第26話 解放同盟
ブリッツを大型車両ユニットの後方の荷台にセットする。
その近くにオースティンが乗る。
運転は俺でナビゲートの為の助手席にミルヴィナが座る。
後部座席にはカイルス、ビゼン、ビンゴの3人が乗り、
キャンピングカーと化した移動キャリアーにはティオとヴィヴィ、そしてティオの身の回りの世話をするメイド2人が乗っている。
「うきょうひょうひょ。メイドさん、メイドさん。」
うーん。移動キャリアーにヴィヴィを乗せるのは不安になるが、護衛は必要だしなぁ。
「素晴らしいですね。こんな豪華な内装の馬車は初めてです。」
「本当に、馬車の移動は大変揺れるものですが、全く揺れませんね。」
「お嬢様。お茶をお持ちしました。」
キッチンがあるおかげで、簡単にお茶や食事ができる。
安全な馬車の中から外の景色を見ながらお茶を飲む。
そうしている間にゆっくりと目的地へ進んで行くのであった。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・遅い」
そう、遅すぎるのである。
馬の速度は駆け足では早い、だが旅での速度はせいぜい7km/hである。
車での徐行以下の速度である。
操縦は最初自分で行っていたが今はミルヴィナが行っている。
あまりにも遅くて疲れるのだ。
しかも、2時間ほどで馬に疲れが出る為、休まなくてはならない。
車での移動とは合わないのである。
渓谷付近にいる危険な魔獣はほとんど倒してしまったので実に暇である。
以前は危険な魔獣を避けて移動したため、もっと遅かったそうだ。
なんとかその日の内に渓谷を抜け村にたどり着いた。
ティオは村の宿に泊まるそうだ。
俺はキャンピングカーがある為、わざわざ村の宿に泊まる必要はない。
明日の為に休もうとしていると、護衛の人達がやって来た。
「やあ、今晩は。よく見せてもらってもいいかな?」
昼間はあまり見ることが出来なかったから見に来たらしい。
「すごいなぁ。これがゴーレムの力か。家ごと運ぶなんて驚きだよ。」
「いやいや、こっちも驚きだぞ。馬の無い馬車は初めて見たよ。」
この世界でも男はメカ好きが多いらしい。
「この分だと、予定より早く町に戻ることが出来る。」
「馬だけだと、早駆けと回復呪文の併用でもっと早く進めるのだけど
馬車が一緒だと今日の分よりも遅くなるから大助かりだよ。」
じゅ、呪文があったか―。
馬に回復呪文を使う発想はなかった。
来る時も何やら呪文を唱えていたが、索敵かと思っていたが
回復呪文だったか・・・・。
「ティオ様だけでも先に戻っても問題は無いのだけど流石にそこまでは・・・。」
どうやら、もっと早く移動しても良いらしい。
護衛の人に早くは動かしても良いかの許可を取る。
「できるなら先に戻ってもいいそうだ」
信じていない様だ。
翌朝、ティオと御付きのメイドに速度を出すと告げる。
「もっと早く動けるのですか。それは楽しみです。」
「それで、大丈夫なのでしょうか?」
「ブリッツによると免振システムのおかげでほとんど揺れないそうです。」
全く揺れずに時速60km/hで移動する。
驚く護衛たちをあっという間に引き離す。
「すごいすごいです。景色が流れていくようです。」
「うひょー。はやーい。うほうほうほ。」
ティオやヴィヴィは喜んでいる。
「ひいいいい。」
メイドさん達には刺激が強い様だ。
更に速度をあげられるが、森を抜ける事を考えるとあまり速度を出すのは得策ではない。
森の中の道は曲がりくねっているため、せいぜい60km/hが限度だ。
だが、馬よりもはやい速度で移動したおかげで予定日より大幅短縮できた。
町が見えて所でアデオムの町の門から騎士の集団が完全武装でやって来た。
「止まれ!面妖な集団め。」
自動車の世界から来たから違和感がなかったが、ここは馬車の世界である。
どう見ても金属の箱に乗って動く妖しい集団だ。
前の車に乗っているのが、リザードマン、セントール、有翼族で人間(の様に見える)のは俺とミルヴィナだけである。
「我々は妖しい者ではなく、ヴォ―ドへ行って帰って来たんですよ。」
「馬鹿な!この短期間で帰ってこれるはずが無い。何者だ!貴様らは!!」
「だから、お嬢さまの護衛で・・・・」
車を止めて騎士と話をしていると、後ろのキャンピングカーからティオが下りてきた。
「ロラン。お出迎え、ご苦労様です。」
「ティオお嬢様。では本当にこの短期間でヴォ―ドまで??」
「はい。
この馬車はゴーレムの一部らしく、とても速く移動できるのです。
乗り心地もすごく良いのですよ。」
ティオのおかげでいらぬ疑いは免れたようだ。
俺達はそのままレンボルト城に移動する。
やはり車が珍しい為、子供どころか大人までぞろぞろ付いてくる。
困った。
このままでは城門にさえたどり着かない。
仕舞いには車の前にも人々が群がってきた。
こうなると車は動かせはしない。
クラクションを鳴らしても、意味が判らない、判ってもらえない。
カッカッカッカッカッカッカッカッ
「この騒ぎは何事か!」
立ち往生していると、騎兵団が現れて集まった群衆を散らす。
どうやら城の方からやって来たみたいだ。
「こちらへ。先導します。」
さすがに騎士団は教育が行き届いているのか、驚いていないように見える。
俺達は騎士団に先導され城門をくぐった。
「よくぞ戻った。ティオ・レンボルトよ。役目、大儀である。」
「もったいないお言葉痛み入ります。」
「他の者も護衛の任、ご苦労であった。」
「では、書状を。」
「はい。」
ティオが渡した書状はこの間の会議の物だろう。
いったい何の会議だったのだろうか?
辺境伯は書状に目を通すと俺達を見回す。
「閣下、ヴォ―ド卿たちは何と?」
「帝都開放の軍に参加するに条件を出してきた。」
ティオが参加したのは帝都開放の為の会議らしい。
「解放に当たって、アーカス湖からの援軍が心配される。
よって、速やかにリザードマン族の参加が条件である。と。」
アーカス湖には魔族のダゴンとリザードマン族が争っている。
だが、リザードマンはダゴンが攻めない限り争うことは無い温厚と言うより
中立的な種族なのである。
「リザードマン族を解放同盟に参加させるか。それに関して適役はいるか?」
ちらり
「は!リザードマンに知己がおり、我々と接点のある人物が適任かと。」
ちらり
「確かに。リザードマンに知己がいると交渉がやりやすいだろう。」
ちらり
(・・・・・・)
(何故、こちらをちらちら見るのですか?!)
「ところで、貴君の仲間、そちらのリザードマンはそれなりの家の出だと聞き及んでいる。」
つぎは湖に行かなくてはならない様だ。
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