第12話 CASE3:西本圭の場合 四

 俺はその日、彼女の寝ている姿を堪能するため、夜通し起きていよう、そう決めていた。しかし、さすがに徹夜は体に毒なので、一旦仮眠をしよう、そう思い立った。

 そして俺はその仮眠の最中、ある夢を見た。

 

 ―俺は、地元のスクランブル交差点を、歩いていた。その日は土砂降りの雨で、傘を差していても、横殴りの雨で体が濡れてしまう、そんな天気であった。

 『まあ、今は梅雨の時期だし、仕方ないか…。』

と、俺は一般的な感情を持ちながら、(俺みたいなストーカーでも、一応そんなことは考える。)その交差点を、渡りきろうとした。

 すると、前の方から、俺がよく知っている顔が、近づいて来る。それは、北川美香―。

 俺がストーキング行為をしている、張本人だ。

 もちろん俺は彼女のことをよく知っているが、彼女は俺の存在に最近気づいたばかりで、俺の顔までは当然のことながら知らない。

 しかし、というか何というか、彼女は俺の所に、間違いなく近づいて来ている。そこで俺は、こんなことを思った。

 『今、彼女に俺が、

『俺が、あなたのストーカーです。』

と宣言したら、彼女はどんな顔をするだろうか?

 そんな彼女の恐怖に慄く姿を、見てみたい。

 …それだけでなく、俺は彼女に自分の存在を、知らしめたい。あんな手紙だけでなく、もっと、もっと直接的に…。

 そうだ。その目的が果たせた後なら、

 俺は警察に、捕まってもいい。』

俺の狂った自己顕示欲は、この時ピークを迎えていたのかもしれない。

 そして俺は、交差点を急いで渡ろうとする彼女の前に仁王立ちした。

 そして、足早に立ち去ろうとする彼女の左腕を、俺はがっちり掴んだ。

 「すみません、離してください!」

彼女はそう言い、その場から逃げようとした。

 しかし、俺が彼女を逃がすはずもない。

 そして俺は、こう言った。

 「はじめまして。私は美香さんの、スト―」


 ―『何だ、夢か。』

仮眠から覚めた俺は、さっきの甘い(と俺が勝手に思っただけで、相手にとっては恐怖そのものの)夢からも覚めた。

 『願わくば、もう少し夢を見ていたかった。本当に、良い夢だったな。

 さて、仕事するか。』

 そして俺は、計画を実行に移すため、行動した。

 俺は紙に、殴り書きで、

「こんにちは。

 みかさんのストーカーより。」

と書き、今度は彼女の家のダイニングルームの、テーブルの上に置くことにした。

 『朝、彼女がこれを見たら、彼女、驚くだろうなあ。

 今からその顔を、見るのが楽しみだ。』

俺は1人でそう思い、いやらしい笑みを浮かべた。


 そして彼女は、案の定俺の書いた紙を、すぐに見つけた。その時の彼女の顔は、まさに俺の大好物であった。そして、彼女は怯えながら、警察署に再度向かった。

 「でも不思議ですね…。北川さんの家には、鍵がかかっていた。…にも関わらず、犯人は部屋に侵入できた。

 なぜでしょう?」

 …馬鹿な警察には、俺のことを捕まえるなんて、できない。その時俺は一瞬だけ自信に満ち溢れ、まるで俺が怪盗にでもなったかのような気持ちになった。(まあ、前にも言ったが、俺は別に警察に捕まってもいい、と思っていたのだが。)

 「なぜでしょうって…。それを調べるのが、あなたたちの仕事ではありませんか?」

 …彼女は明らかにイライラしている。そんな彼女の顔も、なかなか良い物だ、と俺は思った。

 「…そうですね…。

 我々も、周辺への聞き込み等、全力で捜査致します。

 それで北川さん、我々から提案なのですが、

 北川さんの家に、防犯カメラをつけるのはいかがでしょう?」

「防犯カメラ、ですか…。

 なるほど…。」

 …どうやら彼女は、防犯カメラをつけるらしい。まあ、俺の腕をもってすれば、そんな物、かいくぐるのは余裕だ、俺はその時、そう思った。

 しかし…、

 『待てよ?俺は、彼女に自分の存在を知らしめたいんじゃなかったのか?

 そうだ!なら今日の晩、俺は積極的に、防犯カメラに映る動きをしよう。

 そうすれば、彼女も俺の正体に否応なしに

気づくはずだ!

 別にその後、俺が警察に突き出されようが、どうなろうが構わない。

 どうせ、俺は社会不適合者なんだから…。』

俺は、狂った判断力で、そう決意した。


 そして、その日の夜になった。一応防犯カメラは、玄関と寝室に、計2台設置されている。

 そして俺は、玄関で行動を起こそうとも考えたが、寝室での行動の方がよりインパクトがあると考え、玄関のカメラは無視することにした。

 そして、俺は防犯カメラに向かって、ピースサインをした。

 『これで、俺は彼女のストーカーも、続けられなくなるだろう。

 まあそれも人生だ。』

 俺は妙な感慨に浸りながら、カメラの外に出た。

 また、俺は、

「なにをやってもむだですよ。

 みかさんのストーカーより。」

という殴り書きの紙を用意し、今度は彼女の寝室のベッドの脇に、置くことにした。

『これで、恐怖が倍増するな。』

俺は1人、ほくそ笑んでいた。


 ―次の日、恐怖に怯えた美香は、警察署に、防犯カメラの映像を持って出向いた。

 「では、防犯カメラの映像を、ただ今より確認致します。」

 そう言って警察官は、玄関と寝室、2台の防犯カメラの映像を、確認した。

 そこに、映っていた人物とは―。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る