第4話「チーターのかんさつ?」

 プレーリー(北米の草原のこと)には、あんまり雨が降りません。この日もいいお天気で、プロングホーンにとっては絶好のかけっこ日和でした。

 といっても、元々群れを成して駆け回る動物だったプロングホーンのこと、かけっこの相手がいなくては面白くありません。チーターがいたら不意打ちをかけてやろうと、辺りを眺め回してうろついていました。

 すると、茂みの間に白と黄褐色の背中が横たわっているのが見えました。

 なんだ、寝ているのか。少しがっかりしながらも、プロングホーンはチーターのいる茂みにそっと近寄りました。

 無理に起こしてはベストコンディションは望めまい。ゆっくり休んで万全の状態で付き合ってもらおう。

 茂みを覗き込んでみると、チーターの有り様はプロングホーンを呆れさせるものでした。

 両腕、両脚をそれぞれ揃え、思いっきり伸ばして正面に投げ出し、横倒しになっているのです。

 きちんと手足を畳んで丸まって眠るプロングホーンとは大違いの、なんとも珍妙な寝相です。

 それでも、寝ていて止まっているチーターをゆっくり眺めることなどないので、プロングホーンにも興味が湧いてきました。

 おかしな寝相ではありますがチーターの体のしなやかなことには変わりなく、プロングホーンの目を奪ったのです。

 すらりとした手足、柔らかな背筋。

 これら全身のバネから、あの驚くべき瞬発力が生み出されるのです。

 安定した動きで大変な持久力を生み出すプロングホーンの体とは異なることが、プロングホーンにもよく分かりました。

 このしなやかさを取り入れれば、スタートであまり離されずに済むのでは。

 そんな風に考えてはいますが、また一方ではチーターの体を、ただ素直に、美しいものとも感じていました。

 そのせいで、走り方に取り入れようと考えるよりただじっと見つめてしまっていることに、プロングホーン自身も気付きませんでした。

 そうしてプロングホーンの目線が行き着いたのは、チーターの寝顔です。

 あまりにも安らかで、起きている間の尖った感じは陰もありません。

 プロングホーンははっと息を呑み、走りとは全く無縁なこの顔を、手足よりも熱心に見つめてしまいました。

 そして、こんな穏やかなひとときを過ごしているならますます今はそっとしておいて、十全に力を蓄えてからかけっこしてもらわねばと考えました。

 そのために、プロングホーンはチーターから目を離し、周りに注意を向けました。

 しかしそれが間違いの素だったのです。

 プロングホーンは、通りかかったロードランナーとばったり目が合ってしまいました。

「あっ、プロングホーン様~!」

 ロードランナーは嬉しそうに駆け寄ってきます。

「まっ、待つんだ!今はまずい!」

 ついプロングホーンも大声を出してしまいました。

 そして思わずチーターを振り返ると、チーターは目を見開いてプロングホーンを見上げていました。

 寝床を上から覗き込まれて慌てない獣がいるでしょうか。

 チーターは瞬時に跳び起き、よく聞き取れないことを叫びながら時速百キロに達していました。

「ああっ、待ってくれ!起こしてすまない!しかし起き抜けでその速さ……やはりお前は興味深いな!」

 プロングホーンは謝るのもそこそこに、楽しそうに追いかけていきます。この気持ちの切り替えも大した瞬発力です。

 ロードランナーも何がなんだか分からないまま、とにかくかけっこについていくしかありませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る