第二章 時空間研究所
黄の世界
時空間研究所 新所長 鬼塚
──三ヶ月前
「鬼塚、久しぶりだなぁ」
仙道は廊下を歩いて来た鬼塚に声を掛けた。米国の時空間研究所に出向していた後輩の鬼塚が、仙道の後継の所長として日本に戻って来たのだ。
「仙道さん、お久しぶりですね。お元気ですか」
鬼塚は何の感情も見せずに淡々と事務的に挨拶をした。対して、仙道は歓迎の意を身体中で表し、固く握手をした。
「お前が所長で来てくれるなんて頼もしい。そもそも俺は所長なんて器じゃ無かったんだよ。これで俺は開発に専念できる。ありがたい話だ」
「ええ、先日メールした通り、仙道さんには開発部長に就いていただきます。所長を降ろされたことで、落ち込んでいるかと心配しましたが、逆に生き生きしているようですね。期待していますよ」
「ああ、分かっている。トリップマシンと重力レーダー、この二つは理論的には完成しているんだ。あとは実験さえ滞りなく進めば、割と早い時期にお披露目できると思うぞ。この二つができると、パラレルワールドに人や物を送り込めるし、位置情報も追うことができる。そうすれば、お前が目論んでる新しいビジネスに活かせるはずだ」
仙道は得意満面だった。だが、鬼塚は冷静にこう言った。
「仙道さん、早い時期、ではなく二ヶ月でお願いします。二ヶ月後にはこのリストに載っている企業に使わせます。もうそういう話になっているのです。それ以上は待ちませんよ」
鬼塚から手渡されたリストには、名だたる企業が百件近く並んでいた。
「わ、分かった。二ヶ月だな。必ず完成させるよ」
鬼塚はパラレルワールドを新しいビジネス市場として企業に提供しようと考えていた。ビジネスを成功させている企業は、成功した市場を持っている。しかし、そこだけを攻めてもビジネスは拡大しない。そのため、次々と新しい市場を開拓する必要がある。そのためにかける労力・時間・資金は膨大で、しかも必ず成功するとは限らない。そこで鬼塚は考えた。パラレルワールドに市場を広げればいいのだと。パラレルワールドは、全く同じ世界では無いにせよ、同じような市場が存在している。そこには成功した経験のある市場もあるはずだ。同じような戦略で同じような成功を手に入れられる可能性がある。いくつものパラレルワールドにビジネスを展開できれば、同じ商品が二倍三倍、いや何十倍も売れる可能性がある。
鬼塚は、この話を大きな成長を望んでいる企業に持ち掛けた。賛同する企業は既に数十のオーダーになり、もう少しすれば百を超えるだろう。鬼塚は、それらの企業にトリップマシンを使ったパラレルワールド間物流サービスを提供すると約束した。そして、そのサービスを開発するための多額の資金を、賛同する企業から調達する算段を始めていた。
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