第4話 CASE1:北川美香の場合 三

 『とりあえず、明日この紙を持って、もう1度警察に行こう…。

 本当は今すぐにでも警察に行きたいんだけど、今日は疲れたし、夜道を襲われても怖いし…。

 鍵だけ、確認しなきゃな…。』

美香はそう考え、玄関の鍵、また窓の鍵を確認しに行った。そして、それらにしっかりロックをかけ、

『まあ、これで今日はストーカーが現れることはないだろう。』

と、少し安堵した。

 そして気づけば美香の大好きな野球がプレーボールの時間を過ぎており、美香は気分転換も兼ね、とりあえずテレビで野球観戦をすることにした。

 しかし…と言ったらいいのか、案の定と言ったらいいのか、美香は大好きなはずの野球に、集中できない。

 今日の野球は、美香の贔屓の球団が初回からビッグイニングを作り、また先発ピッチャーの出来も良く、快勝を予感させる試合運びであった。そして、普段の美香なら、そんな野球を見て、

『やった!今日はいい日だな!』

など思うところであったが、この日は、

『今もどこかで、ストーカーが私を見てるんじゃないか?』

という恐怖が先に立ち、野球の途中経過を全く喜べなかった。

 そんな中、美香は、ある思いにとらわれた。それは、

『もしかすると私のストーカー、盗聴器や、隠しカメラを仕掛けているかもしれない。』

と、いうものである。

『私のストーカー、盗聴器か隠しカメラで今もこの部屋の状況を見たり聞いたりして、楽しんでるのかな…。

 だとしたら最悪だ。そんな奴、早く捕まればいい!

 でも、それって、私にプライバシーがない、ってこと?

 私、怖い…。』

美香の心境は、複雑であった。

 そして、その可能性に思い当たると、美香はいてもたってもいられなくなった。しかし、盗聴器等を探したところで、そう簡単に見つかるものではない。さらに、もし本当にそんな物が仕掛けられていた場合、下手に行動を起こすと、相手にそれがばれてストーキング行為がエスカレートし、場合によっては命をとられることも考えられる。美香はそこまで考えると、盗聴器等を探す気持ちが、失せてしまった。いやそれだけでなく、美香は恐怖と倦怠感から、一歩も動く気に、なれなくなってしまった。

『もしかして、この野球のテレビの音も、聞かれてるのかな…。』

美香はそんな中、ふとそう思い、テレビの音量を思いっきり下げてしまった。(テレビを消すことは、それをすると逆に落ち着かなくなるため、しなかった。)

 そうやってしばらく美香がテレビの前のソファーに座り、ぐったりしていると、ある疑念が、美香の頭の中に生まれた。それは、

『私のストーカーは、どうやって私の部屋に侵入したんだろう?』

と、いうものである。

 『私、ストーカーに気づく前から、戸締りはしっかりしてた。この辺り、空き巣も多いって聞いてたし、何より私、心配性だし…。

 だから、鍵をかけ忘れたことはない、って、はっきり言える。

 それなのに、私のストーカーは私の部屋に侵入して来て、殴り書きの紙を置いて帰って行った。…どうやって?

 …鍵穴をピッキングで開けた?いやでも、今の鍵はそんなヤワなものじゃない。そんなことできないし、もししたとしても、絶対に跡が残る、はずだ。

 じゃあ、犯人はどうやって、部屋に入って、部屋から出たんだろう…?』

謎は、深まるばかりであった。

 しかし、塞ぎ込んでいてもしょうがない。美香はそう考え、とりあえず今できること、野球の試合に集中することを、しようとした。そうしているうちに野球の回は進み、美香の贔屓の球団のペースで、試合は進んだ。それを見て美香は喜び、今日は美香にしては小さな声を出し、その球団を応援した。(それは、やはり盗聴器等を意識して、自然と声が小さくなったのであった。いつもの美香なら、1人の時でさえも、大きな声を出して応援し、1プレーに対して一喜一憂するのであるが。)

 

 その後、試合は美香の贔屓の球団の勝利で、ゲームセットとなった。そして、それが終わった瞬間、感情の押入れの奥の方に押し込んでいた恐怖がまたもや勝手に全面に出て、美香を苦しめた。

 『とりあえず、今日はもう寝よう…。

 でも、もう1度、戸締りを確認しよう…。』

美香は窓、ドアなど、1から見回りをし、施錠を確認した。

『よし、戸締りは大丈夫だ。

 今日は本当に疲れたなあ…。

 ゆっくり休もう。』

美香はその後ベッドに入り、電気を消して、その日は眠りについた。

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