第3話 オフ会当日

 オフ会。正式名称はオフラインミーティング。ネットで知り合った人たちとリアルで会うことを指す。

 どうしよう。行きたい気持ちと行きたくないという気持ちが半々だ。

 この二人と顔を合わせて思い切り話をしてみたいという欲求がありつつも、幻滅させてしまうのではないか、これから今までと同じように会話できなくなってしまうのではないか、という不安もある。

 サクは行くのだろうか。きっと行くのだろう。リアルでもレッドと親しい関係のはずなのだから。


『すみません、私は一時保留でいいですか? 明日までには決めますので』


 あれ、レッドはサクにこの話をしていなかったのだろうか。予想が外れてしまった。


『俺も保留で』


 とりあえず俺も保留にしておく。他力本願だが、サクが行くなら俺も行くことにしよう。


『了解した。準備の関係もあるから明日の夕方五時くらいまでには決めておいてくれるとありがたい』


 俺もサクもわかりましたと答え、各々おやすみ等のあいさつをしてアプリをとじる。

 次の日。予定通りに展覧会に来つつも、昨日のことで頭がいっぱいで心ここにあらずの状態だった。こまめにアプリを開いてサクがチャットルームでオフ会について何か発言していないか確認する。だがサクも、ついでにレッドも直近のプレイ時間を見るに昨日の夜からアプリを開いていないようだった。やっぱりギリギリの夕方五時くらいに返答するのだろうか。

 帰りの電車の中で最新のヒットチャートを聴きながらひたすらブレイドファンタジアの画面を眺めていた。五時に近づくにつれ心拍数が上がっていく。

 そして、五時ちょうどにサクが答えをだした。


『オフ会、参加させていただきます』


 俺は、なぜかホッとしてしまった。不安な気持ちよりも行きたいという気持ちの方がやや優勢だったんだろうな。

 それから五分ほど時間を置いて『俺も行きます』と打ち込んだ。レッドの喜びようはすさまじく、俺もサクも若干ヒいていた。


『決まりだな! 集合場所は銀時計前でいいか?』

『いいですよ~』


 銀時計というと名古屋駅の有名待ち合わせスポットの1つだ。

 今までのチャットルームでの雑談で三人とも愛知県住みなのはわかっているからそこに設定したのだろう。名古屋駅なら自分の家から五駅くらいのとこだから行きやすい。


『俺も大丈夫です』

『では、銀時計前、昼の十二時に集合で。持ち物は特に無し。う~ん明日が楽しみだ! 今日は眠れないな。僕の目の下にクマができてても気にしないように!』


 俺も緊張で目が冴えて今日はロクに寝れそうにない。夜中にレッドと一緒にダンジョン回ったり雑談したり掲示板で装備品のオークションをしたりするのもアリかもしれない。あとで個人メッセージでも送ってみよう。

 ちなみになぜサクを誘わないかというと、彼女は必ず〇時前にはアプリを閉じるのがわかっているからだ。規則正しい生活をしているのだろう。

 夕食を食べ、今日一緒に展覧会に行ったグループのメモを元に友達手帳を編集し、明日着ていく服を選んでからギルド戦に臨む。

 今日は土曜日ということもあって敵ギルドの参加率が高く、物量で押し切られてしまった。四ギルド中四位、最下位である。これでAランクからBランクに下がってしまった。

 ギルド戦はだいたい同じ戦力のところがマッチングされるため、一位、二位が続けばランクが上がり、逆に三位、四位が続くと下がる。ランクが上がるほど報酬が豪華になるためガチギルドは常にSSランクの一位をキープしている。

 オフ会前に景気の悪い結果になってしまった。明日はもしかしたら戦略会議をするかもしれないな。

 そうなったときの案をいくつか考えながらレッドと深夜三時くらいまでブレイドファンタジアで遊んだ。俺は眠気がきたため三時に寝たが、レッドはまだまだダンジョンに潜るそうだ。レッドは俺たち三人の中で一番レベルが高く、レア装備も多くそろっている。モチベーションが半端じゃない。どうやったらそこまでモチベーションを保てるのか明日にでも聞いてみようかな。



 さあさあやってきましたよ日曜日が。

 寝不足で若干頭が痛いが気分はハイだ。当日になってみると不安感は薄れ、ワクワク感が強くなった。

 浮かれていても注意だけは怠らずに。高校の知り合いとはち合わせしないよう常に周囲に気を配らなければ。

 服装は紺色のポロシャツにベージュのチノパン。無難を突き詰めた結果こうなった。不快感は抱かれないはずだ。

 俺はいつも集合時間の三〇分前には着くようにしている。時間に厳しい人は一定数いて、その人たちに目をつけられないようにするためだ。遅れてきてもキャラによっては、アイツはしょうがないやつだなぁと許される場合もあるが、俺にはまだそこまでのスキルはない。

 銀時計前は土曜日ということもあって多くの人でにぎわっていた。旅行のツアー者や家族連れ、スーツを着た社会人など様々。


 とりあえず俺が『スイ』だとわかるようメッセージを送っておこう。服装のことと、目印用の白い腕時計のことを書いておけばいいかな。

 俺が打ち終わった直後に、すぐレッドからメッセージが返ってきた。


『見つけた! サクと一緒にすぐそちらへ向かう!』


 ドクンと大きく心臓が跳ねる。ついに顔合わせの瞬間だ。

 緊張でガチガチになった俺の肩にそっと手が置かれる。

 俺は深呼吸してから、ゆっくりと振り向いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る