第6話 CASE2:南沢由紀の場合 一
―リョウさん、仕事は順調ですか?私は、最近は少し疲れ気味です…。でも、頑張ってますよ!
また、お返事ください。
ユキより。―
南沢由紀(みなみさわゆき)には、好きな男性がいる。
しかし、その男性と由紀とは、まだ話をしたことがないどころか、会ったことすらない。それでも、由紀はこの男性、「リョウ」のことが、好きらしい。
由紀は数ヶ月前、とあるサイトに、自分のプロフィールを登録した。それはいわゆる「出会い系サイト」と呼ばれるもので、由紀は最初はこの手のサイトを敬遠していたが、たまたまネットサーフィンをしていた時に見つけたそのサイトは登録無料で、さらにいかにも「出会い系」という感じではなく、もう少しおしゃれなデザイン・装丁のサイトであり、
『こういった出会いも、悪くないかもしれないな。』
と由紀は思い、意を決して登録したのである。
そして、由紀がサイト内を見回していた時…、たまたまとある男性のプロフィールが、目に留まった。
その男性は、「リョウ」という名前で登録されていた。(ちなみにこのサイトは本名非公開制で、由紀も「ユキ」という名前で、カタカナで登録していた。)
そのリョウであるが、プロフィールには、
―リョウです。私は読書が好きで、休日は本を読むか、本屋に立ち寄ることが多いです。―
と書かれており、読書好きでもある由紀は、
『私とおんなじ趣味だな。この人とは、気が合いそう!』
と、勝手に思ってしまった。
さらに、リョウのプロフィールには、自分は女性と付き合った経験があまりないことなどが、書かれていた。そして、自らも男性と付き合った経験が少ない由紀は、そんなリョウの文面に、シンパシーを感じた。
また、そのプロフィールから出て来る漠然とした雰囲気も、由紀を惹きつけた。もちろん由紀は本が好きだが、文章のプロではない。そのため、本当に漠然としてではあるが、由紀は、
『この、リョウさん、誠実な雰囲気が文面から伝わって来る感じがする。』
と思い、
『いい人そうだな。メッセージ、送ってみようかな。』
と、意を決してサイト内メッセージを送ったのである。
すると、1日以内に、リョウから返事が返って来た。
―ユキさんへ
メッセージ、ありがとうございます!嬉しかったです。
ユキさんも読書が好きなんですね。お互い、好きな作家などについて、語り合えたらいいですね!
リョウより。―
『あ、早速返事が返って来た!
本当にリョウさんって、真面目そうな人だな。』
由紀がそう思い始めてから、リョウに恋に落ちるまで、そう時間はかからなかった。
恋に落ちてからの由紀は、自分でも信じられないほど、積極的にリョウにメッセージを送った。その内容は、共通の趣味である、好きな本・作家の話や、職場の愚痴など、多岐にわたった。そして、そんなメッセージの1つ1つに、リョウは丁寧に答え、そのことが、由紀の中のリョウに対する好感度を、さらに上げた。
『リョウさんって、実際に会ってみたら、どんな人なんだろう?気になるなあ。
…いや、気になるだけじゃない。私は、リョウさんに恋をしている。この気持ちは、本物だ。
私は、リョウさんに逢いたい。』
由紀の中に芽生えた想い・恋心は、もう誰にも止めることはできなかった。
―リョウさんへ
今度、お会いできませんか?
私、リョウさんと直接お会いして、話がしたいです。
いいお返事、待ってます。
ユキより。―
リョウに逢いたい一心の由紀は、緊張しながらもこんなメッセージを送った。そして、由紀はなおも緊張しながら、返事を待った。
しかし、いつもなら早いリョウの返信も、この日に限っては、来ない。由紀はその間、スマホを頻繁にチェックしたが、メッセージボックスは、空のままであった。(時折、この件とは関係のないニュースのメールが来るなどし、由紀はその着信を見てイライラした。)
そして、ついにリョウから、返信メッセージが来た。由紀ははやる気持ちを抑えながら、それを読んだ。
しかし、その内容は、由紀を失望させるものであった。
―ユキさんへ
お誘い、ありがとうございます。
しかし、私はユキさんに、言っておかなければいけないことがあります。
単刀直入に言います。私とユキさんとは、お逢いすることはできません。
本当に申し訳ありませんが、分かってください。
リョウより。―
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