poet:3 ローズ=マリー女史の謙遜

 ーーいいえ、私はこれっぽっちも美しくなんかないのよ。


 そう私は穏やかに微笑んで見せるが、他者から見れば、この整った横顔も、色素の薄い肌も、僅かに鼻腔をくすぐる甘い香りも、とにもかくも、私を取り巻く全ての要素が、声を嗄らしながら、全身全霊で、この人物は絶対に美しいのだ、と叫ぶように見えるのを私はよく理解しているつもりだ。


 いつの日からだろうか、私が持っているこの鋭い棘が、愛する人を突き刺し、切り裂き、ぼろぼろにするしか能がないことに気付いたのは。


 能ある鷹は爪を隠すとは旧い諺で良く言ったものだが、いつも真実の愛を追い求め、それを見つけた暁には絶対に逃すまいとしていた私の持つ鋭い棘は、いつの間にか、真実の愛を探すどころか、求めていたはずの甘い高級な真実の愛の味より、鉄臭い血の味を好むようになっていた。そして、皮肉なことに、真実の愛を求め、虚空を掴むかのようにあてもなく彷徨っていた時よりも、安物の合皮のような薄っぺらい愛で無理やり腹を満たし、デザートに血を啜っているときのほうが、それはずっと有効に働くのだ。だから、諺に習って、私は棘を隠さねばならない。


 そうすることによって、穏やかな私は、仮初めの愛を紡ぎ、今日も血を啜りながら、生きてゆくことが出来るのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る