じところを見たら、そこにサクがいたんだ」
「三毛猫、ですか。なるほど、シャーロックを追ってあの場所に迷い込んだわけですね」
サクは思案顔でぶつぶつ独りごとを言ったあと、真っ直ぐこちらを見てきた。
「スイの言ったことには信憑性があります。その話、信じましょう。のぞき魔だなんて言ってしまってすみませんでした」
「えらく簡単に信じてもらえてむしろ不安なんだけど」
「三毛猫のシャーロックの話がでましたから。あの子、いっつも私の後を追ってくるんです。それで、木に登った私を下の方からじーっと見つめてくる。なんででしょうね。自分も登れるはずなのに」
「そうだったのか。俺はそのシャーロックのおかげで冤罪が晴れたんだな。今度何か食べ物をやらないと」
「シャーロックは煮干しが好物です」
「なるほど。メモメモ」
いつのまにか普通に会話できていた。これもあの三毛猫のおかげだ。まあそもそもあの三毛猫に出会わなければあんな不幸な事故は起こらなかったんだけど。
「サク、俺の方こそすまなかったな。あのお魚さんパンツ、似合っててかわいいと思うぞ」
「なっ、あれは替えがなくて仕方なくはいてきただけで、って似合ってるってどういうことですか! というかもうこの話はやめてください! 今度したらセクハラで訴えますよ」
「ごめんなさい反省してます」
顔を真っ赤にして怒るサクに平謝りする俺。先輩としての威厳などカケラもない。
そこで突然、パンと春藤先輩が柏手を打った。
「さて、サクとスイの仲が深まったところで、わたしの野望について話すとしよう」
仲が深まったかどうかは甚だ疑問だが、少なくともマイナスからゼロ地点までは戻れたと思う。
「おねえちゃん、私とスイの会話に入れなくて寂しかったんだね」
「ち、違うし! ご、ごほん。今日集まってもらったのは顔合わせをしてブレファンの話をする、という目的もあるが、本題は別にある。わたしの野望、それはわたしの、わたしたちの楽園を作ることだ!」
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