第13話 CASE4:東山諒の場合 一

 ―ユキさんへ

 お誘い、ありがとうございます。

 しかし、私はユキさんに、言っておかなければいけないことがあります。

 単刀直入に言います。私とユキさんとは、お逢いすることはできません。

 本当に申し訳ありませんが、分かってください。

 リョウより。―


 このメッセージをユキに送った、東山諒(ひがしやまりょう)は、深くため息を吐いた。

 『僕は、ユキさんのことが好きだ。ユキさんと、一緒になりたい。

 でも、それはできない。できないんだ…。』

諒は心の中でそう思った。そして、自分でも気づかないうちに、諒は涙を流していた。


 諒がユキの存在に気づいたのは、今から数年前である。

 それは、とある日の夕方。たまたまユキが、街を歩いている時であった。ちなみに、それはユキがその日の勤めを終えて退社し、家へ帰る途中であったということを、諒は後で知ることとなった。

 その時、ユキの姿がたまたま近くのブティックのショーウィンドウのガラスに反射し、諒はガラス越しに、ユキの姿を見た。そして、

 『何て、綺麗な人なんだろう…。』

これが、諒のユキに対する第一印象であった。

 (また、ユキは諒の第一印象に比べて、自己評価が極端に低いことも、諒は後で知ることとなった。)

 諒にとって、さらに偶然は続いた。

 ユキが出社する前、また外回りで街に出ている時などに、諒は度々、ユキのことを目にする機会があった。そして、そんな偶然が続くと、

 『僕と彼女は、運命の赤い糸で結ばれている…。

 って言ったら大げさかな?』

と諒は勝手に考え、自分にとって都合のいい妄想の世界に浸ることがあった。


 そんなある日、諒は手持ち無沙汰な時間に、特に意味もなく出会い系サイトのページを、開いた。

 『こういったサイトに登録する人って、本当にこんな所で出会いがあるって、信じてるんだろうか?

 僕は、言ったら悪いけど、こういったタイプのサイトは苦手だな…。

 それに僕には、運命の人がいる…、って、それもちょっとイタイか。』

 とりあえず、諒はこの手のサイトに対して否定的であったが、暇を持て余していたため、また冷やかし半分で、サイトを少し、覗くことにした。

 すると…、


 ―ユキです。私は読書が趣味で、1人で本屋をぶらぶらすることが多いです。

 こんな私ですが、よろしくお願いします。―


 1件のプロフィールが、諒の目に留まった。

 『ま、まさか、これって…。

 あの女性のプロフィールだろうか?』

諒は、何の根拠もなかったが、そのプロフィールが「ユキ」のものであると、思った。

 少々思い込みが激しく、また「思い立ったら吉日」という考え方の諒は、その女性、ユキと連絡をとるため、急いで自分のプロフィールを作ることにした。そして、(諒も読書が好きであったため、)


 ―リョウです。私は読書が好きで、休日は本を読むか、本屋に立ち寄ることが多いです。―


とパソコンに打ち込み、無料登録を済ませて自分のプロフィールを完成させた。

 しかし、ここで諒の手が、止まった。

『でも、彼女があの女性、っていう、証拠は何もない。

 はっきり言って、それは僕の思い過ごし、っていう可能性の方が、高いな…。

 そうだ!とりあえず、僕は彼女と僕との、運命に賭けてみよう!

 僕がプロフィールをアップして、それで彼女が僕に対してメッセージを送って来たら、自分たちの運命を信じよう。

 それで、もしメッセージが来なかったら…、それは、そこまでの縁、ということだ。

 でも何か、彼女からメッセージが来そうな気がする!

 とりあえず、気長に待ってみよう…。』

その時の諒は、根拠のない自信に、満ち溢れていた。


 ―リョウさん、はじめまして。私はユキといいます。

 リョウさんのプロフィールを拝見して、勝手に「気が合いそうだな。」と思い、メッセージを送りました。

 お返事、気長にお待ちしています。―


 そのメッセージを諒が見た時、諒は飛び上がりそうになるほど、喜んだ。

 『やった!これは、運命だ!運命に違いない!』

 そして、諒は早速、返信をすることにした。


 ―ユキさんへ

 メッセージ、ありがとうございます!嬉しかったです。

 ユキさんも読書が好きなんですね。お互い、好きな作家などについて、語り合えたらいいですね!

 リョウより。―


 このメッセージを送る前、諒は、

『メッセージの文面は、これでいいだろうか?

 ちょっと、不安だな…。』

と思い、何度も何度も、まるでプロの作家がそうするように、メッセージを推敲した。

 そして、若干緊張で汗ばんだ手で「送信」ボタンを押し、ユキにメッセージを、送ったのである。

 するとユキから、それに対する返信のメッセージが、届いた。そして諒とユキは、メッセージのやり取りを、続けた。

 この時の諒は幸せの絶頂で、まさか、諒とユキの間には、悲しい、悲しすぎるほどの運命があるとは、思いもしなかった。

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