Running still 走り続けて


 私、大園悠おおぞのゆうが、二本指の無手勝流むでかつりゅうでこのくだらない文章をタイピングしている間も、伊邪那岐いざなぎさんは、自慢のイオン・エンジンを宇宙の走り屋よろしくぶいぶいいわして、およそ秒速30キロぐらいで、宇宙を疾駆しているはずだ。まさに男の鏡である。羨ましい限りでもあるが、男として悲哀も多少感じた。

 一方の伊邪那美いざなみさんは、地球の人工衛星の周回軌道でぐるんぐるん、地球を何周もしながら、おそらく、愚鈍ぐどんな旦那にいらつきながら待っているのだろう。

 大薗夫妻に置き換えても、奈々美ななみが私に何か用事を言いつけた場合と大変良く似ている。

 先日、伊邪那岐いざなぎさんは、火星の手前2万キロあたりのところで、地球は、火星の反対側に位置しているのだが、きっちり、ニアラ・メテオラに最接近すると全アクティヴ、全パッシヴセンサーを全開にして、探査、調査を終えた。全電磁波、電波、赤外線、温度変化、硬度、音波、いろんなものを当て、その反射をゼロ・イチのデータとして得る。"はやぶさ"のように、実際に隕石の断片、破片を採取したりはしない。

 いや出来ないというほうが正確だ。

 正直な所、JUHAXOには、そんな綿密な計画を立てる余裕がなかったのだ。

 全て観測、調査されたものは、ゼロ・イチのデータとなり伊邪那岐いざなぎさんのHDDに入っていた。今や、伊邪那岐いざなぎさんは、嫁の使いっ走りどころか、宇宙の神秘そのものだった。

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