一人だけ ―― 第三十五話・異聞

 一つ前にご紹介した、第三十四話「二人いる」の後日談である。

 こちらも、Bさんから聞いた話だ。


 あの事件の後に始まった二人の交際は、しばらくの間は順調だった。だが、やがて高校を卒業すると、Bさんは他県の大学に進学し、実家を離れて一人暮らしをするようになった。一方Rさんは地元の大学だったので、離れ離れである。

 会う機会が減ると、なかなか互いの心を繋げておくのも難しいものだ。一年二年と経つうちに、自然と連絡回数が減り、二人は疎遠になっていった。


 そんな、ある秋のことだ。

 夜、Bさんが布団で横になっていると、ふと部屋の片隅に誰かが立つ気配があった。

 しかしBさんは一人暮らしだから、他に人がいるはずはない。

 ギョッとして顔を上げると――Rさんが佇んでいた。

 もちろん、彼女を家に呼んだ覚えはない。そもそもRさんは、玄関も、部屋のドアも開けずに、突然そこにいた。

 何も言わず無表情のRさんを見て、嫌でも過去の記憶が蘇った。

「R、まさか、……?」

 Bさんが見守っていると、Rさんはフラフラと窓の方へ歩いていく。

 慌てて飛び起き、Rさんを押さえた。それからすぐに、枕元にあったスマートフォンに手を伸ばし、Rさんに電話をかけた。

 以前と同じだった。……ここまでは。

 不意に、着信音が鳴った。

 音は、目の前のRさんのポケットから鳴っていた。

 ハッとしてRさんの顔を見ると、Rさんはうっすらと微笑み、消えた。


 翌朝、Rさんの実家に連絡すると、彼女が事故で亡くなっていたことが分かった。

 ……昨夜訪ねてきたのは、二人目ではなかったのだ。



   * * *


 第三十五話の没バージョン。一つ前のエピソードと対になるよう、タイトルを決めてから書いたのだが、自分でも引くぐらいのバッドエンドになってしまったので、不採用とした。

 前話でやたらとドラマチックにしておいて、この結末はないわな。

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