第四話 勇者誕生
それから勇者になれと言われるのを何度も断った。
そりゃあ、心が痛まなかったわけは無い。だが、オレに勇者なんて到底勤まらない。オレより相応しいヤツなんて山ほどいるだろう。それこそ、ユーリ……は無理か。とにかく、オレには荷が重い。
「そこをなんとか、じゃ! 勇者を出来るのはそなたしかおらん!」
「何度言われたって無理なもんは無理ですよ! 第一剣なんて持ったこともないし!」
「大丈夫じゃ! 伝説の勇者様もこの村の一住民だったという。おぬしに出来ん理由はない! なぜ断る!!」
「だ・か・ら! その人とオレとは別人だし、一村人って言っても全然違うでしょう?! 断る理由しかないです!!」
長老と言い合いしてても埒が明かない。普段のオレなら丸められただろうが、生憎こっちも命がかかっている。はいそうですかと引き受けるわけにはいかない。
オレは聖剣をその場に置いて立ち上がり、扉を目指した。だが、外に出ることは叶わなかった。
「まぁ、いいじゃねぇか。やってみれば?」
ユーリが扉を塞ぎ、俺の行く手を阻む。
「ユーリ……ならお前がやればいいじゃんか。オレに務まるわけがない。そんなのお前もよく分かってるだろ」
「いやぁ、代わってやりたいのは山々なんだけど、その剣に触れようとすると弾かれんだよねぇ。頑張れよ、勇者様」
目立ちたがり屋のコイツが勇者なんて職業ほっとくわけないか。
けど、オレ以外に触れないとなると、また厄介だ。断る理由が一つ減った。いや、別にこの剣を使えるヤツがいる必要なんてないんじゃ……実際何十年、何百年と抜かれていない。今さらこんなもの……
『キャー!!』
外から突如聞こえた悲鳴。オレとユーリは一度顔を見合わせ、外に飛び出した。
外は、逃げ惑う村人と、それを追いかける謎の黒い物体がいた。
「なんだよアレ……」
「とにかく行くぞ!」
正義感の強いユーリに先導され、村の通りへと駆ける。
「ウオオオオオアアアーーーッ!」
ユーリが愛用の短剣で切りかかるが、まるで効かない。実体がないかのようにすり抜けて、短剣は地面へと刺さった。
「ナニッ!?」
そして、ユーリが切りかかった黒い物体はユーリを飲み込むかのように大きな口を開く。
「ユーーーーーリィィイイイイ!」
オレは無我夢中でその物体を切りつけた。とっさに持ってきていたらしい聖剣で。
型も何も無いデタラメな振りだったが、さっきの光景が嘘のようにきっちりと黒い物体に突き刺さり、黒い物体は霧のように消えた。
「……どういうこと……?」
「すげぇよ、チヒロ! ありがとな、助かった! すっげぇ、カッコよかったぜ!!」
ユーリに言われてようやくさっきのバケモノを自分が倒したのだと知る。そして、ハッとした。
あのバケモノはまだ数体いる。オレが、倒さなくては。唯一聖剣を持てるオレが――
「そうかそうか。やっとやってくれる気になったのじゃな。わしゃあ嬉しいぞ」
満面の笑みを浮かべる長老。助けた村人からも感謝されもう断ることは出来ない。
「…………マジか……」
「良かったな!」
「……よくないよ」
「そうじゃ! 勇者様がこんな小さな村に居てはならん。旅に出てはどうじゃ?」
そんなこんなで、オレは半ば村を追い出される形で旅に出ることとなった。どうしてこうなったんだよ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます