悔い改めよ

広範囲に走った腹部の衝撃で目を覚ますと、アリスが私のお腹の上に跨って、真上から寝顔を覗き込まれていた。

アイネの鱗で作られた服とは言え、流石に寝間着だからか、予想以上に防御力が薄い。


いつの間にかベッドで寝ていたのはアイネが運んでくれたからだとして、ワンピースから着替えた覚えは無い。

アリスを上から退かして、寝ているアイネの耳に息を吹きかける。


「ひゃっ!」


女みたいな声を上げて飛び上がったアイネの尻尾を掴んで、根元から指を這わせる。


「勝手に着替えさせたんですかアイネさん」


「や、やめろ……っっぅぅ。別におぬしはまだまだ餓鬼じゃろ、気にするような体でもない。あのワンピースでは寝るのに適さんと考えただけだ」


「それもそうですね、ありがとうございます……とはなりませんよ」


「触られて困る程大層な物も付いておらんだろう」


尻尾と角を仕舞ったアイネは布団を頭から被って、小さく丸まって二度寝を始める。

布団を引き剥がしてアリスに被せ、窓の扉を開けて、二階から投げて落とす。


硬いものが石に叩きつけられる鈍い音が外で響いて、その後にアイネの呻き声が微かに聞こえた。

丁度部屋に入りかけていたジャンヌが手に持っていた籠を落として、声が出ていない口を動かしながら外に走っていった。


アリスは全く気に留めておらず、ジャンヌが落とした籠を拾い、中に入っていたパンを椅子に座って食べている。


「クライネさん、アイネさんが!」


下から聞こえたジャンヌの声を無視して、アリスからパンを受け取って口に運ぶ。

暫くして、ふらふらとした足取りで帰って来たアイネに、アリスがパンを差し出す。


「有難うアリス。あやつみたいになるでないぞ、おぬしはそのままでえい」


「もう一回飛びます?」


「眠気が飛ぶどころか意識が飛ぶところであったわ」


「分かったのでやめて下さい。クライネさんもアイネさんも」


ジャンヌに怒られたアイネはやけに落ち込み、出ていた翼をぐったりとさせる。

座っているアリスは人参をそのままかじっており、この状況でも全く動じない。


「分かりましたジャンヌさん。次からは足から落とします」


「素直じゃないのは駄目ですよクライネさん。アイネさんくらい落ち込まなくても良いですけど」


「はーい」


「もう。神はいつでも許して下さいます、いつでも良いので反省して下さい」


窓を閉める拍子に空を見上げると、遠くから黒い雲が街に入ってこようとしていた。

これから雨と雷が酷くなるなと、憂鬱な気分になりながら窓を閉める。


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