第5話「おにごっこの起源?」
チーターは、本来狩り以外で無駄な体力を使わない動物です。
じゃぱりまんを食べ終え、木の上ででも昼寝をしようと木立ちの間を歩いていました。
すると、道の先をささっと進む背中を見付けました。ロードランナーです。
ロードランナーはすぐに立ち止まり、かがんで何か拾い、茂みにそれを投げ捨てると再び素早く進んでいきました。
「何してるのよ」
「うおっ、チーター!……さん!」
ロードランナーはよろめきがちに振り返りました。
「慣れないなら普通でいいわよ」
この前チーターがプロングホーンをセルリアンから救って以来、ロードランナーはチーターに対して丁寧に接することを心がけてはいるものの、これまでチーターをプロングホーンと勝負させようと散々挑発してきたので態度を改めるのに苦労しているのでした。
「そ、それなら……。道の掃除だよ」
「掃除?」
「この前はプロングホーン様が危ないところだったからな。もう転んだりしないようにさ」
「ふーん、感心ね」
「なら手伝ってほしいもんだな」
ロードランナーはまた早足で歩き始めました。そして、木の枝や石が落ちているところでぴたりと止まっては拾って取り除き、また間髪を入れずに進み出します
「私が手伝うまでもなく順調じゃない」
「へへっ、おいら本当はただ走るより、走りながら探し物をするのが得意だからな」
グレーター・ロードランナー、オオミチバシリは、さっと走っては地上の食べ物、特に小動物を拾い上げて食べる鳥です。チーターと比べると、狙った相手を追うより地面の細かい様子に目を光らせながら走るほうが向いています。
しかし、チーターが見ているとロードランナーは立ち止まって動かなくなりました。
ロードランナーは、地面から突き出た木の根に頭を抱えています。
「こういうのだよ……これにプロングホーン様もひっかかったってのに」
「抜けるわけないものね」
悔しそうに木の根を蹴るロードランナーが不憫で、チーターはネコの仲間らしいアイディアを分けてやりました。
「土をかけて埋めちゃうのは?」
「ああ、それがいいな。土が固いから、平たい枝でもあれば……おっ、あったぞ」
ロードランナーはすぐに茂みの中から何か見付けて拾い上げました。
しかしそれは木の枝ではなく、ふたりをすごく驚かせるものでした。
少し平たく、全体が曲がっていて、つやつやして、二又に分かれたもの。
「わっ、プロングホーン様の角だ!」
「なんで!?」
チーターは恐ろしい考えが浮かんでしまい血相を変えます。
「セルリアンの仕業!?」
「違うよ、落ち着きなよ。抜けただけだ」
「病気!?あいつ変な病気なの!?」
「落ち着けって!」
角だけ落ちているなんてただごとではないとチーターは早とちりしていたのですが、ロードランナーはどうも慣れた様子でした。
「年に一回、外側だけ抜け代わるんだよ。また新しいのが伸びるから」
「外側だけえ?」
「ほら」
チーターのほうに向けられた根元の切り口は、確かに空っぽになっていました。
「ああ、じゃああいつは無事なのね」
「今頃古い角が抜けてすっきりなさってるだろうさ」
チーターはもう肩の力が抜けていました。
そして、抜けた角が思ったよりつやめいていて、優美な曲線を描いているのに気付きました。
それがつい最近までプロングホーンの頭にあったというのは、なんだか妙な感じがしました。
「こりゃもう片方もその辺にあるな。ちゃんと拾っておかないとまた、」
「また何?」
ロードランナーは言わずにその場を離れようとしましたが、チーターの瞬発力では楽に回り込めてしまいます。
「言いなさい」
「わ、分かったよ。その、ほっとくと、餌にされるんだよ」
「餌?」
「小さいセルリアンの」
フレンズの角は当然けものプラズムでできていますし、本人が誇りに思うことで輝きを蓄えています。フレンズを襲えないほど小さいセルリアンにとっては、大きく育つためのかっこうの栄養源です。
「なんでそんな危ないもの放っておくのよあのバカ!!」
チーターは再び血相を変え、その辺りの茂みをかき分けます。
「木の下とかでいいのっ!?」
「お、おお、木にこすりつけて抜いたはずだし」
あんな偉そうな態度をしておいて、なんてだらしないのかしら。もしかしてこの前のやつもあいつの角で育ったんじゃないの。それじゃ自業自得じゃないの。ひとがどんな思いで助けたと思って……。
憤慨しつつも、チーターはなんだか角を自分で見付けたくて仕方がなくなっていました。
角をこの手に取って、じっくり見つめてみたいと、そんな気持ちが心のどこかに芽生えていたのです。
しかしそんな風に慌てていると、全然関係のない木の枝や皮が角に見えてしまい、探し物がはかどりません。
見付けたのは結局、より探し物が得意なロードランナーのほうでした。
「あった!」
チーターは声のしたほうに向かって跳びかかります。
「よこしなさーい!」
「何で!?」
あまりの勢いに驚いたロードランナーは、素直に角を渡すのをためらってしまいました。あとでセルリアンの来ないところに安置しておきさえすれば、空気中のサンドスターと混じって消えてしまうのですが。
少しの間もみ合いにはなりましたが、さすがにロードランナーの腕力では、細いとはいえ猛獣のチーターにはかないません。結局どちらの角もチーターにもぎ取られてしまいました。
すると、騒ぎを聞きつけて、角の主本人が現れたのです。
「どうしたんだ?ずいぶんにぎやかだな」
その頭の角は、まだほとんど芯だけのままでした。
短くて、笹の葉みたいなつつましい形になってしまっています。おまけに、元から根元のほうに生えている毛が普段よりさらにふさふさしているのです。
今チーターの手にある立派な角とは大違いです。そんなものがプロングホーンの頭から生えているのを見て、チーターはあまりの落差に可笑しくなってきました。
「ふっ、あははははっ!何よそのちんちくりんで可愛らしい角はーっ!」
「あっ!笑うなよ!」
ロードランナーは怒りますが、プロングホーン本人はなんだか、にまにまと笑みを浮かべて涼しげにしています。
「そうか、この角が可愛いか」
「なっ!?」
「それならいいんだ。格好がつかないと思っていたが、そんな風に言ってくれるとはなあ」
からかおうとした相手から逆にこんなことを言われて、チーターはもう我慢がなりません。
両手に持っていた抜け角を振りかざし、プロングホーンに迫ります。
「ちゃんとしたのが生えるまでこれでもかぶせてなさいよっ!」
「ええっ!?だ、駄目だ!せっかくすっきりしたのに!それに古いのをかぶせたら新しいのがちゃんと生えないじゃないか!」
プロングホーンが駆け出し、チーターが角を持ったままそれを追います。
「待ちなさーい!」
いつもと逆の追いかけっこが始まってしまいました。ロードランナーも仕方なく、結果を見届けについていきます。
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