第10話 CASE3:西本圭の場合 二
俺、西本圭は、今まで日の当たらない人生を、歩んで来た。
俺は小さな頃から目立つことが嫌いで、学生時代、例えば授業などでも、積極的に発言することはなかった。そして、そんな俺にはもちろん、友人と呼べる人間が、できたことはなかった。
「何かあの子、暗いよね。」
これは、俺が学生時代のクラスの女子から、よく言われていた言葉である。(その女子たちは俺に聞こえないように、陰で悪口を言っていたつもりであっただろうが、その声は、はっきりと俺の耳に届いていた。)
しかし、俺はそんな自分の境遇を、不思議と悲観したことはなかった。
『俺に友達は、いらない。もちろん、彼女もいらない。俺はこのまま、一人で生きていければ、それでいい。』
俺は小さな頃からそう思い続け、思春期を迎えても、その思いは変わることはなかった。
そして俺はいつしか19歳になり、大学へ、進学することになった。もちろんのことであるが、俺は大学生になっても一人ぼっちで、世の学生が入るようなサークルにも入らず、ひたすら講義と一人暮らし(下宿)のアパートとを往復する日々であった。(当然であるのかないのか、こんな俺にもサークルの勧誘はあったが、俺はそれをことごとく無視していた。)
また、大学生になった俺は、先ほども少し触れたが一人暮らしを始め、それが、この俺の、端から見ると困った性格を、助長した。(高校までならかろうじて、親と話すことはあったが、大学生になった途端、それもなくなってしまった。)実際、俺を産み、育ててくれた親には悪いが、俺はそんなコミュニケーションも、正直「ウザい」と感じていたので、大学生になって下宿すると決まった時は、素直に「ラッキーだ。」と思い、「自由」を謳歌しよう、そう思った。
そして、俺は大学に入学してからの(特に)2年間、誰ともしゃべらず、ただ大学と家を往復していた。ただ、自慢ではないが、俺は大学の講義を、1度も欠席したことはない。それに、講義のある90分間、俺は居眠りをすることもなく、ただただ真面目に、講義を聴いていた。(ただ、俺はその講義の内容を、積極的に勉強したかったわけではない。まあ、強いて言えば、他にすることがなかったから、仕方なく真面目に講義を受けていた、といった感じだろうか。)
しかし、俺のそんな自由気ままな人生にも、転機が訪れる。
それは、俺が大学3年生になり、就職活動をしなければならなくなった時のことである。
人間は、いつかは働かなければならない。もちろん俺は、
「働くことが、生きがいである。」
というような考えは、はっきり言って嫌いである。しかし、人間はお金を稼がなければ、労働の対価としての賃金を貰わなければ、生活していけない、生きてはいけないのが、現実だ。
しかし…、
俺は、そんな現実に、アジャストできなくなっていた。
もちろん俺も就職活動で、インターネットを駆使したり、会社の説明会に行ったり、した…が、
どうにも、気が乗って来ない。
と、言うか、大学に入ってからの約2年間、講義を聴く以外、何もしなかった俺が会社の面接を受けたところで、1次選考すら通過することはできないだろう。
案の定、俺は書類選考の段階で、1社も通過することができなかった。また、1次選考が面接やグループワークの会社もあったが、俺は、それに出る気力も、失っていた。(その時の俺は、書類選考等に落ちたことがショックで気力を失う、という至極一般的な就活生の挫折をしたのではなく、ただ、
『働くのが面倒だ。』
という、無機質な感情に、支配されていた。)
しかし、今までほとんど連絡のなかった親からは、
「就職活動は、どうなっているの?」
という、督促状のようなメールが、山ほど来る。そして、それを無視していると、電話がかかってきて、それにも出ないでいると、
「何で、電話に出ないの?」
と、またメールがやって来る。俺は、(まあ自分のせいではあるが)そんな悪循環に支配され…、
自暴自棄になった。
そうなった俺は、仕送りも止められ、下宿先を引き払わざるを得なくなった。(ちなみに、俺は大学生になってから、アルバイトもしたことがなかった…ので、貯金もなかった。)そして、実家に戻って来たはいいものの、何もする気が起きず、ただ自分の部屋の中で過ごす、一般的に言う所の、「引きこもり」になった。(まあ、大学に入学した時点で、そうなっていたようなものだが。)
そして、単位はしっかりとっていたため、大学を卒業はできた俺は、卒業した瞬間から、無職の男になった。そして、たまに外に出て、コンビニなどをぶらぶらしていた時…、
彼女、北川美香の存在を知った。
その彼女の存在は、なぜか俺の心に引っかかった。それは恋愛感情でもなく、独占欲でもない。ただ、俺はひねくれた頭でその感情について考え、結果…、
彼女の、ストーカーになった。
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