第2話「アミメキリンのミステリー!迷探偵の頭蓋骨に隠された謎!?」

 ある日の深夜、ロッジありづかでのことです。

 タイリクオオカミが新作の原稿を仕上げ、最後の見直しができたところでした。

「うん、これでもう手を加えるところはないな」

「完成ですか、先生!」

 タイリクオオカミが作業をしていたのと同じ部屋にいたアミメキリンが、力のこもった声を上げました。

 タイリクオオカミは指を立て片目を閉じます。

「アリツさんが起きてしまうよ」

 アミメキリンはとっさに両手で口をふさぎましたが、そのまま小声で言います。

「完成おめでとうございます」

「君も手伝いお疲れ様。ありがとう」

 手伝いといってもアミメキリンは原稿や画材にはほぼ手を触れていません。

 描き損じを片付けるとか、飲み物を取ってくるとか、そういった身の回りのことを任されていたのです。

 それだけでも作業に集中できてずいぶん助かったので、タイリクオオカミはアミメキリンにこんなことを言ってみました。

「手伝ってくれたお礼に、何かお願いを聞いてあげようか」

「おおっ!?」

 アミメキリンは驚いたかと思うと、急に頬を赤らめ、もじもじとうつむきながらこう答えたのです。

「では……、頭を、なでていただけたら、と」

 これはタイリクオオカミにとって予想外の答えでした。

「そんなのでいいのかい?原稿を見せてほしいとかかと思ったけど」

「先生の玉稿に手を触れるわけにはいきませんので!」

 作業中、タイリクオオカミはそのことをアミメキリンにかたく守らせていました。

 その従順さは、群れ社会で生きていたオオカミの一種としても、とても好ましく思えるものでした。

「じゃあ、こっちに」

 自分が座っていた椅子を引いてアミメキリンを座らせると、タイリクオオカミは向かい合って立ちました。

 そして、アミメキリンの頭にそっと手を触れます。

 アミメキリンは目を閉じてかすかに体を震わせました。

 タイリクオオカミはアミメキリンの頭の前寄りに手を当て、髪の向きに撫でつけました。アミメキリンは小さく開いた口から息を漏らします。

 手を後頭部に移すと、アミメキリンの頭はタイリクオオカミの胸元に少し近付きます。緊張して力の抜けない肩に、タイリクオオカミは空いているほうの手をかけてやりました。

 そのまま後ろ髪を梳くように撫でると、ふうう、という、かすかな声が聞こえました。

 怪しい影の騒ぎのときはとんだ言いがかりをつけられたが、手なずけてやれば素直なものじゃないか。タイリクオオカミはアミメキリンのことをすっかり好く思っていました。

 そして、子供扱いするように撫でくり回してやろうと、頭頂部に手を触れようとしたときでした。

 タイリクオオカミはおかしなことに気付きました。

 髪に手が沈む見た目よりも早く、固い感触が返ってきたのです。

 こぶでも出来ているのだろうかと、タイリクオオカミは手を止めましたが、

「そこっ、お願いします……」

 アミメキリンは切なそうに懇願します。

 そのためタイリクオオカミは、こぶだと思ったところにちゃんと手を触れ、本当に出っ張りがあることを確かめざるを得なくなりました。

「ここで、いいんだね?」

「はい。その低い角のところです」

「低い角……」

 そう言われてもその出っ張りはアミメキリンの豊かな髪に覆われて、本当に角なのかどうか見た目では全く分かりません。手には円錐形の感触があるのですが。

 そういえば今までこれだけが角だと思っていた二本にも、短い毛が生えています。

 タイリクオオカミはアミメキリンが低い角だと言う円錐に、つまむように力をかけてたずねました。

「これは、角なのか?」

「はい!私の角は五本ありますっ」

「五本!?」

 見えている二本に今触っている出っ張りを含めてもまだ三本です。

 タイリクオオカミは低い角とやらを撫で回し、アミメキリンが、はうう、などと力なく悶えているのを聞きとめながら、空いている手でまだ触っていないところを探っていきました。

 すると、見えている角二本それぞれのすぐ後ろにそれはあったのです。

 頭頂部のものよりさらに低く、また小さな出っ張りでしたが、確かに見えている角とは別に盛り上がっています。

「そっちの角もっ、お願いします」

 やはりこれも角のようです。

 いえ、正しくは、これも角だとアミメキリン本人が言い張っているだけです。角と言い切れるものではないようにタイリクオオカミには思えました。

 とはいえ、アミメキリンの頭には髪に隠れた出っ張りが三つある、ということは確かなのです。

 そして当のアミメキリンは、角だと自分で思っているところを撫でられるのにすっかり夢中になっています。

「君のことを……、新しく知れた気がするよ」

「先生っ……!」

 知識とは増えるとかえって自分の無知を自覚することになるものだ。タイリクオオカミはそんな考えを抱きながら、割とどうでもいいものの妙に怪しいその頭を撫で続けるしかなかったのでした。

 なお、フレンズになっていないアミメキリンについても、頭骨に目立つ角以外にある三つの出っ張りを角に数えるかどうかは議論の分かれるところです。

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