第2話 ある日のギルドチャット

 それからは普段通りの日常が過ぎていった。朝のHRがはじまるまでに昨日見たドラマ、アニメの話をし、頼まれていたマンガを貸し、宿題をやってくるのを忘れた人に答えを写させてやる。

 そんな感じで朝のノルマ、昼休みのノルマ、放課後のノルマをこなしていく。仕上げにカラオケを二グループはしごして今日の分は終了。

 それとなく友達のみんなに探りを入れてみたが、春藤先輩に部活勧誘を受けたこと、後輩の女の子のスカートの中を見てしまったことは広まってないようだった。本当によかった。俺の平穏は守られた。

 しかし、先輩の誘いはあまりにあっさり断ってしまったし、後輩の子にも簡単な謝罪しかできていない。後日それぞれにフォローをいれておかないと。もちろん同級生に目撃されないよう慎重に。


 明日は土曜日。その次の日曜日も合わせて毎週何かしらの予定が入っている。

 ベッドに寝転がりながらスケジュールを確認。土曜日は八人のオタクで形成されているグループと有名イラストレーターさんのイラスト展覧会へ。予習としてこのイラストレーターさんが関わっているアニメ、マンガ、ゲーム、ラノベを一通りおさらいしておこう。展覧会は午後から行く予定だから明日の午前中にしておけば十分だな。

 人物相関図の更新も終わったことだし、やっとゆっくりできる。時刻を確認したらもう二〇時三〇分だった。


 俺はスマホを操作し、とあるゲームアプリを起動させる。

 今日は異常に疲れた。もちろん、朝の出来事があったからだ。厄日なのかな。普段起こり得ないことが二回も起こるだなんて。

 友達との話題作りのために様々な娯楽をこなしている俺だが、休憩や息抜きの際は友達とは全く関係ないもので遊んでいる。

 それで遊んでいるときだけは何もかも忘れて楽しむことができる。至福の時間だ。今日は特に疲れたからいつも以上にのめりこんでしまうかもしれない。

 スマホの音量を上げ、BGMを流す。荘厳だが硬すぎるわけでもない、耳になじみやすい音楽が聞こえてきた。

 画面にはファンタジー風景と、『ブレイドファンタジア』のロゴが浮かび上がる。


 このスマホゲームは、いわゆるソシャゲーというやつだ。

 ソシャゲーはソーシャルゲームを略したもので、今やスマホゲームの主流となっている。短時間で気楽に遊べるものが多く、幅広い年代の人に受け入れられている。

 頭を空っぽにしてただボタンを押すだけのポチゲーからゲーム性の高い戦略系、その中間くらいのパズルゲーや引っ張りゲーなど種類は多岐にわたりそれぞれの楽しみ方がある。共通しているのは基本無料で一部アイテム等に課金があること、程度の差はあれ他プレイヤーと交流があることだ。

 俺が一年前からずっとやり続けているこの『ブレイドファンタジア』はポチゲーに分類される。時間がたてば回復するスタミナを消費してダンジョンに入り、組んだデッキを使ってひたすらポチポチして敵を倒していくゲームだ。


 ポチゲーといえど楽しみ方はたくさんある。自分のアバターに好きな武器、防具を装着させたり、ギルドと呼ばれるチームを作ってギルドバトルやボスバトルをしたり、はたまたギルドメンバーとチャットをして楽しんだり。

 俺はどちらかというと基本まったり余裕のあるときはガチで、のタイプなので、そういうメンバーを募集しているギルドに入った。ギルドの上限は一〇人で、この一年で何人か入り、何人かでていったりと入れ替わりがあり、現在は俺も含め三人という人数に落ち着いている。これから増えるかもしれないし、増えないかもしれない。そこはギルドのリーダー、ギルドマスターの判断によるな。


『こんばんは~』

『おおスイ。ばんわばんわ~』

『こんばんはです、スイ!』


 早速ギルドのチャット、略してギルチャで会話する。最初に反応してくれたのがギルマスの『レッド』、その次が『サク』だ。俺は本名の彗けいという漢字のもう一つの読み方の『スイ』をハンドルネームとして使っている。

 この二人とはかれこれ一年のつき合い。だがリアルのことについてはそこまで踏み込んでおらず、二人とも自分と同じくらいの年代で、レッドは男性、サクは女性だということしかわかっていない。それと、レッドとサクはリアルで兄妹、友達、または恋人という関係ではないかと予想している。会話の内容からほぼこのどれかに間違いないはずだ。

 だからたびたび疎外感を感じることもあるが、懐の深いレッドと常に明るいサクの人柄に惹かれてなんだかんだこのギルドに居着いてしまっている。


 お互い顔も本名も、そしてきっと本性さえ知らないこの関係を、俺は気に入っていた。リアルほど気を使わないせいか、肩の力を抜いてリラックスしながら接することができるから。

 この日も他愛ない会話をしながらゲームを楽しむことができた。落ち着くなぁ。

 二十二時のギルド戦を終え(四ギルド中三位だった)、雑談タイムに入る。

 あのゲームが面白かっただとか、今期アニメの見所だとか。話題は多岐にわたり、きのこ派かたけのこ派の論争が終わったところで、ちょうどいい時間になった。ちなみに俺とレッドがたけのこ、サクがきのこ派だった。結局、どちらとも美味しい。てか最後までチョコたっぷりのトッポってすごくない? という結論におさまった。


 そろそろみんな解散の時間かな、というところでレッドが『サク、スイ、ちょっと話があるんだが』と切り出した。

『明後日の日曜日に第一回ギルドオフ会をしようと思うのだが、どうだろうか』

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