第30話 第三話「イッツ・ノット・トゥー・レイト」(3)
「いったいどの面下げてご来店なさいましたあ?お客さん」
そっとドアを潜ったつもりだったが、美倉の反応は早かった。
「無沙汰して済まない。色々と立て込んだ事情があって……」
「ふうん。そら、そうだろうよ。大人の男は事情が一つくらいないとなあ……だがよ」
次の瞬間、俺の鼻先にはサーベルの切っ先がつきつけられていた。
「義理を欠いちゃあ生きられないのも、大人の男の流儀だ。わかるな?」
「美倉、これは……」
「わかるな?」
俺は頷いた。
「これは「妖怪ライダー・ゲルドス」のソウルエンダ―じゃないか。よく手に入ったな」
「大当たりだ。正解ついでに、いい話を聞かせてやろう」
「よくない知らせもセットとかいうんじゃないだろうな」
「いいから黙って聞け。今から一月ちょっと前、この街で古道具屋を営んでた、オタクなゾンビ野郎が姿を消した。誰にも告げずにな。……それからってもの、そいつがかかわった連中のところに、昼も夜もなくやってくるようになった人物がいた。そいつがどこへ行ったか知りたい一心でな」
「まさか……」
「一応、俺も男だ。たとえ新婚ほやほやだろうが何だろうが、男がこれと決めた仕事を始めたら、家に帰れないことだってある、そのくらいはわかる。……しかしだ」
美倉のサーベルが俺の顎の裏をなぞった。ついでに髭でも剃ってくれればいいのだが。
「例外がある。わかるか?」
「例外だと?」
そもそも俺は新婚じゃない、そう言おうとしたが、断念した。この男に理屈は通じない。
「そうだ。……それは、女の方も覚悟を決めている場合だ。その時は、絶対に置いて言っちゃあ、いけない。そいつはもう、お前の一部だからだ」
「一部……」
「そうよ。生きるも死ぬも、地獄の果てまで一蓮托生の運命共同体って奴さ」
美倉の両目が凄みを帯びた。俺はホールド・アップの姿勢を取ると「降参だ」と言った。
「ようし、それでいい。……ところで、今日は何がお入用で、お客さん?」
美倉が商人の顔になった。今度は俺が深刻な表情をこしらえる番だった。
「銃器の玩具を、二十から三十ほど、用意してくれ。出どころが想像できないような、インパクトのあるやつがいい」
美倉が目を丸くし「ほう」と声を上げた。たちまち目の奥に狡猾そうな光が現れた。
「そういう商品となると、ちょいとばかし扱うルートが変わってくるんですが、お客さん、懐の方は大丈夫で?」
俺は無言で「新しい」右手を美倉の前に突き出して見せた。
「イズ……これは、いったい?」
「色々と、大変な捕物があったのさ。おかげで結構な代償を支払ったよ」
「そのようだな。……まあいいさ。詳しい話はそのうち聞こう。それで?」
「俺にも腕利きモデラ―の知り合いくらいはいる。だが今回は時間がないんだ。すぐ調達できて、ハッタリとばれないようなのを頼む」
「わかった。別に難しい注文じゃない。二日もあれば用意できる」
「助かった。金は言い値で払う。後で請求してくれ」
「ふん、どうせよっぽどの事情があるんだろう。一月も売り上げのない店の貧乏店主がいったいいくら払える?見栄を張るんじゃねえぜ。ツケだ、ツケ」
「すまない。……使うのはおそらく一瞬だ。それが終わったらすぐに返す」
「別に急がねえよ。……それより、ひとつ約束しろ。今回のごたごたがおわったら、すぐに「彼女」に会え。いいな。約束を破ったら、二度と貴様と商談はしない」
「ああ……わかった」
「そのかわり、約束を守ったら「アストロX・敵は未来人?」の付録ソノシートをくれてやるよ」
「なんだと?お前それをいったいどこで手に入れた。そいつは災害特番でうちらの地域じゃついに放送しなかった奴じゃないか!」
「へへ、相変わらずだな、旦那。安心したよ」
美倉はそう言うとサーベルを柄に収めた。目の形のランプがピカっと一瞬光り、俺は「電池が生きている……こいつは高いぜ」と密かに唸った。
〈第四回に続く〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます