poet:4 ローズ=マリー女史の廓寥

 ほのかに緑の匂いがする、真新しい木枠に、汚れひとつない純白に染まった亜麻のカンヴァスをぴんと張り、それを、大きなイーゼルに立てて、壁も床も天井も真っ白なアトリエに置いて、これから描かれるであろう息吹を慈しむかのように、ゆっくりと、狙いを定め、絵筆から繊細に垂らされる最初の一滴。


 なにもないところに、最初に美しさを添える重要な役回り。その役目を一身に引き受ける私は、当然美しくあらねばなるまい。


 誰かが重ね塗りなんていう絵画手法を見つけなければ、あなたの初めてを奪った私は永遠に美しいままで、皆の羨望を集め、常に貴方の前に居ることができたのだろうか。

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