煌めく閃光
アイネが立ち直ってからは、少しペースを上げて道無き道を歩いたが、森の中は夕陽の光を無視して、すっかり真っ暗になってしまっていた。
暑い季節に加え、ここまで歩いて来たにも関わらず、何故か今は快適な温度に感じる。
最近でも寝る時は布一枚でも暑かった筈で、今日は
「そう言えばアイネさん、暑くないのはこの服のお陰ですか?」
服の裾をつまんで広げると、振り返ったアイネは両手で大切に持っていた花を、急いで後ろに隠す。
「そうじゃな、ドラゴンの鱗には纏った者を常に快適な状態に保つ。その上丈夫で加工も簡単でとにかく万能だ、流石我々だな。おぬしらみたいな劣等種とは大違いだ」
「あー、そんな事言う人は嫌いです。私たちだって頑張ってるんですからね」
「いくら頑張ったところでドラゴンには叶わないだろ、飛べもしなければ火も出せない。繁殖力が強いだけではないか」
「それしか能が無いみたいに言わないで下さい。ドラゴンなんて大きくて邪魔じゃないですか」
「人の姿にだってなれる。おぬしらはドラゴンの姿にはなれぬであろう、同じ土俵に立ててすらないではないか」
勝ち誇ったように腕を組むアイネの尻尾を指で撫でると、再び大空に一瞬で連れてかれる。
胸に手を当てて呼吸を整えているアイネは、私の両脇に手を入れて、顔と顔を向かい合わせる。
私は目を合わせずに左上に視線を逸らすと、その先の空で閃光が煌めいて、何か物体が落下するのが見えた。
「アイネさん」
「分かっておる」
「なら早く行って下さいよ」
「むっ……んん、あい分かった。しっかりと捕まっておれ、振り落とされるでないぞクライネ」
回転して前方にぶん投げられた後、ドラゴンに姿を変えたアイネの牙にしがみつく。
「ま、まいあいあうか?」
「間に合わなければおぬしは怒るであろう、おぬしを落としてしまったら確実に間に合わなくなる」
一応手で覆って風を防いではくれているが、遠心力で体が置いてかれそうになる。
「降下するぞ」
「むりゅでふ!」
一瞬真上にふわりと内蔵が上がった後、次は回転して急降下を開始する。
左手を伸ばしたアイネは、追い付いた物体と地面の間に手を滑り込ませて、地面を削り取りながら衝撃を吸収する。
手を離してアイネの口の中に入った私は、ザラザラとした舌の上に座り込む。
アイネが上を向いて安堵の息を吐いた拍子に、口の中の私は喉の奥に転げ落ちて、胃の中に収まる。
「どうじゃクライネよ、我は無事にこの
「居ますよアイネさーん! お腹の中です」
「むっ、そんな所に入るでない」
胃が大きく膨らむと、空気に持ち上げられて、口の中に戻って来る。
アイネの鱗の服は水気を全て弾いたが、無防備な髪と手と足は、色々なものでべとべとになる。
大きな口の中から這い出て目標を確認すると、アイネの手の中には、金色の髪の女性が倒れていた。
「何かしたんですか? もしかして救えなかったのですか、潰したりとかしてないですよね」
「質問が多い。失敗はしておらんわ、直に目が覚めるであろう」
「今日は誰かさんのお陰で疲れましたし、この人が起きるまで少し休みましょう」
「恩を感じぬやつじゃなおぬしは、陽が顔を出しておらんとは言え十分暑い、私の近くに居させてやろう。決して離れるでないぞ」
しがみつく為に力を入れ過ぎて、まだ痛みが残る腕をだらりと下げて、猫のように丸くなったアイネの顔の隣に寝転がる。
既に先程助けた女性が先客として居たが関係無く、金髪の女性の太股を枕にする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます