第14話 CASE4:東山諒の場合 二

 諒は、小さな時から、よく思案をする癖があった。

 これは、(特に小さな頃は)良く言えば、「好奇心が旺盛である。」と言えるだろうか?…とにかく、諒は、小さな時から、他の人が考えないようなことを、考えるのが好きであった。

 例えば、諒は小学生の頃、地図帳を見るのが好きであった。そして、普通の子どもなら、そもそも地図帳になんて興味を持たないか、たとえ興味を持ったとしても、

「アメリカは、ここにあって、フランスは、ここにあって…、」

といった、漠然とした興味を持つだけであろう。

 しかし、諒は、違った。

 『地図帳の中の、こことここの国が戦争をすると、どうなるんだろう?

 …この海から攻めていって、そして、都はどうやって、陥落させるんだろう?』

 諒は、大人顔負けの知識(実際、諒は小さな時から物知りであった。)を用い、そのようなことを考えるのが、好きであった。

 この癖は、諒が高校生になっても、変わることはなかった。諒は、その性格が災いしてか、基本的に友達と遊ぶことはおろか、話をすることもなかった。そして諒は、1人でポツンと過ごしている時間に、小さな頃から見ていた地図帳を見て、色々なことを想像したり、(高校生になって知識が増えた分、諒の想像力は格段に上がっていた。)地図帳とは全く別の化学の教科書を開いて、またいろんなことを想像したりしていた。

 また、基本的に物静かな諒は、自分の家でもその態度は変わらず、ご飯を食べる時や、お風呂に入る時以外は、基本的に自分の部屋で過ごし、部屋に置いてあるパソコンでネットサーフィンをするなどしていた。(また、その時も諒はただネットを見るのではなく、思案しながら見ており、想像力を働かせていた。)

 そして、そんな諒の癖は、諒が大人になってからも、変わることはなかった。

 諒は社会人になっても、基本的に人とは交わらず、1人で過ごすことが多かった。そして、何かをする時の合間に、諒は必ずと言っていいほど思案をし、それを1つの楽しみとしていた。(例えば、仕事の書類整理をする合間に、

『この書類は、のべ何人の人が、目を通すんだろう?

 よく考えると、1つの書類によってたかってみんなが注目するなんて、滑稽だな。』

 などと考えていた。)

 

 しかし、そんな諒の人生にも、転機が訪れた。

 それが、ユキとの出会いである。

 ユキを初めて見かけた時、諒の中で、何かが変わった。今まで変わり者で、積極的に人と交わろうとして来なかった諒が、初めて、

『この人と、話がしたい。』

と、思うようになった。いや、話がしたいだけではない。自分は、彼女と一緒になりたい。一緒の時間を共有して、一緒に笑ったり、辛い時には泣いたりしたい。そして、自分は彼女と…、

 『そうだ。僕は、彼女のことが好きなんだ!』

諒が、彼女に恋をしていると自分で気づいたのは、それからすぐのことであった。

 そこからの諒は、今までに比べて、前向きになった。また、諒の心の中からは、優しい言葉が次々と出てくるようになった。

 『僕は、ただ彼女と付き合いたいわけじゃない。僕は、彼女を、幸せにしたいんだ!』

それは、今まではっきり言って周りを顧みずに生きて来た諒とは思えない、諒の心の声であった。

 そして、偶然が重なり、諒とユキは、出会い系サイトでメッセージのやり取りをすることになった。そして、気づいたら、諒の思いは加速していた。自分は、彼女のことが、本当に好きなんだ―。諒は、日増しに自分の思いが、強くなっていくのを感じた。

 しかし、いややはり、昔からの、「思案をする諒」は、健在だったのかもしれない。諒は、ユキとのやり取りの際に、ある異変に気づいた。その「異変」を、いつもの思案する諒は気にかけ、空いている時間に、諒はそのことについて考えた―。

 そして、諒は2人の間にある、「現実」に、気づいてしまったのである。

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