白の世界
白のシゲの城
「話は分かりました。つまり、ここでトリップマシンを作りたい。そういうことですな?」
白のシゲの城に、ショウと仙道が来ていた。ショウが仙道を連れてパラレルトリップしたのだ。ショウの能力も既にリキと同じレベルになってきていた。
仙道の不安は払拭されていた。資金もあるし、場所もある。映画では、よくこんな城みたいなところで、ヒーローがすごい装置を開発していたりする。ここならそういうことができるのでは、という気持ちになっていた。
「資金のことは気にせずに。欲しいものを遠慮なく言ってくれますかな。すぐに集めましょう」
白のシゲは、小松原教授の論文を読んでいることもあり、自分の近くでその理論が実物として開発されることを喜んでいた。
「ありがとうございます。それからパラレルワールドの研究者が必要です。時空間研究所にいるような。これはなかなか難しいのですが」
仙道は、気になることは全部言ってしまおうという気になっていた。もしかすると、そういう人材もこの城の中にいるかも知れない。
「私が研究所を買ってしまえばよろしいかな?」
「え?」
シゲの答えは、仙道の予想を超えていた。
「ダメですかな」
「いえ……いえ、そんなことできるんですか?」
「できますな。幸い、こちらの世界にも時空間研究所はあるようですしな。では、そうしましょう」
白のシゲはにこやかに嬉しそうに話し、すぐさま誰かに電話を掛け始めた。
仙道は驚いた。一体どんなに金持ちなのだろうか。研究所を買うなんて、数十億、もしかすると百億単位の資金が必要だろう。それを買いますなんて。しかし、考えてみると、城に住んでいるくらいだから、それくらいのことは簡単なのかも知れない。
それよりも、仙道には不安に思うことがあった。この世界が、黄色の世界にある時空間研究所が把握している世界だったら、作戦が筒抜けになってしまう。時空間研究所を買ったりしたら怪しまれるだろう。
「シゲさん、この世界をもし鬼塚が把握していたら、作戦がうまくいかない可能性があります。それを確認してからでないと」
「それは大丈夫でしょう。リキが時空間研究所から戻って来た時に、ここはまだ知られてないと言ってましたからな。知られているのは青、赤、黄、金の世界のようですな」
仙道は整理してみた。シゲの話してくれたリキの話と、自分の記憶を照らし合わせるとこうだった。
仙道が元々いた世界は黄、リキが最初に翔んで時空間研究所との連携を始めたのは青、リキが二番目に翔んだのは赤、そしてリキが捕まったのが金だ。そしてここは白で研究所はまだ認識していない、はずだ。あとは、レンが翔んだ世界と、ユキノが翔んだ世界がこことは違う世界であることを祈るだけだ。
仙道は、色で標識するやり方はうまい方法だと思った。こっちでトリップマシンを作る時は、システムを色名で表示するようにしようと心に決めた。
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一ヶ月が経ち、トリップマシンが完成していた。この一ヶ月、仙道は何かしら理由をつけては研究所を休み、白の世界で開発を進めていた。シゲが白の世界の時空間研究所を買ったおかげで、仙道がいない時でも開発は滞りなく進み、チェイサー、波動測定装置、重力レーダー、高次元通信装置も完成していた。
シゲの城の一室で、リキたちを救出するための作戦会議が開かれていた。白のシゲ、ショウ、仙道、そして時空間研究所の仙道の助手、高階も仲間に加わっていた。高階も鬼塚のやり方についていけず、仙道がこちらに連れて来たのだった。
部屋には、透明な電子ガラスボードがいくつも立ててあり、そこに時空間研究所の映像、ブレーンの関係図、トリップマシンの設計図などが表示されていた。
高階が、透明ボードに映し出されたトリップマシンの設計図を指差しながら、最初の一声を発した。
「仙道さん、トリップマシンを翔ばすには、四階のリキたちがいる部屋の空間座標が必要ですよね」
仙道が落ち着いた様子で答えた。
「それは問題無いだろう。私か高階君が測定してくればいい。座標をセットしたら、あとはタイミングを見計らってトリップマシンを翔ばし、リキたちをここに連れ帰って来る。そうすれば、向こうはもう追って来れないはずだ。高階君、トリップマシンの操作は君にお願いする」
「分かりました。明日、私が座標を測定して来ますね」
「それと、新しいトリップマシンは飛び先のパラレルワールドを色で選べるようになっている。今回の目標は黄色だ。間違えないように」
仙道は早速、色での標識を新しいトリップマシンに取り入れたのだった。
「分かりやすくなりましたよね」
高階は楽しそうにニコニコしていた。
仙道はボードをタップした。ブレスレットの画像、コントローラーの画像、鬼塚の写真が映し出された。
「問題は、ブレスレットのコントローラーを持っている鬼塚だ。鬼塚をリキたちの部屋に近づけさせないようにしなければならない。所長室も四階だし、そもそも所長室にはモニターもあるから、気づかれる可能性が高い。異変を感じた鬼塚がスイッチを押してしまうなんてことがあったら最悪だからな」
「鬼塚の気を引いておく必要がありますね」
ショウが、机の上に足を組んで腰掛け、仙道の顔を見ながら言った。仙道は、そうだなという顔で答えた。
「それは私がしよう。所長室で何か話をして引き止めておくよ」
仙道がボードをタップすると、時空間研究所の図面が映し出された。そして、所長室とリキのいる部屋をタップし、俺はここに行くと、所長室を指差した。ショウが机からポンと飛び降り、所長室を指差して言った。
「でもそれじゃあ、仙道さんが逃げられないかもしれませんよ。鬼塚は何をするか分かりません。リキさんたちが逃げ出したことが分かったら、仙道さんに危害を加えるかもしれません」
「じゃあ、どうする?」
「リキさんたちがここに戻って来たタイミングで、僕が所長室に翔びますよ。それで仙道さんを連れ帰ればいい。僕はまだ捕捉されてないし、ブレスレットもしてないから、僕を追うことはできないんですよね」
「そうだな。それがいい。お願いするよ。じゃあ、何かアンカーを所長室に置いておく必要があるな。考えておく」
そう言いながら、仙道は何かを思い出して机の引き出しを開けた。
「忘れていた。高階君、君はリキたちを救出する役目だ。これを持っていてくれ」
仙道は机の引き出しから、プラスティック製の棒状の容器を三本取り出した。
「神経毒の解毒剤だ。この先が小さな針になっている。もし鬼塚がコントローラーのスイッチを押してしまったら、この解毒剤を使ってくれ。ただし注入されてから一分以内に頼む。それ以上経つと効くかどうか保証できない」
「分かりました」
高階は解毒剤を受け取り、唇をキュっと結んだ。
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