第百四十九話 雪化粧

 Tさんという女性が新婚時代に、庭付きの新居で体験した話だ。

 冬の、冷え込む朝だった。

 いつものように起き、リビングに出て、庭に面するカーテンをサッと開けた。

 途端に、朝の陽射しとともに、まばゆい白に染まった庭が、目に飛び込んできた。

「わぁ、雪――」

 思わずはしゃぎかけ――そこですぐに言葉を呑んだ。

 雪ではなかった。

 顔だった。

 真っ白な、無表情の子供の顔が、無数に連なって庭中を覆っていた。

 土と言わず芝生と言わず、植え込みからご主人の車に至るまで――。まるで降り積もった雪のように、びっしりと庭を埋め尽くしたは、薄いまぶたを開き、Tさんの方をじっと見つめていた。

 Tさんは悲鳴を上げ、慌ててカーテンを閉じた。

 それから、まだ寝ていたご主人を叩き起こして庭を見てもらったが、そこにはもう、怪しいものは何一つなかったそうだ。


 Tさんは今、不妊で悩んでいる。

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