第5話 CASE1:北川美香の場合 四
その晩、美香は夢を見た。
―美香は土砂降りの雨の中、美香の住んでいる街の、スクランブル交差点を渡ろうとしていた。その日は6月・梅雨の時期で、美香は傘を差していたが、それでも横殴りの雨に打たれ、美香は自分の体だけでなく、持っているカバン、荷物も濡らしてしまっていた。
そして、びしょ濡れになりながら、帰ったらとりあえずシャワーを浴びようと、美香が思った次の瞬間、
美香は、美香の前からある視線を感じた。
そして、その視線は、美香の方へどんどん近づいて来る。美香は、それは気のせいだと思い込もうとし、とりあえず、スクランブル交差点を渡りきろうとした。しかし―、
ある男性が、美香の前に仁王立ちした。
その男性は、中年太りの体型をしており、(雰囲気も中年に見えるそれで、)顔の大きさが一般の人に比べて大きい、美香にはそう感じられた。いやそれより何より、その男性は、美香の方を見てニタニタしており、その目は、こう言っては何だが、いかにも好色的なそれで、「変質者」の雰囲気を、醸し出していた。
そして、美香とその男性は、少し目があったが、(男性はずっと美香の目を見続けていた。)美香の方はすぐ目をそらし、足早にその場を去ろうとした。
次の瞬間―、
美香の、傘を持っていない方の左腕は、その男性に、がっちり掴まれた。
「すみません、離してください!」
美香はそう言い、その場から逃げようとした。―しかし、なおも男性は力を緩めない。そして男性は、美香にこう言った。
「はじめまして。私は美香さんの、スト―」―
「わっ!」
美香は次の瞬間、勢いよく目を覚ました。
『…ここは、スクランブル交差点?…いや、ここは私の家、ベッドの上だ。そして私は…、パジャマを着ている。
そっか、さっきのは夢だったんだ!』
美香は何とか自分の状況を理解し、ホッと一息ついた。
そして、美香がとりあえず朝のミルクを飲もうと、ダイニングルームに向かった、その時―。
悪夢が、再来した。
「こんにちは。
みかさんのストーカーより。」
そのテーブルには、前回と同様、殴り書きされた紙切れが、置かれていた。
しかも、筆跡は前回のそれと酷似しており、同一人物がやったことと、推定される。
美香は、それを見た瞬間、その場に凍りついてしまった。そして、美香は―、その場に座り込み、腰を抜かしてしまった。
『誰!?誰なのこんなことをするのは?
誰か、助けて…。』
これは、この時の美香の心の叫びである。
そして美香は、何とか平静な心を取り戻し、(その日も仕事を休んで)警察署に、2枚の紙切れを持って向かった。
「あ、これは確かに…ストーカーの犯行ですね。」
紙切れを2枚見せた後の警察の対応は、前回とは打って変わって、丁寧になった。
『この人たち、最初は、『面倒なことに関わりたくない。』って態度だったけど、こうやって証拠があがったら、急にバカ丁寧になるんだな。
たぶん、今までの適当な対応を、挽回しようとしているんだろう。
もしこれで私の身に何かあれば、この人たちの責任にも関わってくるし…。
はっきり言って、警察は信用できないけど、今は、この人たちに頼るしかない…。』
美香は、そう考えた。
しかし、美香の腹の虫は、治まらない。そこで美香は、警察相手に、一言言ってやることにした。
「私、昨日もここに来たんです!
昨日からちゃんと調べてくれていたら、こんなことにはならなかったんじゃないですか?」
「昨日…ですか?
確かあなたが来られたのは、2日前だったと思いますが…。」
『この警察、私が来た日も覚えてない!』
この警察の一言は、美香の心の火に油を注いだが、美香はとりあえず、我慢をすることにした。
「でも不思議ですね…。北川さんの家には、鍵がかかっていた。…にも関わらず、犯人は部屋に侵入できた。
なぜでしょう?」
「なぜでしょうって…。それを調べるのが、あなたたちの仕事ではありませんか?」
美香は警察の無神経な応対にイライラし、そう言った。また、美香の声は、恐怖心からか少し上ずっていた。
「…そうですね…。
我々も、周辺への聞き込み等、全力で捜査致します。
それで北川さん、我々から提案なのですが、
北川さんの家に、防犯カメラをつけるのはいかがでしょう?」
「防犯カメラ、ですか…。
なるほど…。」
美香は、警察の提案に納得した。
そして美香は、警察署からの帰りに、防犯カメラを2台、購入した。1台は、玄関の外につける用。そして、もう1台は、念のため、美香の寝室につけた。(実際、この寝室の防犯カメラは、玄関よりも身近に感じ、美香の精神安定剤的な役割を果たしていた。)
『これで、犯人が映ったらいいのに…。
いや、絶対に犯人は映る!そしたら犯人は、警察に捕まえられる。
どうやって私の部屋に侵入したかは、後で聞けばいいことだ。』
美香は、何とか気を強く持とうとした。
そしてその晩、美香は眠りに就いた。
その後、美香は目を覚ました。そして、ベッドから起き上がった時、美香の体は、またしても恐怖で硬直した。
「なにをやってもむだですよ。
みかさんのストーカーより。」
そこにはまた、殴り書きの紙が、今度はベッドの脇に、置いてあった。
『私、鍵、かけたはず。なのに何で…。』
美香はそう思ったが、瞬時に気持ちを切り替えた。
『でも、私の家に侵入したなら、絶対に玄関の防犯カメラに、その形跡が映っているはずだ。
もし、玄関のカメラに映っていなくても、犯人は私の寝室には、確実に侵入した。
…と、いうことは、確実に寝室の防犯カメラには、形跡は映っている…に違いない。
よし、これで犯人の正体が、分かる!』
美香はこの状況で、何とか希望を持とうとした。
一人で防犯カメラの映像を見るのが怖かった美香は、また警察署に出向き、警察官と一緒に、カメラの映像を見ることにした。
「今日は、ありがとうございます。」
藁(わら)をもすがる思いの美香は、この日は珍しく、警察を心強いと思った。(というより、心強いと思うしかなかった。)
「では、防犯カメラの映像を、ただ今より確認致します。」
そう言って警察官は、玄関と寝室、2台の防犯カメラの映像を、確認した。
そこに、映っていたものとは―。
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