第3話 CASE1:北川美香の場合 二
北川美香は、小さな時から、かわいらしい女の子であった。
また美香は、単に見た目がかわいらしいだけではなく、明るい性格で、人と接するのも好きであった。そのせいか自分の同級生はもちろん、近所のおじさん・おばさんなど年齢が上の人に対しても、例えば朝会った時など、
「おはようございます!今日は天気がいいですね!」
などと、あいさつをすることが多かった。
そのため、美香は小さな時から近所の人気者で、美香に好意を寄せ、告白をして来る男の子も、(上級生・下級生問わず)たくさんいた。
また、その美香の美貌は、中高、大学を経て社会人になった今でも、衰えることはなく、今でも美香に言い寄って来る男性は、多かった。
しかし、そんな見た目も気立てもいいはずの美香には、困った一面があった。
それは、
「自分が大好き。」
と、いうものだ。
一応言っておくが、美香は最初からの、いわゆる「ナルシスト」ではなかった。小さな時の美香は、純粋に明るい女の子で、「ナルシスト」の「ナ」の字も出て来るようなタイプではなかった。
しかし、そんな美香の性格に転機が訪れたのは、小学校高学年の時である。
その日、美香は自分より2つ上の、中学生の先輩に呼び出され、告白をされていた。(その先輩は、サッカー部のエースで、見た目も爽やかな男の子であった。)しかし美香は、
『確かにこの先輩、かっこいいな。』
と心の中で密かに思い、先輩のことは決して嫌いではなかったが、特に「好き」ではなかったため、
「ごめんなさい。」
と、相手の申し出を断っていた。
そして、相手が美香と付き合うことを諦め、美香は呼び出された場所から家へと帰っていった。その道中、美香はたまたま近所のブティックで、かわいい服を見つけた。
『あ、この服、かわいいなあ~。ちょっと、見るだけでも見てみようかな。』
美香は心の中でそう思い、店の中に入った。そして、店の鏡を覗いた、瞬間―。
『あれ?なんか今日の私、めちゃくちゃかわいいかも!
これなら、あの服も似合いそう…。
それに、今回は断ったけど、この私のかわいさなら、あんなかっこいい先輩が告白してくるのも、分かる気がするな!』
美香は、(客観的にもそうであるが、)自分のかわいさに気づいてしまった。
思えばこの頃の美香は思春期真っ只中で、特に女の子の場合、メイクやファッションなどに、特に興味を持ち出す年頃だ。そしてもちろん、そういった興味・関心は恋愛にも向けられる。実際、美香の同級生たちは、
「うちのクラスのあの子、かっこいいよね~。」
など、異性のことについて話をする時間が、長くなっていった。
そんな時期の美香であったため、美香の心に変化が訪れるのは、自然なことである、と言える。しかし、その美香に訪れた「変化」は、一般的な思春期の女の子に見られる変化に加え、
「とにかく、自分が好き!」
という、少々歪んだものも含まれていた。
そして美香は、そんな自分への思いを持ち続けたまま、大人になった。その間、(先ほども少し触れたが)特に中高生の時は、その美貌から、美香に告白をして来る男子は、多かった。そして、美香はそうやって告白されると決まって、
『告白をされるってことは、私って、やっぱりかわいいのかな?
そうだ、そうに違いない!私には、それだけの価値があるんだ!』
と、自分への思いを強めるのであった。
また、美香は鏡を見るのも好きになり、
『今日の私のこのヘアアレンジ、いい感じかも!
…っていうか私、どんなヘアアレンジも、ファッションも、似合いそう!
だって私、かわいいんだもん!』
と、美香は鏡の前で、そんな声にならない独り言をもらすのであった。
そんな中、美香は社会人になった。そして、美香のナルシストぶりは、そのまま続くどころか、さらにエスカレートしていた。
そういった状況下での、例の置き物の配置が、少し変わっていた事件である。美香はそれを見た瞬間、侵入者の存在を疑った。そして、
『その侵入者は、間違いない。
私のストーカーだ。』
と、勝手に思ってしまった。
しかし、それだけでは、単に自分が配置を変えたのを忘れていただけ、ということも考えられ、決して侵入者の存在を立証できるものではない。美香は警察に行ったが結局は空振りで、自分の家に、戻って来た。
そんな中、美香はその、殴り書きをされた紙を、発見した。そして美香はその瞬間、自分の「ナルシスト」ぶりを完全に忘れ、侵入者がいることに対する恐怖と嫌悪感で、美香の全身は満たされた。
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