第11話 CASE3:西本圭の場合 三
どうやら彼女は、俺が置き物を動かしたことに、すぐに気づいたらしい。
そしてそれに気づいた瞬間、彼女は驚愕の表情をした。
当然のことながら、詳細は企業秘密なので明かせないが、俺はその彼女の表情、また感情を、まるで隣に立って見ているかのように、はっきり感じとることができた。
『これが、『ストーカー』という『職業』の、喜びなのか…。
ともかく、ストーカー冥利につきる。』
俺はこの時、心の中でそう思った。(そして、俺は先に、
「俺は一般的なストーカーではない。」
などと言って散々カッコつけてきたが、結局はごく普通の、気持ち悪いストーカーと同じことをしている、と自覚した。まあ人からそう言われても、最初の頃のようにそれを否定はできないだろう。)
次に、彼女がとる行動は…、ずっと彼女を見てきた俺は、それをいとも簡単に予測することができた。彼女はプライドが高いナルシストだ。それに加えて、彼女は思い込みが激しく、また彼女には「思い立ったら即行動」という信念も、ある。と、いうことは…、
案の定、彼女は警察署に向かった。
「私、ストーカー被害に遭っているんです。このままだと私、殺されるかもしれません…。すみません、何とか犯人、逮捕してくれませんか?」
その時、俺は彼女の次の行動・次の一手を読みきった満足感で、悦に入っていた。また、これも企業秘密だが、俺は警察署内でも、彼女の一挙手一投足を、的確に読み取ることができた。(「日本の警察は優秀だ。」とよく聞くが、俺には叶わないな、俺はその時、そんな優越感も持ち合わせていた。)
「すみませんが、あなたが被害に遭っているという、証拠は?」
―「と言われましても、それだけで証拠とするのは、ねえ…。」
…やはり、警察は重い腰を上げないようだ。まあ、実際に彼女がストーカー被害に遭っているのは、ここにその犯人がいるので事実だが、単に「置き物が動いた」というだけでは、証拠としては弱いのだろう。
そして当の彼女は、そんな警察の対応に、苛立ちを隠せない様子であった。俺は、そんな彼女を見て、彼女を自分の手の中で自在に操っている、そんな感覚を持った。(例えばプロ野球の監督なら、自分の作戦が成功した時には、こんな感覚に浸るのであろうか?いや、監督は俺とは違い、「悪意」はないので、そんなことはないのだろうか?ちなみに、俺は彼女が、大のプロ野球ファンであることも、知っている。)
また俺は、彼女のストーカーとして活動している最中から、彼女をさらに動かしたい、また、彼女を恐怖に陥れたい、彼女に自分の存在を知って欲しい、彼女を意のままに操りたい―、という、様々な思いにとらわれた。
『彼女への関わりを、もっとエスカレートさせるか…!』
俺は、彼女が警察に行く前から、いやもっと前から、そう決めていた。
そして彼女は、大きな不満を抱えながら、警察署を出て行った。
「はじめまして。
みかさんのストーカーより。」
俺は、それがいつかは具体的には明かせないがとある時間帯に、彼女の家の浴槽に、殴り書きの紙を置いた。
ちなみに、それをなぜ浴槽に置いたかというと、彼女の寝ている部屋では、それは直接的すぎると思ったからだ。
『俺は、彼女に徐々に恐怖を与えたい。そのために、まずは彼女の部屋の置き物を、動かした。そして次は、彼女の部屋からは離れた所にメッセージを置いて、彼女に直接的かつ強すぎない恐怖を、与えるんだ!』
これが、俺の戦略である。
(ちなみに、メッセージを殴り書きにしたのは、より彼女に恐怖を与えるためだ。俺はこの時、自分の彼女に対するストーキング行為への絶妙なさじ加減に、酔っていた。)
案の定、彼女は置き物の時と比べ、もっと強い恐怖に、怯えているようであった。
『いいぞいいぞ!』
俺はその時、彼女の不幸を喜ぶストーカーに、完全に成り下がっていた。(また、俺は巷によくいる、「卑猥なストーカー」にも、この時既になっていたかもしれない。)
そして彼女はもう1度、警察署へ向かった。
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