第15話 CASE4:東山諒の場合 三
そんなある日、諒は、ある夢を見た。その夢の中で、諒は地元の、スクランブル交差点を歩いていた。
そして、その日は6月ということもあり、曇り空から、雨がぽつぽつと降り始める、そんな天気であった。
しかし、準備のいい諒は、慌てることなく、持っていたカバンから折りたたみ傘を取り出し、差した。
諒がそうやって、スクランブル交差点を渡りきろうとした時に、前方から、雨が降り出したことに慌てたのか、1人の女性が下を向きながら小走りに走って来た。
その女性は、諒より背がかなり低く、女性と諒がぶつかった瞬間、その女性は少し驚いた様子で諒の方を見上げた。
そして、その女性は意外にも、諒とこんなやり取りをした。
「ありがとうございます!」
「いえいえ。怪我がなくて、本当に良かったです。」
「それで…、いきなりこんなことを訊いて、申し訳ありませんが、あなたは―、
リョウさんですか?」
『そうですユキさん。僕が、あなたとメッセージのやり取りをしている、リョウです。そして、あなたのことが大好きな、リョウです…。』
諒はそのことを、自分の本当の気持ちを、ユキに伝えようとした。そして、諒がそれを言おうとした瞬間―、
諒は、夢から覚めた。
『何だ、今のは夢だったのか…。
でも、冷静に考えてみればそうだ。僕たちは、さっきの夢みたいに、偶然逢うことすらままならない。
でも、僕はユキさんに、最後まで自分の気持ちを、伝えたかった…。
さっきのが、正夢になってくれたら…。』
諒はそう思ったが、それはどうしようもないことであった。
諒とユキとの間にある、悲しい運命を諒が知ってしまった時、諒は落ち込み、一時は自ら命を断つことすら、考えた。しかし、そんなことをしてしまったら、周りの人間に迷惑がかかるし、何といってもユキのためにも良くない、と諒は考え直し、思いとどまった。
そして、諒は気分転換に、夜の街を歩いた。諒の住む街は大都会ではないので、夜はそんなに賑わってはいない。しかし、田舎と呼ぶには街は発展しているので、例えばコンビニの光など、街には明るい光もあった。
そして、諒はそのコンビニに吸い寄せられるように、入っていった。そこには、諒の大好きな、唐揚げセットが売られていた。そして諒は、
『この時間に物を食べると、確実に太るな…。』
と思ったが、
『今は、やけ食いでもしないとやってられない…。
お酒に走るよりは、マシだろう。』
と思い、その唐揚げセットを購入して、自宅に戻って食べることにした。
そして諒は自宅に戻った後、ユキとのメッセージのやり取りを、思い返した。
―ユキさんへ
ユキさんの好きな食べ物は、何ですか?―
―リョウさんへ
私は、唐揚げが好きです!
すみません、可愛げのない答えで。もちろん、私は女の子が好きそうな、スイーツ類も好きですが、やっぱり1番は、唐揚げです!―
―偶然ですね!僕も唐揚げが、1番好きです!
何か、嬉しいです!―
―ありがとうございます!私も、嬉しいです!―
『思えばあの頃が、1番幸せだったかもしれない。今の僕は…、』
諒は、昔の甘美な思い出に浸り、泣きそうになった。
『でも、泣いてばかりもいられない。
…そうだ!ユキさんに、プレゼントを買おう!
…このプレゼントなら、ユキさんも喜んでくれるだろう。そして、僕のことを、少しだけ、本当に少しだけでいいから、覚えていてくれたら…。』
諒はそう思いながら、インターネットを使い、とある「プレゼント」を検索し、どれがいいか選び始めた。
『ユキさんは、どういったタイプの物が好きなんだろう?
…これなんかどうかな?』
諒はプレゼントの品定めを終え、ユキにメッセージを送った。
―PS
あと、僕からユキさんに、プレゼントがあります。
ちょっと僕も色々あって、直接渡せるかどうか分からないので、そのプレゼントは、ショップに預けておきます。
後で、そのショップの名前と住所、メッセージで送りますね。
では、逢える日を楽しみにしています!
リョウより。―
―由紀は、そのリョウからのメッセージを見た時、意外な表情をした。
『私はリョウさんのことが好きだけど、初対面の人に、こんなプレゼントって…、
大丈夫なんだろうか?
それに、直接渡せないって、どういうこと?
これから、リョウさんと逢う予定なのに…。』
由紀はそう思ったが、それでもリョウからのプレゼントを喜ぶ気持ちの方が勝り、由紀は嬉しくなった。
―リョウさんへ
プレゼント、ありがとうございます。
私も、リョウさんと逢えるのを、楽しみにしています。
ユキより。―
由紀はそうメッセージを送り、その日は眠りに就いた。
―諒が由紀に贈ろうとした、プレゼントとは―。
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