第五話 行き倒れ?
ついてくるつもりだったユーリは親父さんに留められて結局オレ一人で旅に出ることとなった。
お金と食べ物と飲み水は渡されたが、正直街までたどり着ける自信もない。
絶対オレには向いてない。
だが、もう村に戻ることも出来ない。前に進むしかないのだ。
「はぁ……帰りたい……」
どれくらい歩いただろうか。もう村が見えなくなって随分経った気がする。
ひたすら荒野を歩き続けるこれはなんという苦行だろうか。一人だと余計に辛い。
「…………あれなに……?」
数十メートル先。何かが落ちている。
ゴミかなんかだろうとゆっくり近づいていく。近づけば近づくほど明確になっていくそれは、人のように見えなくもないが、流石にそんなことは無いだろう。
無い、だろう。ない、よな? まさか人じゃないよな?
人のように見えるそれに近づき、揺すってみる。するとそれはごろりと転がり、薄汚れたただの布だと思っていたマントから可愛らしい女の子の顔が現れた。
「し、死体!?」
どうすればいいのだろうか。ここからだと村も街も遠い。しかし、この炎天下の中放っておくとすぐに腐るだろう。
「…………み……ず……」
「へ? い、生きてる……?」
「……みず……ねぎま……」
「ね、ネギまはないけど、水とおにぎりなら!」
すぐにカバンから水とおにぎりを差し出す。少女は、のろのろとおにぎりに手を伸ばし、一口で食べた。あれ? 結構デカいよね? 一口?
「……おいしい」
モゴモゴと口を動かしながら起き上がり、オレの水を手に取り、一気に流し込む。
「えぇ……」
「……美味しかった。ありがとう」
「えっ? いや、いいんだけど……」
水一気飲みされてしまった。ヤバイ。これオレ死ぬんじゃ……
「……どこ行くの?」
「街に行くつもりだったけど……」
これは不可能じゃないだろうか。
「……街……それなら一緒……任せて」
少女は指笛を高らかに響かせる。しかし、こんなだだっ広い荒野。誰も来るはずはない。と思っていたが、どこからかバッサバッサと大きな音が聞こえた。
「……来た」
少女にならって上を見上げると、そこには見たことのない大きな鳥がいた。
鷲のような頭。鴨のような体。そしてそのサイズは人が三人は優に乗れそうな程である。
「なに……アレ」
「……ジャンク。エグルフェニーチェで、私のともだち」
もう一度少女が指笛を鳴らす。大きな鳥は少女に気を使うようにゆっくりと下りてくる。
エグルフェニーチェ。聞いたことはある。ドラゴン以前は国軍の空軍で主流だったらしいが、繁殖能力が低く、今は絶滅の危機に瀕している。初めて見た。
「……ジャンク。いい子」
少女は固まるオレを気にすることなく、降り立ったジャンクを撫でる。野生のエグルフェニーチェは人に懐かないと聞いたが、この子は随分と懐いている。
「……街まで。コイツも」
少女がそういうと、ジャンクは甲高い声を上げ、再び飛び上がりそうになる。
少女は迷わずその背中に飛び乗った。物凄い跳躍力だ。
「……早く」
「乗れるわけないだろ!」
普通の人間はそんなに高く跳躍することは出来ない。三メートルもあろうかという鳥の背中に一発で飛び乗るなんて芸当が出来るやつがそこら辺にいるなら連れてきてほしい。いや、目の前にいたか。
「……仕方ない。ジャンク」
ジャンクは再び声を上げ、さらに上昇する。あれ? これ、置いていかれる感じ? と思っていたら、突然強い衝撃に襲われ、その後すぐに浮遊感が襲い来る。もしかしてこれ――
「と、飛んでるー!?」
オレはジャンクに背中を掴まれて飛んでいた。背中にくい込む爪が物凄く痛い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます